労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  日本郵便(東京多摩支店) 
事件番号  都労委平成23年不第70号 
申立人  郵政非正規ユニオン 
被申立人  日本郵便株式会社 
命令年月日  平成26年1月14日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   被申立人会社のA支店で契約社員として勤務していたX1は、平成23年2月23日、会社から同年3月31日付けで退職となる旨の通知を受けたが、会社にこの雇止めの撤回を求めた結果、雇用契約が更新され、4月1日以降も引き続き勤務することとなった。同じ頃、会社は、A支店で勤務する時給制契約社員の4月1日からの雇用契約期間を従前の6か月から3か月に短縮した。そして、5月下旬、X2ら9名の時給制契約社員を含む15名に対し、6月30日付けで退職となることを通知した。これを知ったX1は、6月10日、自らを執行委員長とする申立人組合を結成し、X2ら9名が加入した。同月13日、組合は会社に対し、組合が結成されたこと等を伝え、団交を申し入れた。
 本件は、①会社が23年6月30日、X2らを雇止めとしたこと、②会社が同年4月以降における組合員らの契約期間を3か月に短縮して契約を更新したこと、③会社が組合員個人に雇止め理由証明書を交付したこと、④組合との団交における会社の対応、⑤X1 と他の社員とのトラブルについての事情聴取の際、会社の課長Y2がX1に対し、暴言等を行ったことが事実だとした場合、そのこと、⑥会社が同年9月30日付けでX1を雇止めとしたことは不当労働行為に当たるか否かが争われた事件である。
 東京都労委は申立てを棄却した。 
命令主文   本件申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合員X2らを雇止めとしたことについて
 認定した事実によれば、上記の雇止めの通告がなされた5月27日ないし28日の時点で、被申立人会社はX2らが組合員X1に同調して申立人組合の結成に向けた活動をしていたとの認識を持っていたとはいえず、その余の点を判断するまでもなく、X2らに対する雇止めは組合員に対する不利益取扱い又は組合に対する支配介入には当たらない。
2 組合員らの契約期間を3か月に短縮して契約を更新したことについて
 認定した事実によれば、会社がX2らに対し、4月1日以降の契約期間を3か月とする旨を通知した2月下旬の時点で会社がX1やX2らが組合結成活動を行っていたとの認識を持っていたとはいえない。したがって、契約期間を短縮して契約を更新したことは、同人らの組合活動とは無関係なものといえ、不利益取扱いには当たらない。
3 組合員個人に雇止め理由証明書を交付したことについて
 労基法22条1項や会社の人事管理規程32条3項の文言からすれば、会社は雇止めとした本人に対して雇止め理由証明書を交付すればよいのであり、会社が組合に交付しなかったことを非難することはできない。
 また、会社が雇止め理由証明書を交付した後に行われた第1回及び第2回の団交において、組合は会社が組合員に直接交付したことを問題視しているものの、改めて組合にも交付するよう要求したとか、会社がそれを拒否したという事実は認められないことなどを併せ考えると、会社が雇止め理由証明書を直接交付したことにより、組合員に対し、組合の存在を殊更に無視したなどとの念を抱かせたとまではいえず、したがって、かかる行為は支配介入には当たらない。
4 団交における会社の対応について
 組合は、X2ら及びX1に対する雇止めを議題とする団交において、組合が求めた雇止めとなった者らの勤務実態や勤務成績を示す資料、A支店の財務諸表の開示を会社がことごとく拒否したことは、誠意をもって団交に臨むことを拒否したに等しい旨主張する。
 しかし、会社はX2ら及びX1の雇止めの理由について団交で「経営上の事由」であることを説明しており、同人らの勤務成績を理由に雇止めをしたなどとは説明していない。したがって、同人らの勤務実態や勤務成績を示す資料と雇止め理由との関係は希薄であり、会社がかかる資料を開示しなかったことが不誠実な団交に当たるとはいえない。
 また、組合がA支店の損益が分かる資料の開示を求める理由は、同支店の収益が黒字であれば、本件雇止めの必要はないとの考えに基づくものと推測されるが、会社はあくまでも同支店の赤字ではなく、会社全体の赤字を雇止めの理由として説明していることや、同支店の損益が分かる資料は作成していないと説明しており、実際にもそれを作成するには困難が伴うことからすれば、会社が会社全体の個別財務諸表を組合に提示し、説明をしようとしたことをもって誠実に団交に応じていたといえるのであり、同支店の損益が分かる資料を開示しなかったことは無理からぬ対応であったといえる。
 組合はまた、第3回団交において、組合が会社の課長Y2のX1に対する暴言等の存否に関連してY2に対する聴取書の開示を求めたのに対し、会社が、Y2が脅迫等の不法行為を行った事実は認められないから聴取書を開示する必要はないとして、これを拒否したことは団交の実効性を著しく弱めるなどと主張する。
 しかし、事故の調査をする上で作成する聴取書は通常、団交のような第三者が多数存在する場で開示されることは予定されておらず、また、個人情報等プライバシーにかかわる内容が記載されているという性質を有する。そして、後記5で判断するとおり、そもそもY2が不当労働行為と評価されるような暴言等を行ったとまではいえないことなどを併せ考慮すれば、会社が聴取書を開示しなかったことをもって、不誠実な団交に当たるとはいえない。
5 Y2のX1に対する暴言等について
 組合は、平成23年8月11日の勤務終了時のミーティングで、Y2が「本件トラブルについては面倒なので事情聴取などはしない。喧嘩両成敗で二人には帰ってもらう」との趣旨の発言を行い、かかる発言は不利益取扱い及び支配介入に該当する旨主張する。
 しかし、認定した事実によれば、上記のような発言があった事実は認められない。
 組合はまた、8月12日及び13日に行われたX1とY2との話合いの中で、Y2が「アルバイトの分際で組合なんか作りやがって」などと暴言を吐いたことや、X1が書き留めていたメモの提出を強制したこと等は不利益取扱い及び支配介入に当たるとも主張する。
 しかし、認定した事実によれば、Y2が上記のような発言を行ったとは考え難い。また、メモの提出を求める際に語気を荒げるなどY2の対応に行き過ぎの面があったことは否定できないものの、前述のとおり、同人が組合を強く嫌悪する発言をしたとは認められないことを併せ考えると、同人の対応が不利益取扱い又は支配介入に該当するとまではいえない。
6 X1を雇止めとしたことについて
 組合は、会社はいずれX1を解雇するための準備として、同人が採用された平成22年4月30日以降に採用された者を「短期雇用者」とした上で、その「短期雇用者」から雇止めをしたのであり、このようにして本来は短期雇用者に該当しない同人に対し、報復的な雇止め解雇を行ったものである旨主張する。
 しかし、認定した事実によれば、会社は遅くとも23年2月下旬までには「長期雇用者」・「短期雇用者」という区分を設定していたことが推認される。そして、前記1で判断したとおり、会社はその頃は同人の組合結成の動きを認識していなかったのであるから、上記の区分は組合の結成とは無関係に設定されたものであり、同人を排除するためのものとはいえず、むしろ会社が主張するように、営業利益が赤字となることを受けて、段階的に業務量に応じた適正な要員を配置するための対応の一環と理解することができる。
 もっとも、X1が短期雇用者に該当するとしても、同人の雇止めが組合員であることを理由に行われた場合には不当労働行為に当たる。しかし、同人が対象となった同年9月30日付雇止めの対象者を見る限り、組合の組合員だけを標的にした雇止めとはいえない。また、同人は2月に一度は雇止めの対象者となっていたことからすれば、会社は同人の組合結成の動きを認識する前から同人が雇用調整の対象であるとの認識を持っていたことが窺える。
 以上から、9月30日付雇止めは一定の合理性があり、X1が組合員であることと無関係になされたということができ、したがって、不利益取扱い又は支配介入には当たらない。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委平成26年(不再)第12号
日本郵便(東京多摩支店)不当労働行為再審査事件
棄却 平成28年6月15日
 
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