労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  大阪府労委平成24年(不)第39号 
事件番号  大阪府労委平成24年(不)第39号 
申立人  X労働組合、同A支部、同A支部B分会 
被申立人  Y株式会社 
命令年月日  平成26年8月5日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   被申立人会社が①組合掲示物を労働協約に違反するとして一方的に撤去したこと、②撤去に関する団交を拒否したこと、③撤去に関する苦情申告について労働協約に基づく苦情処理会議が開催されなかったことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 大阪府労委は会社に対し、文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、申立人X労働組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。
年 月 日
  X労働組合
   中央執行委員長 X1 様
Y株式会社
代表取締役 Y1
  当社が、貴組合が平成24年2月17日付けで申し入れた団体交渉に応じなかったことは、大阪府労働委員会において、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認められました。今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。

2 申立人らのその他の申立てをいずれも棄却する。  
判断の要旨  1 組合掲示物を撤去したことについて
 認定した事実によれば、被申立人会社は平成24年1月27日以降、9回にわたり、申立人組合の分会が組合掲示板に掲出していた、苦情処理会議(会社と組合との「基本協約」に基づき、会社、組合をそれぞれ代表する委員を構成員として本社及び地方(団交を行う箇所)に設置されている会議で、労働協約及び就業規則等の適用・解釈に関する組合員からの苦情について審議するもの)で会社側委員が説明した内容が記載された書面について、これを撤去するよう分会に通告した上、撤去した。基本協約の規定によれば、会社は組合掲示物が会社の信用を傷つけ、政治活動を目的とし、個人を誹謗し、事実に反し、又は職場規律を乱す場合には、これを撤去し、掲示場所の使用許可を取り消すことができるものとされている。
 本件において会社が上記基本協約の規定を根拠にして掲示物を撤去することについては、組合掲示物の内容が基本協約の規定に違反し、会社の信用を傷つけ、又は職場規律を乱すような影響を与え、これを除去するには当該組合掲示物そのものを撤去する必要性があること、及び手続面における相当性があることが必要である。これらの点について検討すると、まず、基本協約により苦情処理会議は非公開とされ、かつ、その委員等には守秘義務が課せられている。そして、会社と組合を含む社内の労働組合との間では、苦情処理会議の内容を記載した組合掲示物を掲出してはならないとの共通認識があったものと推認できる。しかし、本件組合掲示物には苦情処理会議で会社が示した、組合員の年末手当に係る減率適用事由が記載されている。この減率適用事由も秘密に該当するものと考えられ、これを組合掲示板に掲出することは基本協約に違反する行為であるとみることが相当である。次に、減率適用事由を掲出することの影響については、苦情処理会議の運用や期末手当の減率適用の実施に関し、悪影響を及ぼす可能性を否定できず、それを除去するには組合掲示板から撤去する必要性があったといわざるを得ない。撤去に関する手続については、会社が事前に組合に通告し、自主的な撤去を促していること等に鑑みれば、一定の手続に則って対応しているものといえる。
 以上を総合的に勘案すると、会社が本件掲示物を撤去したことには基本協約の規定に基づく相応の理由があるといえ、組合等に対して支配介入を行ったとはいえない。
2 団交申入れに対する対応について
 組合の平成24年2月17日付け団交申入書は、本件組合掲示物の掲出が基本協約に規定する苦情処理会議の公開に当たるかどうかの解釈等に関して団交を申し入れたもので、その後、同年8月まで基本協約の解釈又は改訂に関する団交が開催されなかったことが認められる。
 この点について会社は、①上記団交申入れの事項は基本協約に定める団交事項に該当しないこと、②団交申入れまでの間に再三にわたり、組合に対し、本件掲示物が基本協約に違反するものであることを通告していたこと、③組合自身も苦情処理会議の内容を掲出してはならないことを理解していることが明らかであったことなどを主張する。
 しかし、本件団交事項のような、労働協約の解釈適用に関する問題は別の手続に委ねられていない限り義務的団交事項となるものというべきであって、会社の上記①の主張は採用できない。また、上記②及び③に関して、会社が、組合が労使間の共通認識を組合等が一方的に変更し、本件掲示物を掲出するようになったと考えたとしても、会社は、組合が基本協約の解釈について協議を申し入れ、会社の見解を尋ねる際には、団交で会社の解釈を真摯に説明する等、その話合いに応じるべき立場にあるというべきである。したがって、上記団交申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団交拒否に当たる。
3 苦情処理会議を開催しなかったことについて
 認定した事実によれば、①組合員らが本件掲示物の撤去に関し、苦情申告を行ったこと、②当該苦情申告は事前審理において、いずれも苦情として取り扱うことが適当であるとは認められないとして却下されたこと及びこれを争う手段は基本協約上予定されていないこと、③組合が別途、会社に対し、前記2で述べた団交申入れを行い、その後、平成24年度協約改訂交渉において、本件掲示物及び苦情処理会議に係る基本協約の解釈に関する事項について交渉が行われたことなどが認められる。
 苦情処理制度の運営は原則として労使の自治に委ねられていると思料されるところ、基本協約に基づき労使双方の苦情処理委員の中から指名された幹事で行った事前審理の結果は尊重されるべきである。また、労働組合と使用者との間で労働協約の解釈に疑義が生じた場合は、原則に戻り、団交での解決が望ましいと思料される。
 以上のことから、会社が本件苦情申告に係る苦情処理会議の開催に同意しなかったことには相応の理由があるものと認められ、この会社の対応をもって会社が支配介入を行ったものとみることはできない。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委平成26年(不再)第43・44号 取消
棄却
平成28年7月6日
 
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