労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  本田技研工業 
事件番号  中労委平成21年(不再)第25号  
再審査申立人  本田技研工業株式会社(「会社」)  
再審査被申立人  全日本造船機械労働組合アスベスト関連産業分会(「組合」)  
命令年月日  平成24年9月5日  
命令区分  一部変更  
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、組合員Xのアスベスト健康被害に関する補償等を議題とする団体交渉申入れに対し、Xは既に退職しており労組法上の「雇用する労働者」に当たらないとして、これに応じなかったことが不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件である。
2 初審神奈川県労委は、組合は「使用者が雇用する労働者の代表者」であると認められ、会社が本件団体交渉申入れに応じなかったことは、労組法7条2号に該当する不当労働行為であるとして、本件団体交渉申入れを拒否してはならないこと及び文書手交を命じたところ、会社はこれを不服として、再審査を申し立てた。  
命令主文  1 初審命令主文を次のとおり変更する。
 会社が団体交渉を拒否したことは、不当労働行為であることを確認する(具体的内容は省略)。
2 その余の本件再審査申立てを棄却する。  
判断の要旨  1 組合は、労組法7条2号の「使用者が雇用する労働者の代表者」に該当するか。
 労組法7条2号の規定を合目的的に解釈すれば、退職後の労働者に係る個別労働紛争解決のための団体交渉については、退職前の雇用関係に起因して、退職者の生命・健康にかかわるなどの客観的に重大な案件に係る紛争が発生し、退職前に当該紛争が顕在化しなかったことにつき、客観的にみてやむを得ない事情が認められるような場合には、例外的に「雇用関係が確定的に終了したとはいえない場合」とみなし、「雇用する労働者」に準じて考えるのが相当である。
 ①組合員Xは1年以上にわたり、いわゆるアスベスト暴露作業に従事しており、②その後、悪性胸膜中皮腫を発症し、③労災認定を受け、④これらに起因して本件団体交渉拒否事件が発生していることからすれば、退職前の雇用関係に関連して、退職者(組合員X)の生命・健康にかかわる重大な案件に係る紛争が発生したものといえる。
 そして、中皮腫の潜伏期間は概ね30~50年であることからすると、退職前に当該紛争が顕在化しなかったことについては、客観的にみてやむを得ない事情があったといえる。
 以上から、本件については、例外的に「雇用関係が確定的に終了したとはいえない場合」とみなして、組合員Xを「雇用する労働者」に準じて考えることができ、組合は、労組法7条2号の「使用者が雇用する労働者の代表者」に該当するといえる。
2 組合の要求する団体交渉事項は義務的団交事項に該当するか。
 団体交渉事項①(組合員Xの職場をはじめとする会社におけるアスベスト暴露の実態について調査して組合に明らかにすること)のうち、組合員Xの職場における実態調査については、安全衛生、災害補償に関する組合員の職場環境についてのものであるから、同組合員の労働条件等として、義務的団交事項に該当すると解するのが相当である。また、団体交渉事項②(悪性胸膜中皮腫の発生及びその責任を認めて組合員Xに文書で謝罪すること)と同③(組合員Xに悪性胸膜中皮腫に関する損害賠償を行うこと)については、退職前の雇用関係に関連して発症した健康被害に関するものであるから、同組合員の労働条件等として、義務的団交事項に該当すると解するのが相当である。
 しかし、団体交渉事項①のうち組合員Xの職場以外の職場における実態調査、同④(会社及び関連会社におけるアスベスト健康被害の実態を明らかにすること)及び同⑤(組合員Xの元同僚などの退職者にアスベスト暴露の実態を知らせるとともに健康診断等を呼びかけること)については、会社には同組合員のほかに組合に所属する従業員及び退職者は存しないことから、組合の組合員に係る労働条件等であるとはいえず、同組合員の労働条件に重要な影響を与えるものであるともいえないことから、義務的団交事項に該当するとはいえない。
3 会社が、組合からの本件団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当するか。
 上記1、2のとおり、組合は労組法7条2号の「使用者が雇用する労働者の代表者」に該当し、その要求する団体交渉事項の一部は義務的団交事項に該当する。
 また、本件団体交渉申入れ後の労使事情をみると、①組合は、会社に対し、団体交渉でなく話合いの形から始めることも可能というような一定の譲歩の姿勢を示したのに対し、会社は、組合との話合いには一切応じない姿勢を貫いている。②会社に他にアスベスト健康被害に関する相談窓口や独自の補償制度等が設けられているとの事実は見あたらない。③本件団体交渉申入れに応じられない旨の会社側回答に抗議して、組合は、団体行動権を行使する旨通知したが、その後、団体交渉の平和的な開催が妨げられるような事実は認められない。
 以上から、退職後団体交渉申入れまで長期間が経過しているものの、非常に長期間の潜伏期間を要するアスベスト関連の健康被害の特殊事情を鑑みれば、紛争解決のための他の方途が用意されているとか、団体交渉の実施に問題が生じる懸念があるなどの特段の事情は認められない本件においては、退職前の雇用関係に関連して発生した紛争に関する事項を議題とする本件団体交渉申入れに会社が応じないことに正当な理由があるとはいえない。
4 救済方法について
 本件団体交渉申入れに会社が応じなかったことは労組法7条2号の不当労働行為に該当する。
 ところで、会社は、組合員Xの会社に対する民事損害賠償請求事件で和解が成立したことにより、組合員Xに対する団体交渉目的は消滅したので、救済利益も消滅する旨主張するので検討すると、団体交渉事項②及び③については、初審命令交付後の24年3月16日の和解の成立により既に解決済みであると認められ、現時点では救済の必要性は失われたといわざるを得ない。しかしながら、団体交渉事項①のうち、組合員Xの職場に関する点については、和解の成立をもって、団体交渉拒否についての救済の必要性が失われたということはできない。
 本件の事情を考慮すると、組合員Xの退職後、長期間を経過し、既に事業場自体が存在しない職場のアスベスト暴露の実態を調査し組合に明らかにすることについて、団体交渉拒否の不作為義務及び文書手交を命じる必要性はないが、会社の団体交渉拒否に正当な理由がないことを明らかにし、将来の正常な集団的労使関係秩序の確保を期するために、会社の対応が不当労働行為であったことを確認する旨の命令を発することとする。  
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神奈川県労委平成20年(不)23号 一部救済 平成21年7月30日
 
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