労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]  [顛末情報]
概要情報
事件番号・通称事件名  中労委令和元年(不再)第35号
アンジュエトワル不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  Xユニオン(「組合」) 
再審査被申立人  株式会社Y(「会社」) 
命令年月日  令和2年7月15日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、組合が、組合員Aの労働問題等を交渉事項として団体交渉を申し入れたところ、会社が、①組合の要求する期日までに文書回答をしなかったこと、②申立外労働組合の顧問に交渉を依頼したこと、及び組合と会社との間で合意していた第2回団交の日時について延期を申し出たこと、③組合との第1回団交の様子を秘密録音したことが不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事案である。
2 初審神奈川県労委は、救済申立てに係るいずれの事実も不当労働行為に該当しないとして救済申立てを棄却したところ、組合は、これを不服として、再審査を申し立てた。
3 再審中労委は、本件申立てを棄却した。 
命令主文  本件再審査申立てを棄却する。 
判断の要旨  (1) 組合からの平成29年(以下、平成29年を略)9月30日付け団体交渉申入れ(「本件申入れ」)に対する会社の以下の対応は、労組法7条2号の不当労働行為(正当な理由のない団体交渉拒否)に当たるか。
ア 組合の要求する期日までに会社が文書回答をしなかったこと。
 組合が、第1回団交の前に、本件申入れにより期限付きの文書回答を求めた行為は、事前に会社と調整した上で行われたものではなく、組合の一方的な自己都合による要求にすぎず、会社が組合の要求どおりに文書回答をすべき義務を負う根拠はない。したがって、組合の要求する期日までに会社が文書回答をしなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に当たらず、労組法7条2号の不当労働行為に該当しない。
イ 会社が、申立外労働組合の顧問が作成した10月31日付けの書簡(「顧問書簡」)及び11月2日付けの文書(「会社文書」)により、11月16日に開催を予定していた第2回団交の延期を求めたこと、及びいつ団体交渉を開催するかについて回答しなかったこと。
(ア) 顧問が顧問書簡において団体交渉の延期を求めたことは、会社の委任を受けたものではなく、会社が団体交渉の延期を求めたとはいえない。
(イ) 会社は会社文書で社長の体調不良により団体交渉を延期したい旨を述べ、かつ、診断書も提出しているので、会社の団体交渉の延期申出には相応の理由がある。また、会社は11月9日に神奈川県労委にあっせんの申請をして、話合いの場を設定している。一方、組合は、会社に対して団体交渉の延期の申出に対する可否の連絡をしておらず、抗議を申し入れたこともなく、団体交渉の再設定のための連絡も行っていない。組合は、会社があっせんの申請をしたことを知ると、会社が団体交渉を再設定する意思を有しているかを確認することなく、団体交渉予定日である11月16日を待たずして、同月14日に救済申立てを行っている。こうした経緯からすると、団体交渉が開催されていない原因を会社の責めにのみ帰すことはできず、会社の行為は労組法7条2号の不当労働行為に該当しない。
(2) 会社は顧問に組合との交渉を委任したか否か。委任したとした場合、顧問が作成した10月31日付けの文書(「顧問文書」)及び顧問書簡を組合に送付し、第2回団交の延期を求めたことは、労組法7条3号の不当労働行為(組合の運営に対する支配介入)に当たるか。
 顧問書簡中の「顧問が申立外労働組合の組合員から、社長が困っているので相談に乗ってほしいと頼まれた」との記載からは、顧問が会社から交渉を依頼されたことはうかがえない。他に顧問書簡にも顧問文書にも会社が顧問に組合との交渉を委任したことを示す記載はない。
 むしろ、顧問書簡中の「組合の執行委員長(「委員長」)とできれば一度個人的に話をしたいと思います。電話でも下さい。」との記載からは、顧問は個人として社長の相談に応じたものであると容易に推認することができる。11月1日の委員長と顧問との電話でのやり取りにおいても、顧問は、団体交渉に出席する意思はない旨を委員長に伝えている。これらの事実から、会社が顧問に組合との交渉を委任したとは認められない。なお、会社は顧問書簡等を組合に送付しているが、顧問書簡の上記記載に鑑みると、顧問書簡の送付を捉えて、会社が組合の運営に対して支配介入を行ったものということもできず、労組法7条3号の不当労働行為には該当しない。
(3) 会社が、第1回団交において、団体交渉の様子を組合から事前の承諾を得ずに録音をしたことは、労組法7条2号の不当労働行為(不誠実な団体交渉)に当たるか。会社が録音テープを提出しなかったことは、同条3号の不当労働行為に当たるか。
ア 当時、会社と組合との間で録音を禁ずる明確な団体交渉ルールが存在していたわけではなく、第1回団交においてもこのことについて議論されることはなかった。また、会社は、本件録音行為を行った理由について、それ以前に団体交渉の経験がなく団体交渉における組合の要求や主張を正確に理解するためである旨の弁明をするところ、会社はそれ以前に組合との団体交渉の経験がないこと等に照らせば相応に理由がある。さらに、会社の本件録音行為により第1回団交の運営に支障が生じた形跡もない。これらの事情の下では、会社が第1回団交の様子を組合の事前承諾を得ることなく録音したことは不誠実な交渉態度とはいえず、労組法7条2号の不当労働行為に該当しない。
イ 審査手続において、会社が録音テープを提出せずに録音テープを基に第1回団交の内容を主張することは、本来、当事者の活動として自由に行える事柄であり、会社のこのような行為により組合の組織ないし運営に対し悪影響が生ずることは想定し難く、組合の組織ないし運営に対し特別の支障が生じたことの立証もない。したがって、会社の当該行為は労組法7条3号の不当労働行為に該当しない。 
掲載文献   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神奈川県労委平成29年(不)第29号 棄却 令和元年8月7日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約429KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。