労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名 エクソンモービル(賃金・一時金差別等)
事件番号 中労委平成15年(不再)第24号
再審査申立人 スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合
再審査被申立人 エクソンモービル有限会社
命令年月日 平成19年7月4日
命令区分 棄却
重要度  
事件概要 本件は、会社が、組合員8名(A、B、C、D、E、F、G及びH。以下「本件組合員」)に対し、(1)平成3年度から同11年度までの基本給を、会社配分額等を差別決定して支給したこと、(2)同3年夏季ら同11年冬季までの一時金を、支給月数を差別決定して支給したこと、(3)賃金・一時金制度を公開せずに不公正な運用をしたことが、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして、組合から救済申立てのあった事件である。
 初審大阪府労委は、救済申立てのうち、(1)については同3年度ないし同5年度及び同7年度の基本給の是正を、(2)については同3年夏季ないし同5年冬季及び同6年冬季ないし同8年夏季の各一時金の是正を申立期間徒過を理由に却下し、その余を棄却したところ、組合はこれを不服として再審査を申し立てた。
命令主文 本件再審査申立てを棄却する。
判断の要旨 (1) 救済申立期間について 
 使用者の査定に基づく当該年度の賃金決定行為とこれに基づく賃金の支払とは、一体として一個の不当労働行為を構成し、また、夏季・冬季一時金の業績評価に基づく査定はそれぞれ独立して行われ、これに基づく各一時金の支給行為は、その都度完結する1回限りのものであるから、本件救済申立てのうち、基本給の最後の支払時及び一時金支払日から1年以上経過してなされた申立ては却下する。
(2) 本件組合員に対する基本給及び一時金に関する差別取扱いについて
ア 本件組合員全体に対する差別取扱い
(ア) 本件組合員の基本給の外形的格差は、組合員有資格者の平均賃上げ額(実際には本件組合員各人の賃上げ相当額)と組合員各人の賃上げ額との差額からは少なくとも同6年度及び同7年度については明らかではなく、一時金の外形的格差は、組合員有資格者の平均支給月数と組合員各人の支給月数との差からは明らかではない。なお、本件組合員の昇格による昇給の外形的格差については具体的な主張・立証がない。
(イ) 不当労働行為としての差別の存在を推認するには、量的比較を可能とする集団としての規模のほか、比較対象集団間の一応の均質性が求められる。この点、組合が比較対象とする組合員有資格者の集団(308~572名)には相当数の専門職が含まれるが本件組合員は全員非専門職であり、両集団の職種、学歴、勤務年数等の構成が均質であるか明らかでないなど、外形的格差から不当労働行為を推認するのに必要な均質性の立証がない。また、本件組合員(8名)は比較可能な量的規模を有しない。そこで、賃上げ・一時金の取扱いにおける不当労働行為の存否をみるためには、更に業績評価制度の合理性、査定の公平性、本件組合員各人に対する差別取扱いの存在を検討する必要がある。
イ 本件組合員各人に対する差別取扱い
(ア) 業績評価制度の合理性及び査定の公平性
 業績評価制度は、全社一律のガイドラインに基づき従業員ごとに設定される目標に対する取組み状況及び到達度を上司が評価する方法により行われ、考課結果も直属の上司が面談により開示等しており、全社斉一的かつ上司の主観的・恣意的評価を排除する、一定の客観性を有する制度として整備されており、会社が上記手続に従わずに運用を行ったという組合の立証もない。また、同制度の改変について、別組合と交渉上の差別を行ったとの立証はなく、会社はその都度団交で開示・説明等し、最終的には賃上げ・一時金交渉は妥結しており、本件組合員のみが制度変更の適用を受けて不利益を受けたとの立証もないから、組合所属又は組合活動を理由に差別を受けたとは認められない。
 また、同制度の本件組合員への査定結果は、賃上げ・一時金ともに中位の評価が半数以上みられること等からすれば、本件組合員が集団として著しく低い査定を受けていたとは認められないから、会社の運用が組合所属による不公正なものであったとはいえない。
(イ) 本件組合員各人の差別的取扱いの有無
a A、B、C及びDは、組合が了承していない業務等を拒否し、電話応対時に指示どおり会社名を言わず、離席者の電話応対を拒否し、業績評価面接でこれらがマイナス要素である旨説明を受け続けても勤務態度を改めなかったこと等からすれば、会社が恣意的に低い業績評価を行ったとは認められない。
b 油槽所で危険物の荷揚げ等をチームで行っていたEが、業務内容の伝達・確認等を行う朝礼に出席しないことは首肯できず、朝礼参加後業績評価が一段階向上していること等から、所属組合理由の差別取扱いとはいえず、同年齢で同学歴であるMら3名との昇格の遅れも、職種転換歴及び処分歴を考慮すると、組合所属理由の差別的取扱いとは判断できない。 
c Fの業績評価はすべて中位であり、一時金の支給月数はほぼ平均であって査定が直ちに不当とは認め難い。別組合の組合員であるKら4名との昇格の遅れは、格差の具体的な主張・立証がなく、学歴が異なり、勤務状況、組合活動等の比較が立証されていないこと等から、組合所属ないし組合活動による昇格差別とは認められない。
d Gの業績評価はすべて中位であり、一時金の支給月数はほぼ平均であって、総じてみれば査定が直ちに不当とは認め難い。Gは昭和62年以降昇格していないが、同期、同学歴、同職種の者との比較を立証していないから判断できない。
e Hの業績評価はすべて中位であり、一時金の支給月数もほぼ平均であって平均を上回る季もあり、査定が直ちに不当とは認め難く、個別具体的な主張・立証もない。
ウ 以上のとおり、(1)本件組合員と比較対象とされる組合員有資格者との両集団間に、外形的格差が明らかでなく、差別を量的に推認するに十分な量的規模や均質性も認め難いから、本件組合員の集団としての差別的取扱いを認めるに足りる立証がなく、(2)業績評価制度やその手続が全体として不合理で、その運用も本件組合員を総じて不当に取り扱ったと認めるに足りる証拠はなく、(3)本件組合員各人が組合所属又は正当な組合活動を理由に不当な取扱いがなされていることの的確な立証が認められず、加えて、会社の組合に対する不当労働行為意思の立証がないことを考慮すると、本件組合員の基本給及び一時金の取扱いについて労働組合法第7条1号及び第3号の不当労働行為があったとはいえない。
(3) 賃金・一時金の制度の公開と公正な運用について 
 会社は賃金・一時金制度の概要を既に開示し、業績査定配分の拡大に応じて、組合の要求を受けて団交でその詳細を順次明らかにしており、別組合と交渉上の差別があったとの立証もなく、非開示部分が残存することが直ちに不当労働行為に当たるとは解されず、運用も上記(2)判断のとおり不当労働行為とは認められず、同制度の逐次の改変も組合所属及び組合活動の故の差別であるとの立証がないこと等から、組合の主張は採用できない。
掲載文献  

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委7年(不)第42号・同9年(不)第32・同第74号・
同10年(不)第75・同第94号・同12年(不)第13号
棄却・却下(7不42、9不32)、棄却(その他) 平成15年4月11日
 
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