労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  沖縄県労委平成28年(不)第3号・29年(不)第1号
祐愛会宮古の里不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合、X2組合(X1組合と併せて「組合ら」) 
被申立人  法人Y(「法人」) 
命令年月日  平成30年10月18日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   本件は、特別養護老人ホームを運営する法人がA2に対し、①A2が同施設入所者を転倒させたことを理由として平成27年8月31日及び平成28年8月19日付け懲戒処分をしたこと、②平成27年9月及び平成28年9月に労働契約を更新するに当たり、A2の賃金を従前より引き下げたこと、③平成27年12月賞与及び平成28年6月賞与につき、人事考課における低評価を理由に支給しなかったことが、不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件である。
 沖縄県労働委員会は、法人に対し、A2の懲戒処分及び賃金の引下げがなかったものとしての取扱い、賃金の差額の支払、賞与の支給並びに文書掲示を命じた。 
命令主文  1 被申立人は、申立人X2組合組合員A2に対して行った平成27年8月31日付け懲戒処分がなかったものとして取り扱い、同懲戒処分がなければ支給されるはずであった給与相当額を、同人に対し、支払わなければならない。
2 被申立人は、上記A2の平成27年9月及び平成28年9月の労働契約更新時の降給がなかったものとして、平成27年9月から平成29年8月までの同人の基本賃金の月額について、平成26年9月から平成27年8月までの基本賃金の月額と同額とし、既に支給した額との差額を、同人に対し、支払わなければならない。
3 被申立人は、平成27年12月の上記A2に対する賞与について、被申立人の賞与の計算式により、掛率を1.0、支給率及び査定率をl00パーセントとして算出して得た額を、行事不参加の回数に応じた減額を行うことなく、同人に対し、支払わなればならない。
 この場合、同年9月に基本賃金の降給はなかったものとして計算しなければならない。
4 被申立人は、平成28年6月の上記A2に対する賞与について、被申立人の賞与の計算式により、掛率を1.0、支給率及び査定率を100パーセントとして算出して得た額を、同人に対し、支払わなければならない。
 この場合、平成27年9月に基本賃金の降給はなかったものとして計算しなければならない。
5 被申立人は、上記A2に対して行った平成28年8月19日付け懲成処分がなかったものとして取り扱わなければならない。
6 被申立人は、本命令書を受領した日から15日以内に、別紙記載の内容を、縦80センチメートル横55センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に、楷書かつ黒色インクにて明瞭に記載し、特別養護老人ホームB2の正面玄関の職員が見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。
 (別紙略) 
判断の要旨  1 本件出勤停止処分の労組法第7条第1号該当性(争点1)について
 A2が本件骨折事故を起こしたことは、本件就業規則の懲戒事由に該当するが、A2が介護事故を起こしたのは本件骨折事故が初めてであるところ、本件骨折事故は、故意によるものではなく、過失によって惹起した事故である。
 しかも、法人は、ほかの介護事故に関与した職員に対し、これまで懲戒処分を科したことがない。それにもかかわらず、法人は、A2に対し、出勤停止処分という懲戒処分を科すことを決定し、その期間も本件就業規則の上限いっぱいの3か月間とし、その間は無給となる以上、A2の被った経済的不利益は極めて大きい。A2の注意義務違反に対する懲戒処分としては、本件出勤停止処分は不当に重い処分であるといわざるを得ず、極めて不合理なものである。
 本件出勤停止処分が不合理な処分であること及びX2組合結成以来の組合らと法人の間の対立関係が本件出勤停止処分を行った当時においても継続していたと認められることを総合すると、本件出勤停止処分は、A2が組合員であるが故に行われた不利益処分であると認められる。
 したがって、本件出勤停止処分は、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当する。

2 27年賃金引下げの労組法第7条第1号該当性(争点2)について
 A2に対する本件評価表による総合評価1との評価は、恣意を排除できない人事考課の仕組の下、根拠のない不合理な評価がなされたものである。
 A2は、ほかの介護職員と同様の介護業務に従事し、経験年数相応の介護技能を備えていると認められるにもかかわらず、ほかの介護職員(非組合員)が人事考課において総合評価3ないし5とされているのに対し、A2のみが何らの根拠もなく最低評価の1と評価され、両者の間に合理的な理由もなく明らかな格差がつけられている。法人は、この低評価等を理由に27年賃金引下げを行ったものであって、A2の被った経済的打撃は極めて大きい。そして、27年賃金引下げの当時においても組合らと法人の間の対立関係が継続していたと認めるのが相当である。これらの事情を総合すると、27年賃金引下げは、A2が組合員であるが故になされたものと認められる。
 したがって、27年賃金引下げは、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当する。

3 27年12月賞与不支給の労組法第7条第1号該当性(争点3)について
 法人が主張するA2の人事考課の低評価の理由については、A2のB3施設長に対する一部発言を除き、いずれも不合理であると認められる。
 法人は、行事不参加による賞与の減額を行ったものであると主張する。しかし、当該行事はA2の勤務時間外に行われていたので、法人が、A2に対して当該行事への参加を義務づける場合は、時間外労働又は休日労働の命令を発しなければならない。しかるに、当該行事について、法人からA2に対する時間外労働又は休日労働の命令は発せられておらず、法人がA2に対して同人の勤務時間外に開催された当該行事への参加を義務づける根拠はない。A2に参加義務のない当該行事への不参加を理由として、賞与を減額することは不合理である。
 法人は、A2のみを何らの根拠もなく最低の総合判定Cと評価し、27年12月賞与を支給しなかったものであって、A2が被った経済的打撃は極めて大きい。そして、組合らと法人の間の対立関係が27年12月賞与不支給の当時においても継続していたと認めるのが相当である。これらの事情を総合すると、27年12月賞与不支給は、A2が組合員であることの故をもって行われたものと認められる。
 したがって、27年12月賞与不支給は、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当する。

4 28年6月賞与不支給の労組法第7条第1号該当性(争点4)について
 (上記3と同様に)28年6月賞与不支給は、労組法第7条第1号に該当する。

5 本件譴責処分の労組法第7条第1号該当性(争点5)について
 A2が相次いで介護事故を起こしていることについて。法人が、A2に対し、何らかの懲戒処分を科そうとすることは理解できる。
 しかしながら、本件打撲事故は、A2の故意によるものではなく過失に起因して発生した事故であるし、その結果としてC3が負った傷害はそれほど重大なものではないこと、また、A2は本件打撲事故について反省していること、さらに、法人はほかの介護事故に関与した職員に対し、これまで懲戒処分を科したことはないことをも考慮すると、本件譴責処分は、重きに失する感は否めず、相当性を欠くものといわざるを得ず、不合理なものと評価せざるを得ない。
 法人は、X2組合と対立する関係にある中で、A2に対して不合理な懲戒処分を行ったものであり、A2が組合員でなければ、本件譴責処分は科されなかったであろうことが容易に推認できるから、本件譴責処分は、A2が組合員であることの故をもって行われたものと認められる。
 したがって、本件譴責処分は、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当する。

6 28年賃金引下げの労組法第7条第1号該当性(争点6)について
 (上記2と同様に)28年賃金引下げは、労組法第7条第1号の不利益取扱いに該当する。

7 本件懲戒処分の労組法第7条第3号該当性(争点7)について
 本件懲戒処分等は、法人が、X2組合執行委員長であるA2に対し、合理的な理由がなく、また、ほかの職員に対する取扱いとも異なり、懲戒処分、降給及び賞与の不支給という、労働者にとって最も重要な給与面において経済的打撃を与え、もって、組合員の組合活動を萎縮させ、組合を弱体化させる行為である。実際にも組合員がA2のみとなっていることから、組合の人的基盤が脅かされる事態となっている。これらの事実経過からすると、法人は、かかる事態の生起を企図し、あるいは認識していたものと認めるのが相当であるから、本件懲戒処分等は、労組法第7条第3号の支配介入に該当する。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委平成30年(不再)第63号 棄却 令和2年6月3日
 
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