概要情報
事件番号・通称事件名 |
中労委平成25年(不再)第82号 東北石けん佐藤工場外1社不当労働行為再審査事件 |
再審査申立人 |
X(「組合」) |
再審査被申立人 |
Y1社 |
再審査被申立人 |
Y2社 |
命令年月日 |
平成28年7月20日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、組合が、下記の行為が労組法第7条各号所定の不当労働行為に当たるとして、宮城県労委に救済を申し立てた事案である(アはY1社及びY2社に対する申立てであり、イ及びウはY1社に対する申立てである。)(以下、「平成」の元号を省略する。)。
ア Y1社とY2社が、本件基本合意(20年12月末を目途にY1社の株主らとY2社との間で正式に株式譲渡契約を締結し、Y2社がY1社の全株式を取得すること等の合意)を20年11月29日までに合意解約する意思形成をした上で、団交拒否(後記イ)や支配介入(同ウ)、Y1社とY2社による同基本合意の合意解約と事業用財産の譲渡を経てなされた、Y1社による従業員全員解雇と同社の解散、Y2社による組合員A1、A2及びA3(A1ら3名)の新工場からの排除は、組合活動を理由とする不利益取扱いに当たる(労組法第7条第1号。申立事実①)。
イ Y1社が、20年11月26日付けで申し入れた労働条件の確認等を議題する団交を開催しなかったことは、正当な理由のない団交拒否に当たる(労組法第7条第2号。申立事実②)。
ウ Y1社の20年11月29日の朝礼においてなされた、当時のY1社代表取締役B1及び取締役B2の発言は、組合からの脱退を勧奨する支配介入に当たる(労組法第7条第3号。申立事実③)。
2 初審宮城県労委は、組合は24年10月9日付け「救済申立取下書」をもって申立事実②及び③に係る救済申立てを取り下げたとして、申立事実①のみを判断対象として救済申立てをいずれも棄却する旨の初審命令書を交付したところ、組合は、これを不服として、再審査を申し立てた。
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命令主文 |
本件再審査申立てをいずれも棄却する。 |
判断の要旨 |
申立事実②及び③については,救済申立取下げの有効性が問題となっているが、初審の経緯等に鑑み、申立事実①に関する経緯として判断する。
(1) 申立事実①に関する経緯としての申立事実②及び③に関する判断
ア 申立事実②
組合が設定した団交開催期限は申入れからわずか3日間であり、組合が、前記申入れの10 日後(20年12月6日)に、前記申入れに係る議題を含む団交を申し入れたところ、同年12月11日に第1回団交が開催され議論がなされ、その後も同様の議題について団交が重ねられている経緯等に鑑みれば、Y1社の対応が団交拒否に当たるとまでは認められない。
イ 申立事実③
B1及びB2の発言内容には、組合からの脱退を促す旨や脱退を新工場での稼働条件とする旨は一切含まれていないことなどからすれば、上記各発言に脱退勧奨の趣旨が含まれていたと評価するのは困難である。そして、発言の内容からして、両名が、組合員を脱退させようとの動機や意図を有していたとも認められないから、上記各発言が支配介入に当たるとは評価できない。
(2)申立事実①に関する判断
ア Y1社関係
(ア) スキーム変更とY1社の解散・従業員全員解雇について
Y1社は、21年3月31日に株主総会の決議により解散し、株主への残余財産の分配を終え同年8月9日に清算が結了した旨登記されているとおり、事業を廃止して解散したのであり、Y1社とY2社との間に実質的同一性があるとはいえず、Y1社の解散が偽装解散であったとは認められないから、当時Y1社の代表取締役B3(本件基本合意によりY1社の代表取締役に就任した者であり、Y2社の代表取締役を兼任)の組合員に対する不信感をきっかけとして同社が解散に至り、これに伴ってA1ら3名が解雇されたものであったとしても、Y1社は同解散や同解雇について労組法第7条第1号の不当労働行為責任を負わない。
(イ) 「組合員の排除」について
Y2社と別個独立の法人であるY1社が,Y2社がA1ら3名を雇い入れなかったことにつき使用者として責任を負うと認めるべき事情は存せず、Y1社は労組法第7条第1号の不当労働行為責任を負わない。
イ Y2社関係
(ア) スキーム変更とY1社の解散・従業員全員解雇について
① 本件基本合意は、あくまでも、実質的同一性を有しない法人格を異にするY1社・Y2社間の事業承継の方法に関する取決めであって、同合意に基づく株式売買が実現するまで両社間に資本関係は一切存在しなかったこと、② 同合意において、事業承継がなされる以前にY1社に在籍する従業員の雇用についてY2社が支配力を及ぼす余地を生じさせる条項は存しなかったこと、③ Y2社がY1社の全株式を取得した後においても、Y2社とY1社の従業員との間での雇用関係は想定されていなかったことなどからすれば、同合意がいったん成立したからといって、Y2社が、Y1社の組合員を含む従業員の雇用について、現実的かつ具体的な支配力や決定力を有する地位に立ったとは認められないことなどからすれば、Y2社は、Y1社の解散やこれに伴う組合員の解雇について、労組法第7 条の使用者であるとはいえず、同条第1号の不当労働行為は成立しない。
(イ) 「組合員の排除」について
① Y2社・Y1社間において、Y1社の従業員の雇用関係をY2社が承継する旨の合意は一切存在しないこと、② 本件基本合意に基づく株式売買が実現した暁には、Y1社の全従業員の雇用が維持されることが想定されていた点などの本件事情を考慮しても、それはあくまでもY1社が存続することを前提としたものであって、近い将来においてY2社とA1ら3名を含むY1社の従業員との間で労働契約関係が成立することは想定されていなかったこと、③ A4及びA5は、Y2社が行ったハローワークへの求人募集に応募した結果、選考採用されており、一方でA1ら3名は、求人募集に応募すらしていないことなどによれば、Y2社がA4及びA5を雇い入れたことについては、実態としてY1社の従業員との雇用関係をY2社が承継した結果であるとはいえず、A1ら3名が雇い入れられていないことについて、労組法第7条第1号を適用する余地はない。 |
掲載文献 |
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