労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  東海旅客鉄道 
事件番号  三労委平成25年(不)第1号 
申立人  ジェイアール東海労働組合、同名古屋地方本部 
被申立人  東海旅客鉄道株式会社 
命令年月日  平成27年10月21日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   被申立人会社は、平成24年3月、X駅の乗務員配置を解消し、同駅に勤務していた申立人組合名古屋地方本部(以下「地本」)X分会の組合員3名を含む乗務員をY支店Z運輸区に配置転換した。X駅には組合らの組合掲示板が設置されていたが、Z運輸区には設置されていなかった。本件は、①X分会がZ運輸区における組合掲示板の設置を申請したところ、同運輸区長が、組合員数が5名に満たないことを理由にこれを許可しなかったこと、②地本の下部組織であるA協議会、地本、組合がそれぞれ会社Y支店、同東海鉄道事業本部、会社に対し、上記組合掲示板の設置に係る団交を申し入れたところ、会社がこれらを拒んだことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 三重県労委は会社に対し、文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、本命令書受領の日の翌日から起算して15日以内に、下記内容の文書を申立人らに交付しなければならない。
年  月  日
  ジェイアール東海労働組合
   中央執行委員長 X1 殿
  ジェイアール東海労働組合名古屋地方本部
   執行委員長 X2 殿
東海旅客鉄道株式会社
代表取締役社長 Y1
  当社が、貴組合の紀伊長島地区分会に対して、一方的に、紀伊長島駅の組合掲示板の設置許可を取り消すとともに、伊勢運輸区の組合掲示板の設置を許可しなかったことが、組合弱体化を企図したものであり不当労働行為であると、三重県労働委員会において認定されました。今後このような行為を繰り返さないよう留意します。
                     (注:年月日は文書を交付した日を記載すること。)

2 申立人らのその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合掲示板の設置の不許可について
 本件組合掲示板の設置不許可は、従前からなされていた組合掲示板の設置の許可が、会社内の組織の統廃合等がなければ継続しているはずであったところ、組織の統廃合によって組織ごと異動統合させられたことにより、統合先で不許可になったということであるから、便宜供与の廃止と実質的に同視できる。
 使用者は、労働協約又は労使慣行に基づく便宜供与を廃止する場合、業務上の必要性等の合理的理由を示して、労働組合に交渉を申し入れるべきであり、そのような手続を経ずに一方的に便宜供与を廃止したときにはそれが支配介入となることがある。本件についてみると、会社は組合らに対し、合理的理由を示して交渉を申し入れることなく、一方的に組合掲示板の貸与という便宜供与を廃止したのと同視することができる。また、X駅の組合掲示板の設置許可が取り消され、それに代わるZ運輸区の組合掲示板の設置が許可されなかったことにより、組合らはY支店管内の組合員等に対する情報宣伝活動の方法を大きく制限されることになったといえる。
 他方、組合らと会社との間では、これまで脱退勧奨による支配介入など会社による組合らへの支配介入がしばしば発生しており、また、X駅においても組合らの掲示物をめぐる紛争がしばしば発生していた。このような状況から、労使関係は従前から良好ではなく、会社が組合らを嫌悪していたことが推認できる。
 そうすると、本件組合掲示板の設置不許可は、組合らの弱体化を企図しての便宜供与の一方的廃止と同視でき、労組法7条3号の不当労働行為に当たる。
2 団交拒否について
 認定した事実によれば、会社は、組合との間の基本協約第227条の規定に基づく組合掲示板の設置許可について、会社の定めた組合掲示板設置基準により運用していた。同基準には、組合掲示板の設置は職場に5名以上の組合員が存在し、かつ、スペースに余裕がある場合に許可するなどと定められている。
 会社は、本件団交申入れの交渉事項は上記の基準によらずに組合掲示板の設置を求めるものであるから、協約の改訂を求めるものであるとし、協約の有効期間中に特定の労働組合とだけ団交をして協約の改訂を行うべきではないと主張する。しかし、組合掲示板設置基準は、労働協約の内容そのものではなく、同基準の適用について疑義が生じた場合、それはその前提となる労働協約の規定の解釈適用の問題ということができる。そして、一般に使用者は、労働協約の解釈適用に関する問題については、別個の手続に委ねられていない限り、団交を拒むことはできないとされている。組合らは上記基本協約の規定を前提として、その運用基準である組合掲示板設置基準の適用、すなわち、労働協約の規定の解釈適用について団交を求めているのであるから、会社は正当な理由なく、これを拒むことができない。協約の有効期間中に特定の労働組合とだけ団交をして協約の改訂を行うべきではないとの会社の主張は、その前提となる認識において誤りがある。
 以上のことから、会社がZ運輸区における組合掲示板の設置を交渉事項とする団交を拒んだことには正当な理由がなく、労組法7条2号の不当労働行為に当たる。
3 救済の必要性について
 本件団交申入れからほどなくして平成24年協約改訂交渉が行われ、その中でZ運輸区の組合掲示板についても協議が行われ、組合らの要求は実現しなかったものの、交渉は妥結し、基本協約が締結されたことが認められる。交渉の時期が平成24年協約改訂交渉のときになったことによって組合らに特別な不利益が発生したなどの特段の事情は認められない。
 そうすると、前記2で判断した不当労働行為によって生じた状態は是正されたものと解するほかない。したがって、会社が本件団交申入れによる団交を拒んだことは不当労働行為に該当するが、既に救済の必要性がなくなっており、申立てを棄却することとする。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委平成27年(不再)第49号 一部変更 平成29年4月19日
 
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