労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名 盛岡観山荘病院
事件番号 中労委平成18年(不再)第40号
再審査申立人 盛岡観山荘病院ことA
再審査被申立人 盛岡精神病院従業員組合
命令年月日 平成20年2月20日
命令区分 一部変更
重要度 重要命令
事件概要 (1) 本件は、個人病院の開設者A医師が、[1]職員向け説明会において、参加した組合員に脱退届の書式を配布するなどして組合からの脱退を勧奨したり、組合の抗議行動に同調しないよう求める発言等をしたこと、[2]組合が申し入れた団体交渉を拒否したことが不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
(2) 初審岩手県労委は、[1]脱退届の提出を示唆する等の言動による脱退勧奨の禁止、[2]組合員の病院敷地内への立入りを禁じることや組合の抗議行動に参加・同調しないよう発言等をすることによる支配介入の禁止、[3]団交応諾、[4]上記[1]~[3]に係る文書交付を命じた。
(3) A医師は、これを不服として、再審査を申し立てた。
命令主文 (初審命令主文第2項を変更)
ア 組合員の解雇と不採用等に対する組合の抗議行動に参加・同調しないよう発言等することによる支配介入の禁止(病院敷地内への立入禁止により支配介入しないよう命じた部分を変更)
イ その余の再審査申立ての棄却
判断の要旨 ア 組合の申立適格について
組合が解散のための総会決議を行ったとの事実はなく、組合規約で定めた解散事由の発生も認められない。また、組合規約によれば、組合員の組合員資格は失われていないことが認められる。したがって、組合は労働組合として存続し活動しているのであるから、申立適格が認められる。
イ 再審査申立人(A医師)の被申立適格(使用者性)について
不当労働行為制度は契約責任を追及するものではなく、労働者が団交その他の団体行動のために労働組合を組織し運営することを擁護すること等を目的とするものであるから、労組法第7条の使用者は労働契約上の使用者に限定されず、これと同視しうる者も含まれると解される。
ウ 本件団交拒否について
(ア) 平成17年6月16日付け団交申入れ(団交事項:賃金・労働条件及び病院運営等)について
本件団交申入れの時点(平成17年6月16日)において、A医師は15日後には新病院の労働契約上の使用者となることが予定され、組合員を含む旧病院の従業員は新病院においても引き続き雇用される蓋然性が大きかったといえる。そうすると、A医師は近接した時期に、組合員らを引き続き雇用する可能性が現実的かつ具体的に存する者といえるのであり、団交申入れ時点において労働契約上の使用者と同視できる者である。
したがって、A医師が団交申入れの時点において労働契約上の使用者であるかを検討するまでもなく、A医師は労組法第7条第2号の使用者に該当する。また、本件団交申入れに係る交渉事項が義務的団交事項であることは明らかであるから、この団交申入れに係る団交拒否について不当労働行為であるとした初審判断は結論において相当である。
(イ) 平成17年7月1日付け団交申入れ(団交事項:応募した希望者全員を採用すること等)について
A医師による新病院の開設は新規開設の形式は取っているものの、実質は旧病院の事業の承継といえること、A医師主導のもとに行われた採否の決定に至るまでの一連の行為の実態は、継続して雇用する者と新病院開設を契機に解雇する者とに選別するものであったといえることから、本件における不採用は、労組法第7条第2号の適用に当たっては、新病院開設に伴う従業員の新規採用の場合の不採用と同視することは相当ではなく、実質的にはA医師による解雇と同視すべきものである。よって、本件団交申入れの実質は、解雇と実質的に同視すべき採用拒否を争って団交を求めるものである。したがって、A医師は団交事項との関係では、労働契約上の使用者と同視すべき者であって、労組法第7条第2号の使用者に該当するから、この団交申入れに係る団交拒否について不当労働行為であるとした初審判断は結論において相当である。
(ウ) 平成17年7月15日付け団交申入れ(団交事項:病棟の夜勤体制の大幅な人員増等)について
団交申入れ事項は、新病院の労働条件の改善に関する事項であり、義務的団交事項に当たることは明白である。また、団交申入れ時点及びそれ以降においても、新病院の従業員の中に組合の組合員が存在していたことは明らかである。よって、A医師はこれら組合員の労働契約上の使用者であり、労組法第7条第2号の使用者に該当するから、この団交申入れに係る団交拒否について不当労働行為であるとした初審判断は相当である。
エ 職員説明会における文書配布等について
病院は、自らが採用した職員のほとんどが解雇前に組合の組合員であったことを認識した上で、脱退届書式を用意提供したり、脱退届の提出を適切とする旨の発言をしており、このような言動は組合員に対する明白な脱退勧奨であるといわざるを得ない。また、A医師が同説明会を開催した目的は、組合が予定していた争議行為を目前にして、在職者から組合活動に参加ないし同調する者が出ないよう周知徹底することにあったものと推認される。
したがって、A医師のこれらの行為は労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。
オ 病院敷地内への立入禁止について
本件救済申立てにおいて、A医師による病院敷地内への立入りを禁ずる旨の発言は申立事項に含まれていたが、平成17年7月1日以降組合員らの病院敷地内への立入りを禁止したこと自体は申立事項には含まれていない。また、平成17年7月1日以降、組合は不採用となった組合員らによる「出勤闘争」を行ったところ、その「出勤闘争」は、もともとA医師から退出を命じられたら速やかに退出することを内容とする活動であって、同措置によって妨げられるものではなく、現に7月20日まで継続して行われたことが認められるから 、組合の「出勤闘争」との関係では、立入禁止措置自体が組合に対する支配介入に当たるとはいえない。

掲載文献  

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
岩手県労委平成17年(不)第2号 一部救済 平成18年6月15日
 
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