概要情報
事件番号・通称事件名 |
福岡県労委平成29年(不)第8号
太宰府タクシー不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
会社Y(「会社」) |
命令年月日 |
平成30年11月2日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、①平成29年5月31日、申立人組合のA1執行委員長を雇止めしたこと、②組合の29年6月24日付け、同年7月11日付け、同月12日付け、同年8月10日付け、同年9月28日付け、同年11月23日付け及び同年12月25日付けの各団体交渉申入れに応じなかったことが不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件で、福岡県労働委員会は、会社に対し、A1の雇止めがなかったものとしての取扱い、同人の原職復帰等、バックペイ並びに①及び②ついて文書の交付及び掲示を命じた。 |
命令主文 |
1 被申立人は、申立人執行委員長A1に対する平成29年5月31日付け雇止めをなかったものとし、同人の嘱託再雇用契約を翌6月1日付けで更新したものとして取り扱い、原職に復帰させるとともに、同人に対し、同日から原職復帰までの間、賃金相当額として、月額359,635円を基に算定した金員を支払わなければなら.ない。
2 被申立人は、申立人の平成29年6月24日付け、同年7月11日付け、同月12日付け、同年8月10日付け、同年9月28日付け、同年11月23日付け及び同年12月25日付けの団体交渉申入れに対し、誠実に応じなければならない。
3 被申立人は、本命令書写しの交付の日から10日以内に、下記内容の文書(A4判)を申立人に交付するとともに、A2判の大きさの白紙(縦約60センチメートル、横約42センチメートル)全面に下記内容を明瞭に記載し、被申立人事業所内の従業員が見やすい場所に14日間掲示しなければならない。
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平成 年 月 日
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組合
執行委員長 A1殿
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会社
代表取締役 B1
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当社が行った下記の行為は、福岡県労働委員会によって労働組合法第7条第1号、第2号及び第3号に該当する不当労働行為と認定されました。
今後は、このようなことを行わないよう留意します。
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記
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1 平成29年5月31日、貴組合のA1執行委員長を雇止めしたこと。
2 貴組合の平成29年6月24日付け、同年7月11日付け、同月12日付け、同年8月10日付け、同年9月28日付け、同年11月23日付け及び同年12月25日付けの団体交渉申入れに応じなかったこと。 |
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判断の要旨 |
1 本件雇止めが不当労働行為に当たるかについて
ア 不利益性について
会社における定年後の再雇用制度では、就業を希望する者全員を満65歳まで再雇用するとされているにもかかわらず、A1について、嘱託再雇用の更新を拒絶したことは、「不利益な取扱い」といえる。
イ 本件雇止めの理由について
被申立人は、A1のタクシー乗務員としての不適格性、A1の非違行為及び会社の指導に対するA1の態度を理由として雇止めをしたと主張している。
被申立人は、A1が嘱託再雇用される前の非違行為についても、A1のタクシー乗務員としての不適格性を示すと主張しており、たしかに、A1について、暴行、交通違反、交通事故、乗客とのトラブル等の事実があったことが認められるが、(略)同人が嘱託再雇用される際、これらについて、何ら注意喚起することなく雇用が継続されていることに鑑みれば、会社は、これらの嘱託再雇用前の事実について、同人の雇用を終了させる程度に重大なものとまでは認識していなかったと認められる。
嘱託再雇用後の事実について見ると、本件雇止めまでの半年間でのA1に対する苦情、事故及びトラブルは、懲戒処分を行ったものでも4日間の出勤停止処分にとどまっており、これらをもって雇止めの理由とすることは困難である。
被申立人は、A1が、上司からの指導にも一切耳を傾けず、指導効果がないことは明らかである旨主張しており、たしかに、元旦のトラブルに係る会社の指導に関して、「指導票に一部わかりました」と記載したこと、5月3日の苦情に係る会社の指導に対して指導票への改善欄の記載を拒否した事実が認められるものの、それ以外の場合は概ね指導を受け入れており、上司からの指導効果がないことは明らかであるとまではいえないとともに、上記のA1の態度をもって雇止めの正当な理由とは認めがたい。
以上のとおり、被申立人の本件雇止め理由に関する主張については、嘱託再雇用以前の事実を併せ考慮したとしても、正当なものとは認められない。
ウ 不当労働行為を推忍させる事実について
A1が約9年間組合の執行委員長を務め、組合活動の中心的な人物であったこと、本件雇止めを早急に決定していること、会社では料金メーターを不正操作するなど懲戒解雇事由に該当する行為を行った従業員に対しても雇止めは行われておらず、A1に対する本件雇止め以外に雇止めの事例はないこと等からすると、本件雇止めは、会社が組合の執行委員長であるA1を嫌悪し、同人を会社外に放逐することにより、組合活動を困難にさせることを企図して行われたものと十分推忍できる。
エ 結論
本件雇止めは、会社が組合活動の中心的存在であるA1を嫌悪してなされた不利益取扱いと認められ、同時に組合活動を萎縮させるものであるから、労組法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である。
2 本件団交申入れに対する会社の対応について
本件団交申入れは、組合内部での決議を経ておらず、A1一人の判断で勝手に決めたもので正当な団交申入れではない等の会社が独自の見解に固執し、団交に応じなかったことには正当な理由がなく、かかる会社の行為は労組法7条2号に該当する不当労働行為である。 |
掲載文献 |
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