概要情報
事件名 |
京労委平成26年(不)第3号 |
事件番号 |
京労委平成26年(不)第3号 |
申立人 |
X労働組合 |
被申立人 |
Y生活協同組合 |
命令年月日 |
平成27年9月7日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
申立人組合は、組合員であるパート職員と被申立人生活協同組合
(以下「生協」)との雇用契約が毎年3月に更新されるのに先立ち、生協と交渉の上、「契約更新に関する覚書」(以下「覚
書」)をその都度締結してきた。本件は、平成26年の覚書についての交渉に関し、生協が①覚書の案を提案するに当たり、前年
の覚書に3点の変更を加えたこと、②26年2月6日以降、覚書の締結がないまま、パート職員の雇用契約更新の実務を進めたこ
と、③同月25日以降、各事業所に「パート職員契約更新に関する協議再開の申入書」、「パート労組からの『理事会の進め方へ
の抗議』に対する見解と今後の対応について」など4件の文書を掲示したことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった
事件である。
京都府労委は申立てを棄却した。 |
命令主文 |
本件申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 平成26年の覚書の原案に変更を加えたことについて
認定した事実によれば、前年の覚書には「2 契約更新における特徴」の項目に、i)店舗が営業時間の変更をすることに伴
い、雇用契約の期間中に契約の見直しが発生する場合については別途協議する旨、ii)宅配に関し、配達エリアの再編により
パート職員の勤務先が変更となる場合には別途協議する旨が記載されているのに対し、生協が提示した平成26年の覚書の原案に
は、i)営業時間の変更に伴う契約の見直しは本人同意の上、見直す旨、ii)宅配に関し、生協支部の閉鎖後、新しい支部での
勤務を希望する職員については別途契約を締結する旨が記載されている。
申立人組合は、本件変更は組合員の雇用契約の更新に当たり、協議を不要とすることにより、その弱体化を図る支配介入行為で
あり、労働協約の協議条項だけではなく、各年の覚書にも組合との協議が必要である旨を明記することに意義がある旨主張し、被
申立人生活協同組合は、本件変更は当然のことを確認的に記載したにすぎず、かつ、上記のような変更については労働協約の協議
条項により労働条件変更の事前協議が保障されているから、組合との協議を排除する趣旨ではない旨主張する。
生協のこの主張自体の合理性を否定するものではないが、本件変更が加えられた理由については確かに必ずしも明らかではない
ところがある。しかし、本件変更は、契約内容の変更に際しては本人の同意を要件とする等の当然の事理を確認したものにとどま
ること、労働協約の協議条項によって労働条件変更に関する組合の協議権が保障されていることなどからすれば、組合を弱体化す
るために行ったものとは評価できず、労組法7条3号の支配介入には該当しない。
2 平成26年2月6日以降、契約更新の実務を進めたことについて
組合は、生協が契約更新の実務を開始したことは覚書の締結後に契約更新の実務を行うとの労使慣行に反する旨主張し、生協
は、本件のように覚書が締結されていない場合であっても、覚書の締結がなければ、契約更新の実務を開始してはならないとの労
使慣行は存在しない旨主張する。
認定した事実によれば、覚書が締結されるようになった平成5年以降、覚書が締結されなかったことはなく、かつ、少なくとも
過去10年程度の間で2月上旬を過ぎても覚書が締結されなかったことはなく、そのような場合に契約更新の実務が開始されな
かったという事実も認められない。そうすると、このような場合であっても、覚書の締結がなければ、契約更新の実務を開始しな
いとの取扱いが反復更新されてきた事実はないのであるから、そのような労使慣行が存在しないことは明らかである。
よって、生協が契約更新の実務を進めたことは労組法7条3号の支配介入には該当しない。
3 各事業所に4件の文書を掲示したことについて
(1)平成26年2月25日付け文書
組合は、本文書には組合執行部への信頼を失わせ、組合の内部対立を意図的にあおる虚偽の内容が記載されており、このような
文書を直接組合員に提示するのはあからさまな介入行為であり、外形的に支配介入に該当する旨主張する。
しかし、同年1月20日の事務局折衝で組合執行部が本件覚書の修正案を組合の代議員会に提案することを受け入れたことなど
の事情を考慮すれば、この文書中の表現は必ずしも不適切とはいえず、組合の内部対立を意図的にあおる虚偽の内容を含むものと
はいえない。また、本文書の掲示は、生協が組合の機関紙の内容に疑問を持ったことから、事務局折衝の開催を申し入れたのに対
し、組合が応じなかったなどといった状況の中で、生協が組合との交渉の経過をパート職員に対して明らかにしようとして行った
ものと解され、そのことは必ずしも不合理とはいえない。さらに、本文書の掲示の手段、方法、時期及び内容からみて、特に不当
労働行為意思を推認させるような事情は認められず、組合の組織、運営に大きな影響を及ぼしたとの証拠もない。
このような事情を全体的、総合的に勘案すると、本文書の掲示は組合への支配介入に当たるとは評価できない。
(2)平成26年3月6日付け文書
組合は、本文書の掲示は前記(1)の場合と同様に外形的に支配介入に該当する旨と併せて、雇用不安をあおり、組合の方針に
反して次期契約書を提出するよう組合員に強要する支配介入行為でもあり、現に多くの者が次期契約書を提出する事態となった旨
主張する。
本文書には、契約更新日までに契約書を提出しなかったパート職員との契約は3月10日の期間満了により終了となり、生協が
契約更新を申し入れているにもかかわらず、パート職員がこれに合意しない場合には生協としては当該パート職員の労務提供を受
け取ることができない旨の、組合員にとって次期契約書の提出への圧力ととられかねないような記載もあることが認められる。
しかし、本文書全体の趣旨はあくまでも本件覚書に係る協議の再開と任意の次期契約書の提出を求めるものであったと認められ
る。そして、この時点で7割強の組合員が次期契約書を提出していなかったことなどからすれば、本文書の掲示は必ずしも不合理
とはいえない。
加えて、前記(1)の場合と同様、特に不当労働行為意思を推認させるような事情は認められず、契約満了日においてなお6割
を超える組合員が次期契約書を提出していないことから、組合の組織、運営への影響も限定的であったと判断される。
このような事情を全体的、総合的に勘案すると、本文書の掲示も組合への支配介入に当たるとは評価できない。
(3)3月10日付け文書
本文書の内容は次期契約書を提出しないパート職員にも口頭による雇用契約の更新を認める旨及びその手続の説明であるにすぎ
ず、その掲示について特に不当労働行為意思を推認させるような事情も認められない。よって、本文書の掲示は支配介入には該当
しない。
(4)3月13日付け文書
本文書の内容は前年の覚書に係る余後効及びパート職員の雇用契約に係る無期契約への転換等の法解釈について生協の見解を示
すものにすぎず、その掲示について特に不当労働行為意思を推認させるような事情も認められない。よって、本文書の掲示は支配
介入には該当しない。 |
掲載文献 |
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