概要情報
事件名 |
アイ介護サービス |
事件番号 |
都労委平成24年不第40号 |
申立人 |
東京東部地域合同労働組合東部ユニオン |
被申立人 |
有限会社アイ介護サービス |
命令年月日 |
平成26年6月17日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
|
事件概要 |
被申立人会社が運営する通所介護事業所Aで勤務していた組合員X2は、業務用レターケースに業務と関係のない文書を入れたことを理由に、平成23年6月14日、Aの所長から始末書の提出を命じられた。X2が提出を拒否したところ、同月24日、会社において、会社の顧問社会保険労務士Y3とX2との面談が行われた。この面談に関し、組合と会社とは、7月7日及び28日に団交を行った。その後、24年4月30日、会社は、X2との有期労働契約を同年5月31日の契約期間満了をもって更新しないこととする旨を同人に通知した。組合と会社は、5月16日及び30日にX2の契約更新についての団交を行った。
本件は、①23年6月24日に行われた上記面談におけるY3の言動、②23年7月28日以降の上記団交における会社の対応、③会社がX2との労働契約を更新しなかったことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
東京都労委は会社に対し、文書掲示及び履行報告を命じ、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 被申立人有限会社アイ介護サービスは、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人東京東部地域合同労働組合東部ユニオンに交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に、楷書で明瞭に墨書して、被申立人会社の従業員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
記
年 月 日
東京東部地域合同労働組合東部ユニオン
執行委員長 X1 殿
有限会社アイ介護サービス
代表取締役 Y1
平成23年6月24日に、貴組合の組合員であるX2氏とY3社会保険労務士との面談において、同社会保険労務士がX2氏の組合活動を抑制する効果を持つ発言をしたこと、及び当社が23年7月28日に行われた団体交渉に誠実に応じなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付又は掲示した日を記載すること。)
2 被申立人会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
3 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 本件面談について
認定した事実によれば、本件面談は被申立人会社の了承の下、会社施設内の相談室で組合員X2の就業時間中に、同人と会社顧問社労士Y3と二人きりで約1時間にわたり行われた。そして、Y3は会社の取締役Y2から事前に受けた相談の内容を踏まえ、X2に結婚の有無を質問して結婚相手を紹介しようかなどと述べた上で、申立人組合への加入の有無を質問し、組合は法律的なことしか扱わないのでそういう相談ができないのではないか、悩みがあれば自分に話してみてはどうか、会社を辞めたい気持ちがあるのなら、転職先を紹介することもできるなどと述べ、さらに、始末書の提出を勧めた。
以上によれば、本件面談において、Y3はX2が組合活動と認識して行っていたビラ配布に関して始末書を提出するよう勧め、組合加入の有無を質問した上で、組合の悩みごとの解決機能に疑問を呈し、さらに転職を勧める発言を行ったものであるから、そのことが同人の組合活動を抑制する効果を持つことは明らかであるといえる。したがって、本件面談におけるY3の発言は、組合の運営に対する支配介入に当たる。
2 団交における会社の対応について
平成23年7月7日の第1回団交で会社の社長Y1は、本件面談に問題があったことを認め、少なくともセクハラについては謝罪することを組合に約束したものといえる。しかし、Y1は同月28日の第2回団交に出席せず、会社は、本件面談におけるY3の発言はセクハラ、パワハラや退職強要、組合脱退強要などの意図はないので、不当なものではなかったと回答した。この回答が上記Y1の約束に反するものであることは明らかである。会社がY1を出席させなかったのは、同人の約束を合理的な理由もなく覆した上で、同人に対して約束違反を直接追及される事態を避けるためであったものとみざるを得ない。
したがって、会社が第1回団交における約束を反故にし、Y1を第2回団交に出席させなかったことは、不誠実な対応に当たる。
3 本件雇止めについて
X2は会社に採用された後、重度訪問介護業務に就いたが、遅刻を繰り返したり、利用者に労働運動等についての話をしたりしてクレームを受けるなどしており、会社も対応に苦慮していたものとみられる。その後、会社は居宅介護事業での同人の就労は困難と判断して同人を通所介護事業所であるAに異動させたが、異動後も同人は、従業員にビラを配布したために従業員から苦情が寄せられたり、作業報告書を記載せず、あるいは不適切な記載を繰り返したりするなど問題となる行動を行っていた。こうした状況の下で、23年6月以降も、同人は会社がレターケースを業務以外の目的で利用しないよう注意したにもかかわらず、それに「わーかーずたいむ」と題するビラを入れ、これについて会社が始末書の提出を指示しても提出しなかった。さらに、会社の指導にもかかわらず、作業報告書に適切な記載を行わず、利用者が帰宅時に発作を起こした際や利用者の送迎中に会社車両が事故を起こした際にも適切な記載をしなかったこともあった。
こうした事実を総合すれば、会社がX2は会社からの指示命令に従わず、改善を期待することは不可能と判断したのも無理からぬことであり、同人を雇止めとしたことには相応の理由があったものといえ、特に不自然であるとはいえない。
組合は、会社がX2の組合活動を嫌い、同人を会社から排除することを意図して準備を重ね、最終的に雇止めを行った旨主張する。しかし、23年1月から7月にかけてX2の活動をめぐり労使間に緊迫した関係があったことが認められるものの、その後約9か月間は団交が行われることもなく、特に会社と組合との間で紛争が生じていたという事情は認められない。むしろ、X2の業務に関する注意が繰り返されていただけである。
以上の事実を総合的に勘案すれば、会社がX2を雇止めとしたことは、その業務遂行上の原因によるものということができ、正当な組合活動をしたことや組合員であることを理由としたものとは認めることができず、したがって、不当労働行為に当たるとはいえない。 |
掲載文献 |
|