概要情報
事件番号・通称事件名 |
中労委平成26年(不再)第4・5号
リオン不当労働行為再審査事件 |
再審査申立人 |
Y(「会社」) |
再審査申立人 |
X1(「本部」) |
再審査申立人 |
X2(「地本」) |
再審査申立人 |
X3(「支部」) 以上、X1~3を総称し、「組合ら」 |
再審査被申立人 |
X1(「本部」) |
再審査被申立人 |
X2(「地本」) |
再審査被申立人 |
X3(「支部」) |
再審査被申立人 |
Y(「会社」) |
命令年月日 |
平成28年5月11日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、会社の次の行為が不当労働行為であるとして、組合らが、東京都労働委員会(「東京都労委」)に本件救済申立てを行った事件である。
① 新人事制度をめぐる団体交渉における対応
② 新人事制度の導入に伴って、家族手当を削減し、地域手当を廃止したこと
③ 「人事ニュース」及び「労働ニュース」に組合らに関する記事を掲載し、配付したこと
④ 時短(休日増加)に関する協定、労使協議会に関する協定等を破棄する旨発言したこと
2 初審東京都労委は、平成25年11月19日付けで、上記1③のうち、平成21年12月10日付け「人事ニュース№087」及び同月28日付け「労働ニュース№659」の記事の掲載等は労働組合法(「労組法」)第7条第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、①「人事ニュース」及び「労働ニュース」に、組合らの内部運営や組織形態を問題視する記事を掲載するなどにより支配介入をしないこと、② 上記1①に関する文書の交付及び掲示等を命じ、その余の本件救済申立てを却下及び棄却する旨決定したところ、これを不服として、会社及び組合らは、それぞれ本件再審査申立てを行った。 |
命令主文要旨 |
本件各再審査申立てをいずれも棄却する。 |
判断の要旨 |
1 新人事制度をめぐる団体交渉における会社の対応は、労組法第7条第2号の不誠実な団体交渉及び同条第3号の支配介入に当たるか。
家族手当の削減と地域手当の廃止を含む新人事制度の導入に伴う賃金制度の変更について、会社は、不利益変更かどうかについてはニュートラルな立場であるとか、不利益が起きないよう緩和措置をとっている、また、数字的裏付けをもって将来のグラフを示すことはできない、強いてグラフをイメージするなら少し上を向いたトランペットのような形であると回答するなど、その内容は必ずしも具体的とはいえないものにとどまっていた。
しかしながら、平成22年1月25日の団体交渉の時点でも、新人事制度の運用が始まってから1年3か月が経過していたにすぎないことからすれば、各従業員について職能資格等級の昇格に伴う「昇格昇給」と同一職能資格等級内の「習熟昇給」が行われる見込みやその頻度を予想しつつ、標準的な従業員又は従業員全体の具体的な賃金の予想や動向を示すことは相当に困難であったとうかがえるから、会社の回答が上記のようなものにとどまっていたとしても、やむを得なかった面がある。
その一方で、組合らは、このような会社の回答に対し、同年3月17日の産別団体交渉では、モデル賃金の傾きについて質問してはいたものの、それ以外に、自らの懸念を払拭させるためのより具体的な回答を求めて交渉を継続させようとした事実はうかがわれない。
以上のとおり、会社の対応が必ずしも具体的とはいえない回答にとどまっていたとしてもやむを得ない面があったこと、また、同制度の導入前における労使関係の状況や平成21年5月14日以降に行われた9回にわたる団体交渉における組合らの姿勢やそれらに対する会社の対応に照らせば、新人事制度をめぐる団体交渉における会社の対応は、労組法第7条第2号の不誠実な団体交渉には当たらない。
また、会社の上記対応は、組合らの活動を抑制するなどの目的に基づくと認めることはできず、他に組合らに不当な影響が生じたと認めるに足る証拠もないから、労組法第7条第3号の支配介入にも当たらない 2 会社が、「人事ニュース」等に組合らに関する記事を掲載し、配付したことは、労組法第7条第3号の支配介入に当たるか。
平成21年12月10日付け「人事ニュース№087」は、その見出しを「X1本部組合が団交申入れ支部の諸要求に社外の組合が対応する事態に」とし、その本文を「交渉に上部団体の人を加えようとしている。当社を良く知らない外部の人を含む団体交渉は、交渉を複雑化させ、解決に向かう良い方向とは考えにくい」、「YのことはYの従業員が決めるのが、本来のあるべき姿である」としている。
会社は、支部との団体交渉は会社内で行っているにもかかわらず、本部又は地本の役員が参加した産別団体交渉は会社外で対応していること、また、地本及び支部は本部の地方又は事業所単位の組織であり、団体交渉において、誰を交渉担当者とするか、どのように対応するかは組合らの自主的な判断によるものであって、会社がみだりに容喙すべき事項ではないことを併せ考えれば、会社が、全従業員に配付する人事ニュースに、組合らの内部運営や組織形態を殊更に疑問視する表現をした記事を掲載したことは、会社が、産別団体交渉への参加を契機とする本部及び地本の支部に対する影響力を懸念して、その影響力をけん制ないし排除するために、支部と本部及び地本とを離間させようとしているものと組合員に受け止められかねないものであったといえる。
そして、会社にも組合らとの交渉に関して意見表明の機会は相応に与えられるべきであるとしても、会社が、上記のように組合らの自主的な判断によるべき事項について、管理職を通じて全従業員に配付する当該ニュースに上記のような趣旨の記事をあえて掲載したことは、団体交渉の継続中における意見表明の方法としてはいささか適切さを欠くものであり、組合員に動揺を与えるおそれがあったといわざるを得ない。
そうすると、同ニュースの記事の掲載及び配付は、上記のとおり、当該記事の記載内容、その表現及び意見表明の方法を併せ考えると、組合らの活動を抑制又は阻害するものであったと認められるから、労組法第7条第3号の支配介入に当たるといわざるを得ない。
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掲載文献 |
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