概要情報
事件名 |
日本貨物鉄道(嘱託採用差別) |
事件番号 |
中労委平成17年(不再)第35号 |
再審査申立人 |
日本貨物鉄道株式会社 |
再審査被申立人 |
全日本建設交運一般労働組合東海鉄道本部 |
命令年月日 |
平成18年12月6日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、平成14年度の定年退職後の嘱託社員の採用試験において、組合の組合員Aを不合格として嘱託社員として採用しなかったことが労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして救済が申し立てられた事件である。 初審静岡県労委は、会社に対し、(1)Aの嘱託社員に採用したものとしての取扱い、(2)同人が受けるはずであった賃金相当額(年5分の加算)の支払を命じ、(3)組合のその余の救済申立てを棄却したところ、会社はこれを不服として再審査を申し立てた。 |
命令主文 |
初審命令(1)及び(2)を取り消し、これに係る救済申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
(1 )嘱託社員の採用における不当労働行為の審査の可否について ア 会社は、本件嘱託社員の採用は新規採用の性格を持つものであり、不当労働行為禁止規定は新規採用差別には適用されないから、本件救済申立ては却下されるべきであると主張する。 イ 本件嘱託社員制度は、定年到達社員の既成の労働力を比較的軽度の業務に活用することによって、より効率的な人員の配置を達成しようとする趣旨で設けられたものであると認められる。しかしながら、会社の嘱託社員就業規則では、雇用契約期間は1年以内で、更新する場合は原則として年金満額支給開始年齢に達する月の末日までとされていたことからすると、嘱託社員制度が公的年金の満額支給までの間の収入を確保する側面を有しているとも認めることができる。加えて、会社は、嘱託社員への応募と再雇用機会提供制度における再雇用への応募を調整したり等しているのであるから、嘱託社員制度は、会社業務を効率的に実施する目的のみならず、社員の定年退職後の雇用対策や定年退職者の一定程度の収入の維持をもその趣旨・目的としているものといえる。 ウ 以上の嘱託社員制度の趣旨・目的に加え、嘱託社員の採用の実態をみると、同社員の採用は会社の定年退職予定者を対象として募集を行い、一定の基準を設けた上で選考しようとするものであり、定年退職予定社員にとっては定年退職後に同一企業との間で嘱託社員として雇用関係を維持できるかが問題となっているものである。そこでは雇用期間、給与等において重要な変更が行われるとはいえ、同社員にとっては同一職場で同一職種の業務が継続できるという点で定年後の雇用機会として大きな利点がある。このような嘱託社員選考において、定年退職前の組合所属や組合活動を理由として差別がなされるとすれば、それは従前の雇用関係を基礎に提供される雇用機会の提供において、従前の雇用関係を基礎とする労使関係において形成された不当労働行為意思に基づき不利益な取扱いをすることに他ならないのであって、これを会社の主張するような「採用の自由」の法理により労働組合法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たらないとすることは著しく不合理である。 よって、上記会社の主張は採ることができない。 (2 )組合員Aに対する本件嘱託社員不採用について 会社と建交労の労使事情をみると、会社は建交労の方針を快く思っていないことが推認され、他方では申立外B組合を好ましい労働組合と考え、同組合を重視した労務政策を採っていたことを認めることができる。また、平成14年度ないし同16年度の嘱託社員採用の実態をみれば、会社が同組合の組合員を優先して嘱託社員の採用を行ったとの疑いも生じうる。 しかしながら、嘱託社員の採用状況における労働組合間の差異は、組合所属を理由とする差別を量的に推認するには十分ではなく、また、嘱託社員制度の趣旨・目的が定年到達社員の既成の労働力を比較的軽度の業務に活用することによって、より効率的な人員の配置を達成しようとすることからすると、本件嘱託社員採用試験の内容・方法・基準が不合理なものであり、当該内容が嘱託社員の採用から特定の労働組合の組合員を排斥するために設定されたものとまでは認めることはできない。また、組合員Aの同試験の評価、特に小論文試験の評価はかなり低いものであったが、同人の回(解)答状況からみるとそれが不合理な評価であったとまでは認め難い。 以上からすると、本件嘱託社員採用試験において組合員Aが不採用となったことが同人の定年退職前の組合所属若しくは組合活動を理由としたものであったとはいえず、これを労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると認めることはできない。 |
掲載文献 |
不当労働行為事件命令集136集《18年9月~12月》1261頁 |