労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]  [顛末情報]
概要情報
事件名  横浜自動車学校  
事件番号  神労委平成22年(不)第32号  
申立人  神奈川県自動車教習所労働組合横浜自動車学校支部  
被申立人  株式会社横浜自動車学校  
命令年月日  平成24年8月8日  
命令区分  全部救済  
重要度   
事件概要   被申立人会社の次の行為が不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
(1)申立人組合がストライキを通告したのに対し、①従業員に向けて、組合がストライキを起こせば、会社が解散する可能性がある旨の記載を含む文書を掲示したこと及び②教習生に向けて、ストライキが行われた場合には教習の予約変更をお願いする旨の文書を組合支部長の名前を記載した上で掲示したこと。
(2)組合がストライキを回避することを明らかにしていたのに対し、③団交において、会社の提案する条件に応じなければ、ストライキ予定日の就労は認めない旨述べるなど、不誠実な対応に終始したこと及び④ストライキ予定日前日にストライキを回避した組合員らに対し、ストライキ予定日の就労を認めなかったこと。
(3)⑤平成22年一時金交渉中に、「2010年夏季賞与支給について」と題する文書を掲示し、従業員に対して個別に一時金支給額の承諾を求めたこと及び⑥承諾した従業員に対して支給を行って、組合員に対する一時金の支給を大幅に遅らせ、さらに、労働委員会におけるあっせんによる解決金と同額の1万5千円を非組合員にも支払ったこと。
 神奈川県労委は、会社に対し、1 上記①及び②の文書の掲示による組合運営への支配介入の禁止、2 上記④の不就労扱いの取消し及び就労したら得られたであろう賃金相当額の支給、3 上記⑤の承諾を求めることによる組合運営への支配介入の禁止、4 文書手交を命じた。  
命令主文  1 被申立人は、従業員に向けて、申立人がストライキを起こせば被申立人が解散する可能性があることなどを記載内容に含む文書を掲示することにより、申立人の運営に支配介入してはならない。
2 被申立人は、教習生に向けて、申立人がストライキを行った場合の対応について申立人支部長の個人名を記載した上で文書を掲示することにより、申立人の運営に支配介入してはならない。
3 被申立人は、ストライキ予定日であった平成22年6月26日に出勤した申立人の組合員らに対して、不就労扱いを取り消すとともに同人らが就労したら得たであろう賃金相当額を支給しなければならない。
4 被申立人は、一時金の交渉中に、申立人の組合員に対して個別に一時金支給額の承諾を求めることにより、申立人の運営に支配介入してはならない。
5 被申立人は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人に手交しなければならない。
当社の次の各行為は、神奈川県労働委員会において労働組合法第7条第1号、第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
(1) 貴組合のストライキ予告をめぐり、従業員に向けて貴組合がストライキを行えば当社が解散する可能性がある旨を記載内容に含む文書を掲示したこと
(2) 教習生に向けて貴組合がストライキを行った場合の対応について貴組合支部長の個人名を記載した上で文書を掲示したこと
(3) 平成22年6月25日開催の団体交渉において、不誠実な対応に終始したこと
(4) ストライキ予定日であった平成22年6月26日に出勤した貴組合の組合員らに対し、就労を認めず、同年7月支給の給与から同日分の賃金を控除したこと
(5) 平成22年一時金の交渉中に、貴組合の組合員に対して個別に一時金の承諾を求めたこと
(6) あっせんで締結した貴組合の組合員への解決金と同額を非組合員に支給したこと
平成 年 月 日
 神奈川県自動車教習所労働組合横浜自動車学校支部
  支部長 X1 殿
株式会社横浜自動車学校
代表取締役 Y1 印
 
判断の要旨  1 ストライキを起こせば、会社が解散する可能性がある旨の記載を含む文書の掲示について
 被申立人会社が掲示した文書の文言は、申立人組合が実際にストライキを起こせば、会社が解散してしまい職場がなくなるかもしれないと組合員に心理的に不安を与え、動揺を誘い、ストライキ実施を躊躇させるに十分なものであるといえる。よって、当該文書の掲示は、単に会社の現況について従業員に理解を求めるにとどまらず、組合のストライキを抑制し、組合員に対して威嚇しようとしていたものといえるのであり、組合の運営に不当な影響を及ぼすものとして支配介入に該当する。
2 ストライキが行われた場合には教習の予約変更をお願いする旨の文書の掲示について
 当該文書に組合支部長の個人名を載せている点については、掲示の内容が、組合がストライキを実施すると、当日の教習がほとんどできなくなる旨を告知するものであること、会社は今まで教習生に対する掲示物に組合支部長の個人名を載せたことがないことなどからすると、かかる掲示に限って必要性があったとは思われない。会社がこれを掲示したのは組合が抗議先として社長らの個人名を記載したビラを配布した直後であることを併せ考えると、会社はこのような組合活動を嫌悪し、これに対する報復措置として、ことさら組合支部長の個人名を記載したものといえ、このような文書を掲示することにより、組合のストライキ実施やビラ配布行為を妨害し、萎縮させようとする意図があったとみるのが相当である。よって、会社が当該文書に組合支部長の個人名を記載したことは、組合活動を萎縮させようとして行ったものと推認でき、支配介入に該当する。
3 団交における会社の対応について
 組合が平成22年6月18日に同月26日の24時間ストを通告した後、会社は22日にスト回避のための事務折衝を、25日に夏季一時金支給のための団交をそれぞれ設定した。しかし、実際には事務折衝ではスト回避に向けての折衝は行われず、会社は24日午後から教習生の予約のキャンセル作業を開始している。こうしたことからすると、会社は事務折衝終了時点でスト回避の可能性は低いと判断し、24日午後の時点で、仮にストライキが回避されたとしても26日には組合員による教習は行わないこととしたことが窺われる。そして、組合からスト回避が伝えられた後の25日の団交では、社長がストライキを回避するための団交ではない、組合が団体交渉してくれというから行った旨の発言をし、一時金についてもスト回避についても誠実に対応していたことは窺われない。よって、会社が同日の団交において誠意をもって交渉に応じたものとはいえず、団交拒否に該当する。
4 ストライキ予定日の就労を認めなかったことについて
 予定されていたストライキが不実施に至った場合にストライキ組合の労働者の就労を拒否することは、使用者による就労拒絶にほかならず、それがことさら組合や組合活動を嫌悪して行われた場合には不当労働行為に該当する可能性がある。
 本件の場合には、会社がストライキ当日の教習生のキャンセル作業を行ったことは不適切とはいえないにしても、それとストライキ回避後の組合員の就労を拒否することは別個の問題である。会社としては、組合員を受け入れて他の業務に就かせることも可能であり、仮に業務がなく賃金支払という負担だけが発生したとしても、それは会社の判断の結果として会社が負うべきリスクであり、組合員に負わせるべきものではない。また、会社は、6月24日の昼までにスト回避が決定されなければ26日の就労は認めない旨を一方的に組合に伝えていたことからすれば、ストライキへの対抗手段として当初から、ストが回避された場合でも組合員の就労を認めないという態度であったものと推測される。
 以上のことからすれば、本件就労拒絶は、本来会社が負担すべき組合員の就労受入れによる賃金支払を免れ、賃金喪失の不利益を組合員に負わせることを意図して就労を拒否するという、本件ストライキを計画したことに対する報復的な性格を否定できず、組合組織に打撃を与えることを意図して行われた不当労働行為に当たるといわざるを得ない。
5 従業員に対して個別に一時金支給額の承諾を求めたことについて
 組合が22年6月25日、当委員会にあっせん申請をしたために、従業員に対する夏季一時金の支給が遅くなることを懸念した会社が何らかの対応策を講じようとしたことにはそれなりの理由があるものといえる。したがって、会社が7月8日に「2010年夏季賞与支給について」と題する文書を掲示したことのみをもって直ちに組合に対する支配介入の意図があったとはいい難い。しかし、会社は、あっせんも始まっていない状況であるにもかかわらず、あっせん前に承諾した従業員への一時金の支給が仮払いではないことを組合に伝えている。このことからすると、会社がかかる掲示を行った意図は、組合との交渉やあっせんの結果に関係なく、一時金支給希望者には会社の提示する金額を確定的なものとして支払うということであり、その意味で会社が上記文書を掲示したことは組合との団交及びあっせんを軽視し、組合の運営に介入するものといえる。
6 夏季一時金について、組合員に対する支給を大幅に遅らせ、また、非組合員に対してあっせんの解決金と同額を支給したことについて
 組合と会社はあっせん交渉中であり、妥結の遅れにより一時金の支給が遅れることはやむを得ないものであることなどからすると、会社がことさらに組合員への一時金の支給を遅らせようとした意図があったとまでは認められない。
 会社が既に夏季一時金の支給を受けていた従業員に1万5千円を支給したことについてみると、組合と会社が締結したあっせんでの和解協定書の記載によれば、当該1万5千円は賞与ではなく労使紛争の解決金としての性格をもつものといえる。会社が組合員への一時金支給日と同日にこれを支給していることなどを併せ考えると、会社が非組合員に1万5千円を支払ったことは、解決金の趣旨を非組合員との関係では賞与の上積みに一方的に変更し、ひいては組合との間のあっせん結果の意義を減殺するものであったとみるのが相当であり、組合の運営に介入するものといえる。  
掲載文献   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委平成24年(不再)第42号 棄却 平成26年11月19日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約410KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。