事件番号・通称事件名 |
東京都労委平成28年(不)第86号
JXTGエネルギー不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y会社(「会社」) |
命令年月日 |
令和2年1月21日 |
命令区分 |
却下・棄却 |
重要度 |
|
事件概要 |
平成24年12月末日のA1書記長の退職に伴い、会社で就労する
組合の組合員が存在しなくなり、それ以降、会社は、組合との団体交渉を行っていない。
本件は、A1書記長の退職以降における、組合による団体交渉申入れに対する会社の対応が、正当な理由のない団体交渉の拒否
に当たるか否かが争われた事案である。
東京都労働委員会は、申立てを却下し、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てのうち、平成27年12月12日以前に申し入れた団体交
渉に係る申立てを却下し、その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 却下等に係る主張について
本件の申立ては、28年12月12日にされたものであるから、申立ての1年前である27年12月12日以前に行われた団体
交渉の申入れに係る組合の申立ては、労働組合法第27条第2項及び労働委員会規則第33条第1項第3号の規定により却下を免
れない。
2 会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かについて
ア A2及びA3の解雇撤回要求関係
上記要求の議題は、会社と組合の組合員との雇用関係が継続していた当時からの労使間の紛争であり、本件申立時においてもな
お未解決のままとなっているものということができるので、組合はこの事項について労働組合法第7条第2号の「使用者が雇用す
る労働者の代表者」に該当するといえる。
しかしながら、一般に、裁判所あるいは労働委員会に当該案件が係属中であることを理由として団体交渉を拒否することは許さ
れないといえようが、本件の場合には、①本件団体交渉申入れの時点では、A2及びA3の解雇からそれぞれ約40年又は約32
年が経過していたこと、②この間、A2の解雇が不当労働行為に該当しない旨の判断及びA3の解雇が有効である旨の判決がいず
れも最高裁決定により確定していたこと、③A3の解雇が不当労働行為に該当しない旨の命令が大阪府労委によってされていたこ
とといった事情が認められる。
そうすると、既に上記の裁判所あるいは労働委員会の手続の中で双方の主張が尽くされたことが容易に推認されるところであ
り、その結果として会社の対応が支持された以上、会社が異なる法的判断が示されない限りその方針を変えないとの態度を示した
としても、組合が裁判所あるいは労働委員会の判断が不当であるとの客観的根拠を示していない本件にあっては、相応の合理性の
ある対応というべきである。
会社が、上記要求を議題とする団体交渉の必要性について疑問を抱き、その疑問を解明するために要求の理由や趣旨・目的等を
具体的に文書で明らかにするよう求めたことには相応の根拠があると認められるところ、組合が、そうした会社の疑問を払拭すべ
く対応したと認めることはできない。
したがって、会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否であるということはできない。
イ A4の頸肩腕症候群に係る欠勤控除等撤回要求関係
上記要求の議題は、会社と組合の組合員との雇用関係が継続していた当時からの労使間の紛争であり、本件申立時においてもな
お未解決のままとなっているものということができるので、組合はこの事項について労働組合法第7条第2号の「使用者が雇用す
る労働者の代表者」に該当するといえる。
しかしながら、一般に、裁判所あるいは労働委員会に当該案件が係属中であることを理由として団体交渉を拒否することは許さ
れないといえようが、本件の場合には、①本件団体交渉申入れの時点では、欠勤控除から約33年が経過していたこと、②A4が
提起した民事訴訟に係る請求葉却の判決が確定していたこと、③欠勤控除の不当労働行為該当性について都労委、中労委、東京地
裁によって否定されていたことといった事情が認められる。
そうすると、既に裁判所あるいは労働委員会の手続の中で双方の主張が尽くされたことが容易に推認されるところであり、その
結果として会社の対応が支持された以上、会社が異なる法的判断が示されない限りその方針を変えないとの態度を示したとして
も、組合が裁判所あるいは労働委員会の判断が不当であるとの客観的根拠を示していない本件にあっては、相応の合理性のある対
応というべきである。
会社が、上記要求を議題とする団体交渉の必要性について疑問を抱き、その疑問を解明するために要求の理由や趣旨・目的等を
具体的に文書で明らかにするよう求めたことには相応の根拠があると認められるところ、組合が、そうした会社の疑問を払拭すべ
く対応したと認めることはできない。
したがって、会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否であるということはできない。
ウ 便宜供与要求(組合掲示板張り替えのためのセキュリティ・カード無条件貸与要求、18階会議室の暫定使用要求)関係
便宜供与要求については、組合が労働組合法第7条第2号の「使用者が雇用する労働者の代表者」に該当すると認められるもの
の、本件団体交渉申入れの時点において、組合が会社と団体交渉を行っても進展が見込まれるような状況にあったとはいえず、改
めて団体交渉を行っても問題を解決する余地が乏しかったといわざるを得ない。
会社が、上記要求を議題とする団体交渉の必要性について疑問を抱き、その疑問を解明するために要求の理由や趣旨・目的等を
具体的に文書で明らかにするよう求めたことには相応の根拠があると認められるところ、組合が、そうした会社の疑問を払拭すべ
く対応したと認めることはできない。
したがって、会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否であるということはできない。
エ A5及びA4の賃金差別是正要求関係
上記要求の議題は、組合はこの事項について労働組合法第7条第2号の「使用者が雇用する労働者の代表者」に該当するといえ
る。
しかしながら、本件の場合には、①本件団体交渉申入れの時点では、組合が不当労働行為であると主張する平成7年あるいは
12年の会社の不作為(A5及びA4を昇格させなかったこと)からそれぞれ約21年又は約16年が経過していたこと、②A5
及びA4の昇格については、7年に係るものについてと12年に係るものについての二度にわたって不当労働行為に該当しない旨
の命令が大阪府労委によってされていたことといった事情が認められる。
会社が、上記要求を議題とする団体交渉の必要性について疑問を抱き、その疑問を解明するために要求の理由や趣旨・目的等を
具体的に文書で明らかにするよう求めたことには相応の根拠があると認められるところ、組合が、そうした会社の疑問を払拭すべ
く対応したと認めることはできない。
したがって、会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否であるということはできない。
オ A4の再雇用要求関係
上記要求の議題は、組合はこの事項について労働組合法第7条第2号の「使用者が雇用する労働者の代表者」に該当するといえ
る。
しかしながら、本件の場合には、上記イのとおり、①A4の再雇用拒否について当委員会が不当労働行為に該当しない旨の命令
を発したこと、②A4が提起した地位確認等請求訴訟に係る請求棄却の判決が確定していたことといった事情が認められる。
会社が、上記要求を議題とする団体交渉の必要性について疑問を抱き、その疑問を解明するために要求の理由や趣旨・目的等を
具体的に文書で明らかにするよう求めたことには相応の根拠があると認められるところ、組合が、そうした会社の疑問を払拭すべ
く対応したと認めることはできない。
したがって、会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否であるということはできない。
カ その他要求関係
(ア)
組合は、27年12月16日から28年3月9日までの間の本件団体交渉申入れにおいて、①職場環境に関する情報開示要求、②C会社との経営続合に係る要求、⑤「マイナンバ
一の取扱いに係る申入れ」の件を団体交渉議題として掲げている。
しかしながら、これらの要求はいずれも現に会社において就労する従業員の労働条件又は職場環境に関わる要求であるところ、
本件においては、
24年12月のA1書記長の退職に伴い、組合の組合員全員が会社を退職していたのであるから、これらの団体交渉の申入れ時点においては、現に会社で就労する組合員は存在し
なかったことになる。
したがって、これらの議題については、組合が労働組合法第7条第2号の「使用者が雇用する労働者の代表者」には該当しない
といわざるを得ないので、会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否であるということはできない。
(イ)
組合は、28年1月13日付「貴組合からの2015年末から2016年始までの各出状文書について」の件についても要求しているが、ここで摘示されている文書は前記の議題
に関する28年1月会社回答にほかならないので、この点に関する判断は、前記アないしオ及びカ(ア)における各議題に係る判
断と同ーである。
(ウ)
A1及びA4が被った損害賠償の件に関する議題は、組合はこの事項について労働組合法第7条第2号の「使用者が雇用する労働者の代表者」に該当するといえる。
しかしながら、本件の場合には、①組合と会社とは、18年度一時金支給及び21年度一時金支給についてそれぞれ妥結してい
ること、②18年度一時金支給について、当委員会が不当労働行為救済申立てを却下していること、③21年度一時金支給につい
て、当委員会が不当労働行為に該当しない旨の命令を発していることといった事情が認められるにもかかわらず、組合は、本件団
体交渉申入れにおいて、組合が不当労働行為であると主張する一時金支給から9年余り又は約6年が経過した後に、卒然として本
件損害賠償請求を行ったことが認められる。
これらの事情に加え、当委員会に顕著な組合と会社との本件に至る前の労使間の紛争の経緯等に照らすと、本件においては、会
社が、上記要求を議題とする団体交渉の必要性について疑問を抱くことは無理からぬものであると認められるところ、組合が、そ
うした会社の疑問を払拭すべく対応したと認めることはできない。
したがって、会社の対応が正当な理由のない団体交渉拒否であるということはできない。 |
掲載文献 |
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