労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  ニチアス 
事件番号  奈労委平成25年(不)第1号 
申立人  全日本造船機械労働組合(Z)、同ニチアス・関連企業退職者分会(X) 
被申立人  ニチアス株式会社 
命令年月日  平成26年6月26日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   かつて被申立人会社又はその下請企業で石綿製品の製造や石綿関連工事に従事した者らを組合員とする申立人組合Xは、同Zとともに、会社に対し、各工場等における被害実態、退職者に対する補償制度や実績、健康対策を明らかにすること等を求めて団交を申し入れ、団交が2回開催された。本件は、これらの団交において会社が示した、一部の組合員個人にかかわる問題以外は義務的団交事項ではないとして、ほとんど全ての要求事項について説明を行わないなどの態度は不誠実であり、不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 奈良県労委は会社に対し、1 要求事項のうち一部のものについて団交で誠実に対応すること、2 文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。
 なお、本件は、奈労委平成19年(不)第2号ニチアス不当労働行為救済申立事件(平成20年7月24日決定)の関連事件である。 
命令主文  I 被申立人は、申立人の平成24年6月21日付け及び同年9月14日付けの申入れにかかる団体交渉において、その要求事項のうちの、下記の事項について誠実に対応しなければならない。また、開示する情報や提供する資料の特定にあたっても、団体交渉において誠実に交渉しなければならない。
  1. 現在までのニチアス王寺工場をはじめとする各工場と関連企業における労働者のアスベスト被害実態の開示と資料提供。
  2. 退職労働者のアスベスト被害に対する健康対策の内容の開示と資料提供。
  3. 退職労働者のアスベスト被害に対する補償の考え方と過去の補償実績の開示。
  4. 下記のケースとなった場合の補償制度の開示。
   ①石綿による健康管理手帳交付のみの場合
   (②~⑪省略)
   ⑫肺がんや中皮腫で死亡し、労災認定された場合(遺族補償)
II 被申立人は、本命令受領後、速やかに下記の内容の文書を申立人に交付しなければならない。
記(省略)
III その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 申立人組合らは被申立人会社が「雇用する労働者」の代表者であるか
(1)組合員は労組法7条2号の「雇用する労働者」に該当するか 
 労働者が退職後長期間経過した後に労働組合を結成し、又はそれに加入して、その労働組合がこれまで争わなかった労働関係存続中の問題について団交を申し入れた場合、それを認めるべきやむを得ない特段の事情があれば、当該労働者はなお労組法7条2号の「雇用する労働者」に該当することがあり得るというべきである。
 本件の場合、少なくとも組合員X2ら5名については、健康管理手帳を交付され、又は労災認定を受けており、当時の同人らの会社在職や会社工場で石綿が扱われていたことについては争いがないことから、会社との労働関係と密接に関連して発生した紛争であるといえる。また、石綿ばく露に関係する中皮腫等は潜伏期間が長く、被害者がばく露の後直ちに補償や対策を求めるのが困難であり、こうした石綿被害の特殊な事情を考慮すれば、同人らが退職後長期間経過した後に疾病に罹患したとき等に初めてことの重大性を認識するに至り、その時点で元の使用者と争い又は交渉することとなるのは無理からぬことであり、「特段の事情」が存在するといえる。
 そして、同人らは健康管理手帳交付後、組合の分会を結成するなどして速やかに団交を申し入れており、他方、会社は健康管理手帳取得や労災認定に関する支援、健康診断などを実施していることからすれば、当該紛争を処理することが可能と考えられ、団交を通じてその解決を図ることには合理的な根拠がある。
 以上のことから、少なくともX2ら5名については、会社との労働関係上の問題がなおも解決していない状態にあるということができ、このような場合は「雇用する労働者」であると認めることができる。
(2)本件団交申入れは合理的期間内になされたといえるか
 前記(1)で述べた団交申入れは会社によって拒否され、組合らは当委員会に救済を申し立て、当委員会が命令を発したが、その後も中労委、東京地裁を経て、東京高裁で引き続き争われていたところ、組合らは平成24年6月、改めて会社に団交を申し入れた。組合らはこの本件団交申入れに至るまでの間、一貫して会社との団交実現を目指していたのであり、団交で紛争を解決しようという姿勢を示していた。したがって、本件団交申入れも合理的期間内になされたものといえる。
(3)結論
 会社は、X2ら5名のうち2名について分会の組合員であることにつき疑問があるとしているが、会社がその根拠としている別件訴訟や過去の団交への参加状況等だけでは、組合員であることに合理的な疑問を生じさせる根拠とはなし得ない。
 以上のことから、本件団交時点で、組合らは少なくともX2ら5名との関係において「雇用する労働者の代表者」に当たるといえる。
2 組合らの要求事項は義務的団交事項に該当するか
 本件団交における要求事項についてみると、「組合員個々人に係る補償」が組合らの最も重要な関心事であると推認されるところ、これは義務的団交事項であり、これについて団交を進めていく上で必要な事項は使用者に開示や資料提供が義務づけられるものというべきである。
 こうした考え方に立てば、本件団交における要求事項のうち労働者の被害実態、退職労働者のアスベスト被害に対する健康対策、補償の考え方・補償制度・補償実績はその開示や資料提供が使用者に義務づけられるものといえるが、周辺地域住民の被害実態、退職時に補償を受けていたケース等の事項についてはそうとはいえない。
3 団交における会社の対応は不誠実であったか
 認定した事実によれば、団交で組合らが退職労働者のアスベスト被害に対する健康対策について具体的にどのような対策を行っているのかについての資料を要求したのに対し、会社は相談窓口の設置、可能な限りでの情報公開、健康管理手帳の取得等の支援以外の内容については説明せず、資料も提供しなかったこと、組合らが過去の補償実績についての情報の開示を要求したのに対し、会社はX2ら2名は胸膜プラークの状態であり、胸膜プラークは損害ではないので補償の対象にならないなどとして説明は差し控える旨回答し、過去の補償実績の開示については何ら言及しなかったこと等が認められる。
 会社は団交において、今後補償要求について団交を進めていく上で必要な事項に関し、協力的な姿勢で保有する情報を開示し、資料を提供するなどして十分に説明を尽くすべきであったにもかかわらず、これをしなかったのであるから、会社の対応や姿勢は不誠実であったといわざるを得ない。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委平成26年(不再)第33号 一部救済 平成29年3月15日
 
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