労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  都労委平成23年(不)第31号
EMGマーケティング(再雇用)不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  平成28年2月16日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   会社は、組合員A1及びA2が定年退職者再雇用制度の再雇用基準(過去3年間の業績評価の平均が標準以上の者)を満たしていないとして、両名との定年後再雇用契約の締結を拒否した。本件は、会社がA1及びA2を再雇用しなかったことが、両名が組合員であることないし組合活動を行ったことを理由とする不当労働行為であるとして、救済申立てのあった事件である。
 東京都労委は、申立てを棄却した。  
命令主文  本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 A1の業績評価について
 ① A1の担当していた業務の業務量は、(ア)SS〔サービス・ステーション〕のクレジット・カード利用の申込みの処理等については、所要時間が1件当たり最大で2ないし3時間くらいで、件数は、多くても月に10件程度、(イ)会計処理において発見されたエラーのSAP〔社内コンピューターシステムの名称〕上での修正作業は、1回当たりの所要時間は2ないし3時間程度で、発生回数も月に1ないし2回程度、(ウ)会社のTM〔テリトリー・マネジャー〕からの質問への対応は、所要時間は短時間であって、件数も1日に1ないし2件程度、(エ)クレジット・ カード関連の保険料支払、クレジット・カード関連物品の購買発注、整理等については、所要時間も短時間で、発生回数も月に1 回程度であって、これらを合計しても、業務量としてはかなり少ないといわざるを得ない。
 ② カード・オペレーションズにおける他の主要業務は、クレジット・カードセンターの管理業務及びプロジェクト業務であり、これらの業務は、企画立案や対外折衝等を含む非定形的な業務であったが、A1は、これらには主たる担当者としては関与していなかった。 会社は、A1に対して、もし管理職を目指すのであればより難易度の高い業務を担当した方が良いと助言したが、A1は、そのような業務を担当することは避けたいし、新しい業務や難しい業務にチャレンジすることについての興味はない旨を答えた。 そして、A1が、新たな業務を担当したいとか、プロジェクト業務に参加したいという申出を行ったこともなかった。
 ちなみに、会社では、専門職の8割から9割が管理職に昇進する傾向にあり、A1の職位CL25は、管理職の直前の職級であった 。
 なお、A1は、EADS〔エンプロイー・ アセスメ ント・ アンド・ デベロップメント・ サマリー〕 について、全く記載せずに、あるいは一部のみを記載して上司に提出するなど、自らの業績を高く評価してもらうことに熱心でなかったことも窺われる。
 ③ 以上の事実を総合すれば、A1が担当業務を遂行するに当たって、大きなトラブルやミスはなかったことを考慮しても、同人の平成18年から20年までの評価は、業績評価について会社が有している裁量を逸脱しているとまでの事情を認めることはできず、組合加入ないし組合活動を理由とする不当なものであるということはできない。
2 A2の業績評価について
 ① A2の担当していた業務の業務量は、(ア)バンコクビジネスサポートセンターへの文書転送業務については、1回当たり数通から多くても10通程度で5分から15分ほどで終わるものであり、転送作業の発生回数は月に数回程度、 (イ)外部倉庫保管文書の文書管理業務は、1回当たりの所要時間は1日から2日程度で、発生回数も四半期に1回程度、(ウ)購買業務は、月に1回あるかないか程度であって、これらを合計しても、業務量としてはかなり少ないといわざるを得ない。
 A2は、労災として頸肩腕症候群に罹患していたことから、それによって業務量が少ないことを理由として低評価を行うことは不当であるとの組合の主張も理解できないではない。 しかしながら、昭和57年には症状固定・治癒の認定がなされていたことやA2の欠勤中には他の従業員がA2の業務の代替をしていたことなどを考えれば、業務量が少ないことを理由として低評価を行ったとしても、必ずしも不当であるとまではいえない。
 組合は、C組合を脱退し非組合員となったI が労災認定以前から労災扱いとしで賃金カットがなされず再雇用もされていることや、48年頃に労災認定を受けた2名がC組合を脱退し再雇用されている ことが、組合員であるA2に対する差別の証左であるとも主張する。確かに、Iの事案は、A2とは異なり、労災認定以前から労災扱いとして賃金カットがなされていなかったものではあるが、そのことをもって、直ちにA2に対する差別があったとまでみることはできない。また、48年頃に労災認定を受けた2名が、C組合を脱退し、再雇用されているという事実も、そのことだけでA2に対する差別を認めることは困難であり、その他、同人lこ対する差別的取扱いを推認するに足りる疎明はない。
 ② A2は、欠勤が多く、バンコクビジネスサポートセンターで業務に支障が出たり、請求書の転送が遅れて取引先からクレームを受けることもあった。 A2は、欠勤中の業務を同僚がカバーしている事実について確認することもなかったし、カバーした従業員に感謝の意を伝えるという配慮にも欠け、外部倉庫に預けられている会社の在庫評価計算関係の重要な文書を、保存期限到達前に誤って廃棄しようとしたこともあった。
 A2は、タイの政情不安による空港封鎖という事態において、極力業務に支障が生じないように努力した事実は認められるものの、上記の事実を勘案すれば、同人の業務については、その質においても問題があったといわざるを得ない。
 ③ 以上の事実を総合すれば、 A2の平成19年から21年までの評価は、業績評価について会社が有している裁量を逸脱しているとまでの事情を認めることはできず、組合加入ないし組合活動を理由とする不当なものであるということはできない。
3 以上のとおり、会社の、A1に対する18年ないし20年の業績評価及びA2に対する19年ないし21年の業績評価については、同人らの組合所属ないし組合活動を理由として低評価がなされたとぃうことはできない。
 そして、会社の再雇用制度では、「過去3 年間の業績評価の平均が標準以上の者」 であることが雇用条件となるところ、 A1及びA2は、いずれもこの基準を満たしていなかったのであるから、同人らが再雇用されなかったこともまた、同人らの組合所属ないし組合活動を理由とするものであるということはできない。
 したがって、会社が、 A1及びA2を再雇用しなかったことは、同人らが組合員であることないし組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱いには当たらない。
 組合は、会社の団体交渉に お ける姿勢などから、会社は組合を嫌悪しており、問題の多い業績評価制度を利用して組合員を差別しているとも主張するが、上記のとおり、 A1及びA2の定年前3 年間の業績評価が、両名の組合所属ないし組合活動を理由に行われているとまではいうことができないから、組合の主張は採用することができない。  
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委平成28年(不再)第15号 棄却 令和5年1月11日
 
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