労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  江戸川学園/江戸川学園(22年度校務分掌) 
事件番号  都労委平成21年不第41号・不第110号、平成22年不第52号 
申立人  東京私立学校教職員組合連合、江戸川大学総合福祉専門学校教職員組合、X2(個人)、X3(同)、X4(同)、X5(同) 
被申立人  学校法人江戸川学園 
命令年月日  平成24年4月17日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   被申立人法人の設置するA専門学校は近年、学生数の減少により経営が悪化していた。このため、法人は教職員から成る委員会等を設けて同校の改革について検討し、その結果により、平成21年度以降、一部の学科の廃止、役職定年制の導入等の措置を講じることとした。本件は、このような状況の下で、法人のとった次の行為や対応が不当労働行為であるか否かが争われた事案である。
①平成21年4月1日付けで、社会福祉士養成科の嘱託教員として勤務していた組合員X2の統括主任の役職を解いた上、社会福祉科に異動させたこと。
②20年度をもって専任講師を辞し、21年度は非常勤講師として勤務することを希望していた組合員X3に対し、21年3月、21年度は採用しないことを通告したこと。
③役職定年制の実施及びX3の雇用終了を巡る団交における法人の対応
④21年9月、22年度からの養成科通学課程の廃止を決定したこと。
⑤嘱託専任講師として引き続き勤務することを希望したいた組合員X4を、定年後再雇用者の基準に関する労使協定による再雇用期間満了を理由に、22年度において雇用しなかったこと。
⑥X4の雇用終了を巡る団交における法人の対応
⑦X2が22年度に担当する校務分掌を教職員研修委員のみとしたこと。また、社会福祉科に属していた組合員X5を22年4月1日付けで精神保健福祉科に異動させたこと。
⑧22年度の校務分掌等を巡る団交における法人の対応
⑨法人の設置するB大学でX2が授業を担当していた社会福祉論の科目を23年度から廃止することとしたこと。
 東京都労委は法人に対し、1 X3を平成21年4月1日付けでA専門学校の非常勤講師として採用したものとして取り扱うこと及びバックペイ、2 X3の職場復帰の時期及び雇用の終期等に関する団交にA専門学校の校長等を出席させ、誠実に応じること、3 文書交付、4 履行報告を命じ、その余の申立てを棄却した。  
命令主文  1 被申立人学校法人江戸川学園は、申立人X3を、平成21年4月1日付けで江戸川大学総合福祉専門学校の非常勤講師として採用したものとして取り扱い、同人に対し、同日以降職場に復帰するまでの間の賃金相当額を支払わなければならない。
2 被申立人学園は、申立人東京私立学校教職員組合連合及び同江戸川大学総合福祉専門学校教職員組合から、前項の申立人X3の職場復帰の時期及び雇用の終期、並びに組合員の校務分掌及び異動に関する団体交渉の申入れがあったときは、江戸川大学総合福祉専門学校の校長又はこれらの事項について同校長と同程度に説明及び交渉することのできる者を団体交渉に出席させ、誠実にこれに応じなければならない。
3 被申立人学園は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人東京私立学校教職員組合連合及び同江戸川大学総合福祉専門学校教職員組合に交付しなければならない。
平成 年 月 日
 東京私立学校教職員組合連合
 中央執行委員長 X1 殿
 江戸川大学総合福祉専門学校教職員組合
 執行委員長 X2 殿
学校法人江戸川学園
理事長 Y1
  当学園が、役職定年制の実施、貴組合員X3氏及び同X4氏の雇用終了並びに同X2氏及び同X5氏の平成22年度の校務分掌等に関する団体交渉に誠実に応じなかったこと、X3氏の出席する団体交渉を拒否したこと、及び平成21年4月1日以降、X3氏を非常勤講師として採用しなかったことは、東京都労働委員会において、いずれも不当労働行為であると認定されました。
  今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
  (注 : 年月日は文書を交付した日を記載すること。)

4 被申立人学園は、第1項及び前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
5 その余の申立てを棄却する。  
判断の要旨  1 組合員X2の統括主任解任と異動について
 役職定年制が申立人組合又は組合員に打撃を与える目的で導入されたものであるということはできないし、役職定年制を不当に運用してX2を殊更に不利益に取り扱ったということもできない。したがって、役職定年制の導入に伴うX2の養成科統括主任解任は、同人が組合員であるが故の不利益取扱いにも、また、組合を弱体化させるための支配介入にも該当しない。
 X2の社会福祉科への異動については、社会通念上、不利益取扱いに相当するという事情は認められない。また、これによって組合活動にどのような支障が生じたのかなどについて具体的な主張や疎明はなく、組合に対する支配介入であるともいえない。
2 組合員X3の雇用終了について
 法人は、21年度、X3を非常勤講師として採用することを予定していたものの、同人が組合活動を続けると表明したことを契機に、これを取りやめたものとみるほかはない。そして、従前は、専任講師が退職しても本人の希望があれば非常勤講師として採用してきたことからすれば、X3を採用しない扱いをしたことは、組合運営の中心人物の一人であった同人が組合活動を続けることを嫌悪し、同人を学園から排除するための不利益取扱いであり、組合運営に対する支配介入にも該当する。
3 役職定年制の実施及びX3の雇用終了を巡る団交における法人の対応について
 法人は、新年度まで1か月程度しか残されていない時期に役職定年制の導入を発表し、組合が団交において、混乱が生じると抗議したのに対して、結局回答しなかった。また、教員について事務職員よりも1年先に実施する理由を問われたのに対し、単に、若返りを図るとか、事務職は引継ぎが必要と抽象的に述べるにとどまったことは、誠実に団交を行ったと評価することができない。
 法人は、組合が団交において、X3以外に福祉経済論を教えられる教員がいないという具体的な問題を指摘し、同人の採用について再考を求めても、結局何も答えていないのであるから、誠実さに欠ける対応であったといわざるを得ない。また、X3が団交に出席しているのを見て、「X3が出るなら団交はしない」と述べて席を立つなどした。こうしたかたくなな対応に鑑みれば、法人は、専任講師でなくなったX3を組合から排除することで組合の弱体化を意図したものとみるのが相当である。
4 養成科通学課程の廃止について
 組合は、養成科通学課程の廃止はX2が養成科への復帰を求めて本件救済申立てを行ったことに対する報復措置である旨主張する。しかし、同課程の廃止については本件申立て以前から、既に検討対象になっていたといえる上、専門学校の財政状況からみて相応の理由があった認められるから、組合らの主張は採用することができない。
5 組合員X4の雇用終了について
 組合と法人が19年3月に締結した労使協定によれば、X4の再雇用期間は22年3月末で終了すると解釈するほかはない。もっとも、再雇用期間が満了しても、別の形で新たにX4を雇用する可能性もあったといえるから、組合が同人の雇用が継続されると期待したことにも無理からぬ理由があったともいえる。しかし、法人は、22年度末をもって、X4の雇用を終了すると同時に、64歳以上の教職員4名を一斉に退職させており、こうした取扱いの真の目的が組合員であるX4を排除することにあったと判断するに足りる事実は認められない。したがって、X4が雇用されなかったことは、同人が組合員であるが故の不利益取扱いにも、組合らが本件救済申立てをしたことに対する報復的不利益取扱いにも、組合運営に対する支配介入にも該当しない。
6 X4の雇用終了を巡る団交における法人の対応について
 法人は団交において、X4の雇用終了の理由については説明をしているものの、専門学校の人事権を有し、その教育体制について実態を最も良く把握している校長の出席をかたくなに拒否し続け、X4の雇用継続の可能性及び次年度の教育体制に関する組合らの疑問について何ら具体的に回答しなかった。したがって、法人の交渉態度は、不誠実な団交に該当するといわざるを得ない。
7 X2への校務分掌の割当て及び組合員X5の異動について
 22年度にX2が校務分掌を1つしか割り当てられなかった主な原因は、同人の組合活動ではなく、同人が学科改変委員会で期待に沿う結果を出せなかったことやパワハラ問題で信頼を失ったことにあるとみるのが相当であるから、法人の対応は同人が組合員であるが故の不利益取扱いにも、組合活動を萎縮させるための支配介入にも該当しない。
 X5の異動については、職位に変更はなく同人の評価を低下させるものとはいえないし、給与、勤務場所及び担当科目にも変更はなかったのであるから、同人に不利益が生じたと評価することはできない。
8 22年度校務分掌等を巡る団交における法人の対応について
 組合が校務分掌において組合員が差別されていると考え、疑問を呈したり、X5の異動も差別の一環としてとらえ、その撤回を要求したりしたのに対し、法人は、身分や給料などが下がることのない限り、校務分掌は学園の専権であるという態度でこれを一蹴している。また、そもそも法人が、校務分掌やX5の異動を決定した校長を団交に出席させなかったことからすれば、22年度の校務分掌等について組合と協議する意思があったのか否かも疑わしいといえる。したがって、法人の対応は不誠実な交渉態度であったといわざるを得ない。
9 大学における社会福祉論の科目廃止について
 B大学では、19年の短大教員の編入により一般教育科目が増えすぎたという問題意識をもち、本件救済申立て以前から科目再編に取り組んでいたところであり、その検討結果による新しいカリキュラムの導入に伴い、社会福祉論を含む28科目が22年度末で開講されなくなった。したがって、社会福祉論の廃止はこうした一般教育科目の再編の一環としてなされたものとみる以外になく、法人がX2に不利益を与えるため、あるいは組合活動に支配介入する目的で行ったとの組合らの主張は採用することができない。  
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委平成24年(不再)第27号 棄却 平成27年1月21日
 
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