概要情報
事件番号・通称事件名 |
山口県労委平成29年(不)第3号
日本交通産業不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y会社(「会社」) |
命令年月日 |
平成30年11月22日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
被申立人会社は、申立人組合員A2及びA3が月間売上額が30万円に満たない月があったことを理由に、「低生産性社員」であると認定した上で、A2の平成29年4月14日以降の勤務形態及びA3の同年5月15日以降の勤務形態を、昼夜混合の勤務シフト(平日の日勤のほか、17時以降の夜勤や週末の勤務を16日周期で組み合わせた勤務シフト)から平日日勤限定の勤務シフトへと変更した。
本件は、A2らに対する上記の勤務シフトの変更が不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件で、山口県労働委員会は、申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 争点1 会社による申立人組合員A2らに対する本件勤務シフト変更は、労組法第7条第1号違反の不利益取扱いに当たるか。
(1)不益性について
A2らは、本件シフトの変更によって賃金支給額が減少する等の経済的不利益を受けている。また、A2らには、会社から「低生産性社員」と認定され、その呼称を用いられたことによる経済的不利益以外の不利益が全くないとまではいえない。
(2)本件勤務シフト変更の合理性及び制度適用の合理性について
ア 新制度の導入について
労基署及び検察庁の指摘も踏まえ、労使間で了解可能な疑義の生じにくい労働時間を設定し管理する必要がある等の事情から新制度導入に至ったという会社主張は概ね理解できる。
また、会社は、平日日勤への変更、低生産性従業員の名称及び基準等を含む新制度の内容を組合員に周知し、口頭でも説明しているが、その後、申立人組合から何ら異議のないまま労使間の一切の紛争を解決する等の内容を含む労使合意書が締結されており、申立人組合から異議があったとの主張もないことから、申立人組合員に限って新制度が適用されるものではないことを申立人組合も認めていると考えられる。
イ 本件勤務シフト変更に至る新制度の内容について
本件勤務シフト変更に至るまで、会社は大きく3つの過程を設けている。
① 月間売上額について
まず、月間売上額30万円を下回った乗務員が本件勤務シフト変更と同様の勤務シフト変更の対象となるが、この対象者の範囲は明白であるため、申立人組合員とそれ以外で差を設けることはできない。
事実、申立人組合分会員であるA4は30万円を下回っていないため平日日勤に変更されていない一方、申立人組合員以外であっても30万円未満であったため対象となった者もいる。
② 労働時間と生産性の整合性の確認について
次に、月間売上額30万円を下回った乗務員について、運行管理者が乗務記録簿に基づき、労働時間と生産性の整合の確認を行うが、A2については一定の確認が行われており、A3についても特に確認がされていないと認めるべき事情はない。
③ 協議による整合性の確認について
最後に、上記の整合性が確認できず、月間売上額30万円を下回った乗務員について、報告書の提出、事情聴取、改善案の提出等により精緻に検証し、実労働時間について協議を行う。
組合は、最終陳述書において、A2らと同様に月間売上額が30万円未満であった申立人組合員以外の労働者の例を挙げ、当該労働者に対しては、協議の結果、「低生産性社員」と認定せず、不利益取扱いを行わなかったにもかかわらず、組合員A2らとの間では「協議」すら行わず、「低生産正社員」と認定し、不利益取扱いを行った旨主張している。
この点、会社主張によれば、A1については、改善指導書を渡すと同時に新制度の協議や報告書の提出を持ちかけたところ、「今までどおり働いていくので何も言われる筋合いはない」といった回答に終始したため具体的協議ができなかった、A3についても、同様のやりとりがあって具体的な協議ができなかったとしている。
本件勤務シフト変更直後にA2らによって録音された内容から、何度同じことを言われてもA2が自分の営業スタイルを変えないと主張していたこと、A2らが会社に対して反抗的と思われる態度をとっていることが確認でき、会社の上記主張を裏付けていると考えられる。
したがって、会社がA2らと協議をしなかったことについて、それ相応の理由があったと考えられることから、手続に問題があるとは認められない。
ウ 意向に反する勤務シフトの変更について
申立人組合は、労働者の意向に反して、平日日勤への勤務シフト変更という不利益取扱いを受けたのは申立人組合員のみであると主張し、この理由として、申立人組合員以外で同様の不利益取扱いを受けたCは、健康上の問題があり、自ら希望して勤務シフト変更になったと推忍される旨を挙げるが、Cが自ら希望して本件勤務シフト変更と同様の勤務シフト変更になったと判断する事実の疎明はない。Cの勤務シフト変更に当たっても、新制度に基づく一定の手続が取られている。
エ 以上のとおり、新制度導入の経緯及び内容に合理性があり、新制度の適用も公平に行われていることから、会社に不当労働行為意思は認められない。
2 争点2 会社による申立人組合員A2らに対する本件勤務シフト変更は、労組法第7条第3号違反の支配介入に当たるか。
本件勤務シフト変更を伴う新制度は、申立人組合員、申立人組合員以外の労働者を問わず全乗務員を対象としており、手続にも問題がないから組合活動を阻害することを企図したものとはいえない。
したがって、会社による申立人組合員A2らに対する本件勤務シフト変更は、労組法第7条第3号の支配介入に当たらない。
3 総括
会社の対応は、申立人組合員に対する不利益取扱い及び申立人組合に対する支配介入には該当しない。 |
掲載文献 |
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