労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  東海市  
事件番号  中労委平成23年(不再)第65号  
再審査申立人  ゼネラルユニオン(「組合」)  
再審査被申立人  東海市(「市」)  
命令年月日  平成25年1月25日  
命令区分  棄却  
重要度   
事件概要  1 市は、20年度は申立外A社と、21年度は申立外B社とALT業務委託契約を締結し、これらに基づき、Xは市の教育委員会の管轄する小学校にALTとして勤務していた。
 本件は、市が、ALT業務の委託においてXに対し、労働者派遣法(派遣法)に違反して指揮命令等を行い、かつそのことについて愛知労働局から是正指導を受けXを直接雇用するよう推奨を受けたにもかかわらず、①Xの社会保険加入及び直接雇用等を議題とする団交申入れに、同人との間に雇用関係がないとして応じなかったこと、②Xの直接雇用を拒否したこと、③Xを22年度のALTから排除したことが、不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件である。
2 初審大阪府労委は、組合に対し、市はXの労組法上の使用者には当たらないとして、救済申立てを却下したところ、組合はこれを不服として再審査を申し立てた。

※ 市は、国際理解教育の一環である「英語が話せる子ども育成事業」の目的達成のため、英語が母国語である外国人のALTを活用した英語活動の授業を民間業者に委託して実施している。  
命令主文  初審決定を取り消し、本件救済申立てを棄却する。  
判断の要旨  1 市は、本件団交拒否及びXの直接雇用の拒否につき、労組法第7条各号の不当労働行為が成立する上での使用者に当たるといえるか。(争点1)
ア 労組法第7条にいう「使用者」は、雇用主以外の者であっても、例えば、当該労働者の基本的な労働条件等に対して、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有しているといえる者や、当該労働者との間に近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存する者もまた雇用主と同視できる者であり、これらの者は、その同視できる限りにおいて労組法第7条の「使用者」と解すべきである。
イ 市は、Xの就労時間等の勤務管理を行っていないが、Xに対してS&L(業務内容の指示書)の作成と授業の進行において業務委託の範囲を超えて部分的に一定の指揮命令を行っていたほか、ALT研修会を主催し、出席の指示及び研修会における業務の具体的な指示を行い、さらに給食・学校行事への参加に関する指示を行っていた。これらの指揮命令・指示は部分的であったものの、業務委託としては許されない指揮命令に当たり、21年度のALT業務委託の実態は、部分的に業務委託の形態を逸脱して、労働者派遣の形態に移行していたと認められる。
 しかしながら、派遣法第40条の4による直接雇用の申込義務は、同法上の要件を満たす「派遣先」に発生するものであり、また、派遣元から派遣可能期間に抵触する日の通知(抵触日の通知)を要件とするものであるところ、市が「派遣先」に該当したこと及び市に「抵触日の通知」がなされたとする証拠はなく、市の直接雇用(任用)の申込義務が生じていたといえず、市とXとの間に近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存していたと認めることはできない。
 また、労働局の口頭推奨は、Xの直接雇用を派遣法違反の状態の解決策の一つとして提示したものと解され、Xと市との間に新たな雇用契約が締結される可能性が新規採用の場合と比較して格段に高まったとはいえない。
 したがって、労組法第7条第1号から第3号のいずれについても、これらの観点からの市の使用者性は認められない。
ウ 一方、市がXの基本的な労働条件について、部分的とはいえ雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあるといえるかについてみると、Xの就労の管理については、雇用主であるB{C社の就労管理が徹底せず、市による指揮命令にわたるような関与が単発的・補完的・限定的に行われたものとみることができ、市の関与は雇用主と部分的とはいえ同視できる程度のものとまではいえない。また、Xの雇用の管理に関する市の支配の有無・程度についても、市は、ALTの小中学校への配置については相当程度影響力を行使していたと認められるが、市の支配力はその限りにとどまり、全体としてみれば、市は採用、配置、雇用の終了等一連の雇用の管理全般についてまで雇用主と部分的とはいえ同視できるほどに現実的かつ具体的な支配力を有していたと認めることはできない。したがって、Xの直接雇用等に関する団交申入れについて、市に労組法第7条第2号の使用者性を認めることはできない。
 また、市がXを直接雇用せず、学校に勤務させていないことについても、基本的労働条件に対する支配力という観点から市の労組法第7条の使用者性を認めることはできない。
エ 市は、労働局から派遣法第26条第1項に違反するとして是正指導を受けているものの、委託契約の解除等ALTの雇用の安定を阻害するような行為は一切行わなかったのであり、雇用の安定を講ずべき立場にあったとはいえず、組合の市は当該是正指導により団交に応ずべき使用者に当たるとの主張は失当である。
オ 組合は、Xの就労実態、Xの勤務における請負業者の反復交替の実態、労働局の是正指導及びこれに対する市の対応等の事情に照らし、Xの直用化要求には合理性及び妥当性があり、市は労組法上の使用者と考えるべきであると主張するが、組合の主張する各事実が、いずれも市の使用者性を肯定するに足りる事実とは認め難い。
2 上記争点1が肯定される場合、団交要求事項が義務的団交事項に当たるといえるか(争点2)、また争点1が肯定される場合、市がXを22年度に直接雇用せず市の学校に勤務させていないことは、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為といえるか(争点3)。
 上記1にみたとおり、市は労組法第7条各号が成立する上での使用者に当たるとはいえないから、争点2及び3については判断するまでもない。
3 主文の変更について
 本件においては、市が労組法第7条各号の使用者に当たらないとした初審の判断は正当であるが、その判断の内容は、本件の事実関係についての詳細な認定と評価に関わるものであって、「申立人の主張する事実が不当労働行為に該当しないことが明らかなとき」(労委規則第33条第1項第5号)に該当するとは言い難いので、本件救済申立てを却下することは適切でなく、同申立てを棄却するのが適切である。
 したがって、主文を変更し、一旦初審決定を取り消したうえで、本件救済申立てを棄却する。  
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成22年(不)第25号 却下 平成23年9月9日
 
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