労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委平成26年(不再)第33号
ニチアス(奈良)不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  法人Y 
再審査被申立人  X1組合 X2分会 
命令年月日  平成29年3月15日 
命令区分  一部変更 
重要度   
事案概要  1 本件は、X1およびX2が、アスベスト被害等を交渉事項とする団体交渉におけるYの対応は労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるとして、奈良県労委に救済を申し立てた事案である。
2 初審奈良県労委は、組合員A1ら5名は会社が「雇用する労働者」であり、X2はその「代表者」であるとした上で、団交の要求事項の一部に関する誠実団交応諾及び文書手交を命じ、その余の救済申立てを棄却したところ、Yはこれを不服として再審査を申し立てた。 
命令主文  1 初審命令主文のうち、誠実団交応諾及び文書手交を命じた部分を次のとおり変更する。
 会社の団交における対応は、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であることを確認する。
2 その余の本件再審査申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 X2らはYが「雇用する労働者の代表者」であるか
 元従業員がYを退職して長期間が経過した後にX2に加入し、X2らが団交を申し入れているところ、①組合員A1ら5名の勤務状況やアスベスト関連疾患等の特殊性に照らせば、Yとの間の紛争はいずれも同人がYを退職する前の雇用関係と密接に関連し発生したものと評価できること、②Yは、当時のアスベストの使用実態を明らかにしたり、健康被害対応等の措置をとるべきことが可能であり、そのような措置をとることが求められるといえること、③アスベスト関連疾患等の特殊性を勘案すれば、雇用関係終了後、社会通念上合理的といえる期間内に団交申入れがされたと認めるのが相当であることからすれば、本件の紛争において、組合員A1ら5名はYが「雇用する労働者」であり、X2はその「代表者」といえる。
2 X2らのYに対する要求事項は義務的団交事項に該当するか
 組合員A1ら5名が稼働していたB工場におけるアスベスト被害の実態及びこれに関する資料提供や、退職者に対する健康対策及びこれに関する資料提供は、同人らの職場における安全衛生、災害補償に関する事項である。また、アスベスト被害に関する補償の考え方や補償実績、補償制度の開示についても、組合員A1ら5名が現在の健康状態、そして将来健康状態が変化した場合において、どのような補償ができるかという点で同人らの災害補償に関する事項といえる。したがって、組合員の労働条件等に関し会社が処分可能な事項であるから、義務的団交事項に当たる。
3 団交におけるYの対応は、労組法第7条第2号が禁じる不誠実な対応であったか
 Yは、本件団交の時点において、組合員A1ら5名に関する事項として、B工場におけるアスベスト被害の実態を明らかにして資料を提供すること、退職者に対する健康対策を明らかにして資料を提供すること、アスベスト被害に関する補償の考え方や補償実績、補償制度の開示を行うべき義務を負っていた。しかしながら会社は、義務的団交事項のうち、組合員2名については組合員であることに疑義を呈して議論の対象とはしないとの対応を続け、その余の者についてもX2らの求めに応じた回答を行わず、資料提供をしなかった。このようなYの対応は、合意形成を目指していく真摯な態度に欠けるものであって、労組法第7条第2号の不誠実対応といわざるを得ない。
4 救済利益及び救済方法
 ①本件団交において取り上げられるべき組合員A1ら5名のうち2名は現時点においてX2に所属していないこと、②両名を除く3名については、別件訴訟の請求棄却判決が確定し、すでに民事上の損害賠償責任に関しては決着していること、③これを受けて、X2が、補償に関する内規の開示や内規を組合員A1にあてはめた場合の説明を求めて団交を申し入れたところ、開催された団交において、Yは、補償規定たる内規が存在し、これに基づいて補償を行っている旨、内規では民事上の損害賠償請求権の放棄が補償条件と定められているため、裁判で同請求権の不存在が確定した組合員A1は補償対象外である旨、内規のうち上記補償条件を定めた部分の開示を検討する旨回答していること、④別件において、補償規定の開示が行われた上で、会社と関連産業分会(X2と上部団体を同じくする労働組合)との間で、今後双方が誠意を持って団交を行うことを確認することをないようとする和解が成立しているところ、同事件と本件とでは実務担当者が共通であること、といった事情が存在する。
 他方、今後においても組合員らの健康状態が悪化した場合の健康対策等の問題が存在する以上、本件事案において救済命令を発する必要性はそれほど大きくはないもののなお存在している。
 本件で現れた一切の事情を鑑みれば、誠実団交応諾及び文書手交等を命じる必要性はなく、今後の労使関係の影響等を踏まえ、本件の救済命令としては、Yの不当労働行為の責任を明確にして将来の正常な集団的労使関係秩序の確保を期すために、Yの対応が不当労働行為であることの確認を宣言する旨の命令を発することとする。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
奈労委平成25年(不)第1号 一部救済 平成26年6月26日
 
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