労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委平成30年(不再)第11号
中央医院外1社不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  Xユニオン(以下「組合」) 
再審査被申立人  Y1(以下「Y1院長」) 
再審査被申立人  株式会社Y2(以下「Y2社」) 
命令年月日  令和元年11月20日 
命令区分  棄却・却下 
重要度   
事件概要  1 本件は、Y1院長が、①組合員A1の勤務日減少等の事項を議題とする団体交渉(以下「団交」)の申入れに応じなかったこと、②A1を解雇したこと(以下「本件解雇」)、③組合員A2の解雇通告等の事項を議題とする団交の申入れに応じなかったこと(以下、①及び③の団交申入れを総称して「本件団交申入れ」)、Y2社が、④A2の解雇通告等の事項を議題とする団交の申入れに対して、団交の日程の変更を要求したことが、労働組合法(以下「労組法」)7条所定の不当労働行為に当たるとして救済申立てがあった事件である。

2 初審神奈川県労働委員会は、Y1院長が団交を拒否したことは、労組法7条2号の不当労働行為に該当すると判断して、Y1院長に対し、団交応諾及び文書手交を命じ、その余の申立てを棄却する初審命令を発したところ、組合は、これを不服として再審査を申し立てた。また、組合は、再審査において、Y2社が上記①の団交申入れに応じなかったことが労組法7条2号の不当労働行為に当たるとして救済申立てを追加した(以下「追加的申立て」)。

3 再審中労委は、再審申立てを棄却し、追加的申立てを却下した。 
命令主文  (1) 本件再審査申立てを棄却する。
(2) 再審査申立人の再審査における追加的申立てを却下する。 
判断の要旨  (1) 争点1(Y1院長は、A1及びA2との関係で、労組法第7条の使用者に当たるか)
 C医院では、Y2社から紹介を受けたA1及びA2(以下「組合員ら」)を含む看護補助者の各月の勤務日や日勤及び夜勤の割り振りを決定し、勤務時間を定めるなどの雇用管理を行っていたのであるから、組合員らの労務提供の相手方はY1院長であった。組合員らは、看護師の指揮命令を受けて、看護補助者としての労務に従事していたのであるから、組合員らとY1院長との間に指揮命令関係が存在していた。C医院では、看護補助者ごとの賃金を定め、Y2社からの各月の賃金総額等を計算した計算書を受領し、合計金額相当額をY2社の口座に振り込み、各看護補助者発行の領収書を受領していたことからみて、組合員らに対し実質的に賃金を支払っていたのはY1院長である。
 以上を総合すると、組合員らとY1院長は、黙示の労働契約が成立していたこと等が認められる。
 したがって、Y1院長は、A1及びA2との関係で、労組法7条の使用者に当たる。

(2) 争点2(本件解雇は、組合員であることを理由とする不利益取扱いに当たるか)
 C医院では、A1の採用以来の勤務態度等が不適切であると判断して平成26年11月の勤務日の減少を決めた後も、A1の勤務態度は改まらず、看護師等が注意をし、事務長が事情聴取をしても反省の姿勢を示さないなど、勤務態度に問題があると判断して、A1を解雇したことが認められる。
 なお、C医院で勤務日の減少を決定した後、本件解雇をするまでの間に、組合はA1の組合加入を公然化(同年11月26日付け書面によりA1の組合加入を通知)し、団交を申入れたところ、Y1院長がこれを無視している事情はある。しかし、同年11月29日及び12月25日における事務長及び看護師の対応は、A1の不適切な勤務態度等に起因するものであって、A1の組合加入公然化前における同人の不適切な勤務態度等への看護師等の対応と異なるところはなく、一連のものとみることができるから、上記事情が本件解雇の理由であるとは認め難い。
 以上によれば、本件解雇は同人が組合員であることを理由とするものでないから、労組法7条1号の不当労働行為に当たらない。

(3) 争点3(Y1院長が本件団交申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団交拒否に当たるか)
 組合の本件団交申入れにおける議題は、組合の構成員である労働者の労働条件その他待遇に関する事項であって、使用者に処分可能なものであるから、義務的団交事項に当たる。したがって、Y1院長が組合からの本件団交申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団交拒否であり、労組法7条2号の不当労働行為に当たる。

(4) 争点4(追加的申立ては、再審査の範囲を超えるか。範囲内であるとした場合、Y2社は、A1との関係で労組法7条の使用者に当たるか)
 組合は、再審査において追加的申立てをしているが、これらは初審において救済を申し立てた事実ではない。不服の申立ては、初審において請求した範囲を超えてはならない(労働委員会規則54条1項ただし書)から、追加的申立ては同項ただし書に違反するものであり、不適法として却下を免れない。

(5) 争点5(Y2社は、A2との関係で労組法7条の使用者に当たるか)
 Y2社は有料職業紹介事業を行う者として、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんする地位にあり、求職者であるA2との関係で雇用主ではない。もっとも、雇用主以外の事業主であっても、労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、労組法7条の使用者に当たると解される。しかるところ、組合は、種々の根拠を挙げて、Y2社はA2との関係で労組法7条の使用者に当たると主張するので、以下判断する。
 看護補助者の賃金の額はC医院が決定したものであり、Y2社はC医院から看護補助者の賃金として振り込まれた金員の中から看護補助者への賃金の支払を代行していたにすぎない。また、Y2社はY1院長の賃金の支払が遅延したときには立替払までしているが、これは看護補助者が過酷な状態に置かれることをおもんぱかって行ったにすぎず、Y2社に対する労務の対価として支給したものではない。
 Y2社は、本来、C医院が行うべき組合員らを含む看護補助者の勤務希望日や看護師等の指示をまとめる業務を代行していたことにすぎず、看護補助者の勤務日や日勤及び夜勤の勤務割りはC医院が決定していたものである。
 A1の本件解雇は、C医院の事務長が決定していたものであり、A2の解雇は、事務長と主任の看護師が決定して通告したものである。Y2社は、上記解雇に関して、C医院に代わって解雇通告した旨の連絡をしたにとどまる。
 以上のとおり、組合の上記各主張は採用することができない。
 そうすると、Y2社は、自らが紹介したA2を含む看護補助者の勤務日や日勤及び夜勤の勤務割りの決定、賃金の支払等の基本的な労働条件ないしそれに関連する事項について、部分的とはいえ雇用主であるY1院長と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったということはできない。したがって、Y2社はA2との関係で労組法7条の使用者に当たらない。

(6) 小括
 Y2社A2との関係で労組法7条の使用者に当たらないから、争点6(Y2社が組合からの団交申入れに対して団交日程の変更要求したことは、正当な理由のない団交拒否に当たるか)について判断するまでもなく、Y2社の団交日程の変更要求に係る申立ては理由がない。したがって、初審命令のうち同申立てを棄却した部分は、結論において相当である。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神労委平成27年(不)第5号及び第10号 一部救済 平成30年1月29日