労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  都労委平成27年(不)第66号
千代川運輸不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  平成29年5月23日 
命令区分  全部救済 
重要度   
事件概要   組合と会社は、労働者供給事業の実施について労働協約を締結しており、組合は会社に対し、組合員である日々雇用労働者(「以下「労供組合員」という。)を供給していた。
 本件は、組合の申入れによる平成27年度の労供組合員の賃上げに関する平成27年4月21日、5月21日及び6月10日の3回の団体交渉(以下「3回団体交渉を併せて「本件団体交渉」という。)について、
(1) 団体交渉に会社が応じる義務があったか否か、
(2) 応じる義務が会社にあった場合、会社が、組合が求めた会社の全部門に係る経営資料の提出に応じず、建材資材メーカー部門(以下「本件事業部門」という)の損益表を基に、賃上げ余力がないとしたこと等が、誠実な対応といえる否か、
 が争われた事件で、東京都労働委員会は、会社に対し誠実団交応諾並びに文書交付及びその履行報告を命じた。

 
命令主文  1 被申立人会社は、申立人組合が申し入れた、労働者供給契約に基づき申立人組合が被申立人会社に供給している日々雇用労働者の平成27年度の賃上げを議題とする団体交渉に、会社回答の裏付けとなる資料を示し、理由を説明する等して、誠実に応じなければならない。
2 被申立人会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合に交付しなければならない。
(略)
3 被申立人は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
 
判断の要旨  1 会社が本件団交に応じる義務があったか否かについて
(1) 団体交渉事項が特定されておらず、会社に団交応諾義務がなかった、2015春闘組合統一要求は宛先や日付が空欄で、内容に毎年変化がなく、儀礼化・形骸化していた等、会社に団交応諾義務がないとの会社の主張は採用できない。
(2) 会社は、最終準備書面において、初めて、労供組合員は、1日ごとに雇用契約が締結されるものであり、供給日における雇用契約が終了した後は、もはや労供組合員は、使用者が雇用する労働者に該当せず、そもそも会社に団交応諾義務は課せられていないと法解釈に係る主張をしている。
① 労供組合員は、組合が労働者供給契約を締結した事業主の求めに応じて組合から供給され、その事業主と日々雇用契約を締結して労働し、賃金を受け取っており、供給されない日においては、労供組合員とその事業主の間に、雇用関係は存在しない。
 しかし、本件供給契約は、契約期間が1年であるところ、原則として1年ごとに自動的に更新されるものとなっており、本件申立時においても、本件供給契約に基づき、組合から会社に労働者が供給されていた。それゆえ、少なくとも、本件供給契約の期間中は、組合の組合員と会社との間において、雇用契約が成立していない間であっても、近い将来において雇用関係が成立する可能性が現実的かつ具体的に存在したといえる。
② そして、本件供給契約を含む組合と会社の間の労働協約に基づいて、労供組合員と会社の間で労働契約が締結され、会社が労供組合員の賃金、労働時間等を定めているのであるから、本件団体交渉の議題とされている労供組合員の賃上げに関して、会社は、労供組合員の労組法上の使用者に当たる。
2 本件団体交渉において会社は誠実に対応したか否かについて
(1) 会社による損益表等の説明について
 損益表は、会社が、会社の総勘定元帳等から、本件事業部門における車両1台当たりの売上げと経費の平均のみを抜き出し加工した資料であるところ、会社は、損益表の基となる資料等を何ら組合に示していないので、組合は、損益表だけではその数字の真偽及び内容を十分に検討することができない。
 したがって、損益表や会社の5月1日付回答書や5月21日の団体交渉における説明は、本件事業部門に限ってみても人件費総額や運転手の平均年収の推移等の分かる資料の開示等を求める組合の要求に対し、不十分であったといわざるを得ない。
(2) 損益表をみれば、賃上げ余力がないことは一目瞭然である旨の会社の主張について
① 会社においては、本件事業部門以外も同様に運送業務を行っており、業務内容や性質が全く異なる部門が存在しているわけではない。
 したがって、運送業務という同一の労働に従事している運転手の賃上げ余力を本件事業部門だけを取り出し、説明しようとする会社の態度は組合が疑問を持つのも当然といえる。
② 過去には、会社は、組合に貸借対照表や損益計算書を示したこともあり、会社全体の経営資料を踏まえて交渉を行ったこともあるのだから、組合が会社全体の経営状態ではなく、本件事業部門のみの資料である損益表しか開示しようとしない会社の態度に違和感を覚え、引き続き部門別の車輌台数、売上高、運送原価、人件費総額の推移や運転手の部門別平均年収の推移等4点の資料の提出を求めたのも無理からぬことである。
③ 本件審査手続において明らかになったことであるが、本件団体交渉当時、会社全体では黒字であり、会社の正社員数は、本件団体交渉前後の1年間で約30%増加している。
 会社は、このような状況下で実施された団体交渉において、賃上げ余力がない旨を説明していたのであるから、自らのかかる説明を裏付ける根拠として、組合の要求する4点の資料を全て提示するかどうかはともかくとして、少なくとも、組合が他部門を含む会社全体の経営状況と、その内訳としての本件事業部門の収支状況を正確に把握した上で、その内容を分析、検討して交渉に臨めるだけの資料を提示するなどして説明を行う必要があったというべきであり、損益表を提出して本件事業部門について説明したことをもって、組合の団体交渉に誠実に応じていたということはできない。
(3) 組合の要求に対し、満額回答した旨の会社の主張について 
 組合が、5月21日に50円でも100円でも賃上げしてほしいと述べたことをもって、それまでの方針を転換して、経営資料に基づく賃上げ余力に見合う賃上げ要求を放棄し、50円ないし100円の賃上げ回答が満額回答であるとの賃上げ要求に切り替えたとは考えられず、単なる例示とみるのが相当である。  
 したがって、会社が50円の賃上げ回答をしたことをもって、その根拠となる経営状況等を説明する必要がなくなったとはいえない。
(4) 結論
 会社は、組合の団体交渉申入れに応じ、本件団体交渉に代表者である社長が自ら出席し、資料を作成して説明をしているものの、本件団体交渉の中で、労供組合員の賃上げ要求に対し、賃上げ余力はないとの自らの回答についてその合理的根拠を必要な資料を示すなどして十分に説明したとはいえず、会社の対応は、不誠実な団体交渉であったといわざるを得ない。


 
掲載文献   

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