概要情報
事件名 |
モービル石油(薬物規定団交) |
事件番号 |
中労委平成9年(不再)第45号 |
再審査申立人 |
スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合 |
再審査申立人 |
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再審査被申立人 |
エクソンモービル有限会社 |
再審査被申立人 |
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命令年月日 |
平成22年11月4日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
会社が「アルコール、薬物規制規定」(以下「薬物等規制規定」という。)を定めたところ、①組合からの同規定の制定等に関する団交(以下「本件団交」)」において、形式的団交を重ね実質的な団交を行わなかったこと、②組合の合意を得ることなしに、組合員に薬物等規制規定に基づく定期検査を求め、強要したことが不当労働行為であるとして、申し立てられた事件である。
大阪府労委は、本件団交における会社の対応に不誠実団交等の不当労働行為があったとは認められず、また、組合員に対する定期検査の指示に強要があったとは認められないとして、組合の救済申立てを棄却したところ、組合は再審査を申し立てた。 |
命令主文 |
本件再審査申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 本件団交における会社の対応が不誠実団交等に当たるか。
(1)組合と会社の間においては、服務規則規定等の判定について、事前協議等を義務づける協定は存在しない。そして、薬物等規制規定は、会社が団交で説明しているとおり、危険物である石油製品の取扱いを日常業務とする会社が地域社会等に対する安全確保の責任を全うするためのもので、会社が自身の経営判断で組合に諮ることなく制定・実施したことは、安全対策の重要性にかんがみれば経営上必要な措置と認められる。
(2)① 組合と会社間の本件団交の経緯をみると、会社は組合に対して薬物等規制規定を提示し、その後は本件団交に応じているところ、その中で会社は、同規定を新設した目的等について説明するとともに、組合から示された人権侵害の危険性や定期検査を受けない場合等の懲戒処分の手続等に関する組合の質問に具体的に説明を行っている。 しかも、会社は、組合からの同規定の実施に当たっては組合員に強要しないようにとの申入れに対して、直ちに定期検診を強行することなく、定期検査を受けてほしいと要請しながら、粘り強く組合の理解と協力を求めている。なお、課長と組合員間で、定期検査を受けてくれ、受けないとのやりとりが繰り返されたことが認められるが、これについても強要があったとは認められないから、これをもって不誠実な団交態度とまではいえない。
② また、会社は、定期検査を受けない場合等の懲戒処分について、組合と協議決定することを条件に受け入れるとの組合からの提案に対しても、本件団交の中で懲戒処分に付する場合には組合と協議決定するとの条件の受入れはできない旨述べ、この会社方針については終始一貫した態度を維持したが、その余の定期検査の具体的な検査方法の明示や、検査結果の本人への通知については、組合の提案を受け入れる姿勢を示しており、組合の提案の一部を受け入れなかったからといって、不誠実な対応であったとはいえない。
③ さらに、会社は、懲戒処分について疑義があるとの組合の見解に対して、その基準や手続に関して、懲戒処分の手続等が記載された管理職向けガイドを組合に渡し、検査の結果薬物使用の疑いがある場合でも懲戒処分に該当するか否かは本人に弁明の機会を与えた上で、就業規則に基づき判断する旨回答するなど、組合の疑義につき丁寧に説明し、かつ組合要求への可能な譲歩を行って、誠実に対応している。
④ そして、本件団交の中で、組合は、組合の対案を受け入れなければこれ以上交渉できないなどと述べ、他方、会社も懲戒処分について事前協議する考えはない旨述べており、結局双方の見解は平行線のまま推移していたというのであるから、薬物等規制規定や組合員の定期検査等に関する問題は、双方の主張が対立して平行線となり、膠着状態になっていたというべきである。
(3) 以上のことからすると、本件団交における会社の対応は、誠実団交義務違反等に当たるとはいえない。 2 組合員に対する定期検査の受診指示が支配介入に当たるか。
(1) 会社は、薬物等規制規定を発効させ、本件初審結審時まで毎年組合員に対して定期検査の受診を指示をしているが、会社の指示は、他組合の組合員や非組合員を含む安全にかかわる特定の職務に従事する全従業員に対して行われており、他組合も同規定に反対ないし慎重な立場をとる中で、会社は、各組合に対し説明等を行って定期検査への協力を求めていたものである。したがって、会社が、組合とのみ合意を得なかったからといって、殊更組合のみを狙い撃ちにして、組合弱体化の意図をもって組合員に定期検査の受診を直接働きかけたとみることはできないから、会社が定期検査の受診指示をしたことが組合に対する支配介入に当たるということはできない。
(2) 会社が定期検査を組合員に強要していたかについてみると、なるほど課長と組合員間で、定期検査の受診をめぐりやりとりが繰り返されたことが認められるが、これをもって強要があったとは評価できず、組合も団交の行われていた間に会社が組合員に対して定期検査の強要をしていなかった旨認めており、実際にも定期検査で組合員が受診を強要された事実はみられないから、会社が定期検査を組合員に強要していたとは認められない。 |
掲載文献 |
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