概要情報
事件名 |
ニチアス |
事件番号 |
中労委平成20年(不再)第30号 |
再審査申立人 |
ニチアス株式会社 |
再審査被申立人 |
全日本造船機械労働組合ニチアス・関連企業退職者分会 |
再審査被申立人 |
全日本造船機械労働組合 |
命令年月日 |
平成22年3月31日 |
命令区分 |
一部変更 |
重要度 |
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事件概要 |
会社在職中に石綿に暴露する作業に従事した労働者らが、退職から長期間経過後に判明した胸膜プラークについて、その補償等を求めて分会を結成した。
本件は、会社が、全日本造船機械労働組合関東地方協議会神奈川地域労働組合及び分会から申し入れられた、分会の組合員(会社在職中の従業員はいない。)に対する胸膜プラークの補償制度の創設等を議題とする団体交渉に応じなかったことが、労組法7条2号の不当労働行為に当たるとして、分会らから申立てがあった事案である。
初審奈良県労働委員会は、会社に対して、本件団交に応諾することを命じたところ、会社は、これを不服として、再審査を申し立てた。
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命令主文 |
初審命令主文第1項を取り消し、同項に係る救済申立てを棄却する。
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判断の要旨 |
1 分会は、会社が「雇用する労働者の代表者」に該当するか
(1) 労組法7条2号が基礎として必要としている雇用関係には、①現にその関係が存続している場合だけではなく、②解雇され又は退職した労働者の解雇・退職の是非(効力)やそれらに関係する条件などの問題が雇用関係の終了に際して提起された場合及び③雇用関係継続中に個別労働紛争を含む労働条件等に係る紛争が顕在化していた問題について、雇用関係終了後に、当該労働者の所属する労働組合が団体交渉を申し入れた場合も含まれると解される。
(2) 本件は、前記①~③のいずれの場合にも当たらないが、労組法7条2号の規定を合目的的に解釈すれば、労働者の退職後に顕在化した個別労働紛争解決のための団交については、退職前の雇用関係に起因して、退職者の生命・健康に関わるなどの客観的に重大な案件に係る紛争が発生し、退職前に当該紛争が顕在化しなかったことにつき、客観的に見てやむを得ない事情が認められるような場合には、同規定の「雇用する労働者」に準じて考える余地がないではない。
(3) 胸膜プラークが法令上の疾病とされていないといった側面から見ればなお、胸膜プラークが出現したこと自体を補償の対象とする本件紛争が客観的に重大な案件に係るものであるといえるかといった点につき疑問が残るが、胸膜プラーク出現者については、将来的には中皮腫等の重篤な疾病が生じる可能性が否定できないこと及び胸膜プラーク出現までの長期潜伏性等からすれば、上記(2)の場合に該当すると判断することも一応可能であり、「雇用する労働者」に準じて考える余地があるといえなくもない。
2 本件団交拒否には正当な理由がないか
本件においては、法的安定性・明確性の側面にかんがみると、団交を義務づけることに疑問を抱かざるを得ないほど退職後長期間(約25年ないし50年)が経過していることに加え、会社は胸膜プラークが出現した者について健康管理手帳交付支援による重篤な疾病の早期発見及び疾病が判明した段階での独自の補償等による救済措置を既に講じていること、会社に対し建設的な団交の実施につき重大な疑念を抱かせるような言動が分会ら側にあったことなどを総合的に判断すれば、会社が代理人弁護士を介した交渉の方途を用意しつつ、分会らの本件団交の申入れを拒否したことには、労組法7条2号の「正当な理由」がないとまではいえないというべきである。
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掲載文献 |
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