労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委平成29年(不)第29号
アンジュエトワル不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和元年8月7日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、①組合が会社に対し、組合員であるA2の労働問題等を交渉事項として団体交渉を申し入れたところ、会社が組合の指定した期限までに文書回答をしなかったこと、②C1労働組合のC2顧問に交渉を依頼したこと、及び組合と会社との間で合意していた団体交渉の日時について延期を申し出たことが、①は労働組合法第7条第2号に、②は同条第2号及び第3号にそれぞれ該当する不当労働行為であるとして、救済申立てのあった事件である。
 また、組合は、本件申立てに係る第2回調査期日において、③会社が、組合との団体交渉の様子を秘密録音したことは、労組法第7条第3号に該当する不当労働行為であるとして、請求する救済内容及び申立事実を追加した。
 神奈川県労働委員会は申立てを棄却した。 
命令主文  本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合からの平成29年9月30日付け団体交渉申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点①)。
 確かに、会社は、組合からの29.9.30要求書による申入れに対し、組合が同文書で指定した平成29年10月13日までの間に文書で回答していない。また、団体交渉の予定日であった平成29年10月20日までの間にも、組合に対し一切連絡しておらず、こうした会社の対応に間題がないわけではない。
 しかしながら、この文書回答の期限は、事前に組合が会社と調整した上で設定した期限ではなく、組合がいわば一方的に指定したものであり、この期限までに会社が文書で回答をしなかったとしても、そのことのみをもって不当労働行為に当たるということはできない。
 会社は、文書回答には応じなかったものの、組合が要求した日時に組合事務所を訪ね、予定どおり第1回団交は開催されている。そして、会社は、この第1回団交において、29.9.30要求書に記載されている事項について、組合の質間に対し会社の認識を回答している。さらに、会社は、29.10.31会社回答書により、29.9.30要求書に記載されている事項について、文書で回答を行っている。
 以上要するに、会社は、組合が指定した期眼までに文書回答を行わなかったものの、組合が要求した日時で第1回団交に応じ、29.9.30要求書で組合が求めたことに対し、会社は第1回団交ないし29.10.31会社回答書において回答しているのであるから、こうした経過をみれば、組合からの29.9.30要求書による団体交渉申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとはいえない。

2 平成29年10月20日に開催された団体交渉後、会社が組合に対してC1労働組合のC2顧問が作成した同月31日付け文書等を送付したこと、及び同文書等において会社が同年11月16日に開催を予定していた団体交渉の延期を求めたことは、不誠実な交渉態度及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点②)。
ア 支配介入について
 C2顧問は、個人として会社のB社長の相談に応じたものであると容易に推測することができる。平成29年11月1日の組合A1委員長とC2顧間との電話でのやり取りにおいても、C2顧問は、団体交渉に出席する意思はない旨をA1委員長に伝えているのであるから、会社が交渉をC2顧問に委任したとは到底認められず、会社が交渉をC2顧問に委任したという組合の主張は、その前提を欠き、失当というほかない。
イ 団体交渉拒否について
 本件当事者間において、第1回団交以降、団体交渉は開催されていないが、団体交渉が開催されていない原因を会社の責めにのみ帰すことは妥当ではない。延期を申し入れた会社から連絡がなかったとしても、組合から団体交渉の日時を再設定するなどの連絡を行うべきところ、このような会社の姿勢を確認もしていないのであるから、29.11.2文書において会社が平成29年11月16日に開確を予定していた団体交渉の延期を求めたことを、直ちに団体交渉の拒否と同視できるものではなく、不誠実な交渉態度ということもできない。
したがって、会社が、29.11.2文書によって、団体交渉の延期を申し入れたこと自体を、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるということはできない。

3 平成29年10月20日に開催された団体交渉において、会社が団体交渉の様子を組合から事前の承諾を得ずに録音したことは、不誠実な交渉態度及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点③)。
ア 会社が、第1回団交のやり取りを組合に事前に承諾を得ることなく録音したことに当事者間に争いはなく、こうした行為は労使間の信頼関係を阻害することにもなり得るから、会社の本件録音行為に間題がないわけではない。
 しかしながち、本件当事者間において、録音を禁ずる明確な団体交渉ルールが存在していたとの事実はなく、第1回団交においてもこのことについて議論されることはなかった。
 会社が、本件録音行為を行ったのは団体交渉の経験がなく、団体交渉における組合の要求や主張を正確に理解するためであると主張することにも相応の理由がある。一方で、組合は、会社が何らかの不当な目的で本件録音行為を行ったとの主張及び立証をしていない。
 以上のことから、本件録音行為に問題がないとはいえないが、不誠実な交渉態度に当たるということはできない。
イ また、組合は、会社が秘密録音した第1回団交の内容の全部を、組合又は労働委員会に開示することなく、会社に都合の良い部分のみを同交渉の内容として本件審査手続において主張することが労組法第7条第3号に該当する不当労働行為であると主張する。
 しかしながら、組合は、本件録音行為を基に第1回団交の内容を本件審査手続において会社が主張することで、組合の組織ないし運営にいかなる支障を与えるのかについて何ら主張及び立証を行っていない。
 したがって、組合の主張は採用することができない。

 1でみたとおり、組合からの29.9.30要求書による団体交渉申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たらず、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為ではないと判断する。
 また、2でみたとおり、29.10.31C2書簡及び29.10.31C2文書を組合に送付したことは、労組法第7条第3号に該当する不当労働行為ではないと判断し、同文書等において会社が平成29年11月16日に開催を予定していた団体交渉の延期を求めたことも、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為ではないと判断する。
 さらに、3でみたとおり、本件録音行為は、労組法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為ではないと判断する。  
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委令和元年(不再)第35号 棄却 令和2年7月15日
 
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