労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  岩井金属 
事件番号  中労委 平成13年(不再)第14号 
再審査申立人  株式会社育良精機大阪工場 
再審査申立人  株式会社広沢本社 
再審査被申立人  岩井金属労働組合 
命令年月日  平成16年 3月 3日 
命令区分  一部変更(初審命令を一部取消し) 
重要度   
事件概要  会社が、(1)組合執行委員長ら4名を懲戒処分等に付したこと、(2)当該4名の賃上げ・一時金を差別支給したこと、(3)労働協約を一方的に破棄したことが不当労働行為であるとして争われた事件で、大阪地労委は、会社に対し、(1)懲戒処分等がなかったものとしての取扱い、減給・賃金カット分等の支払、(2)賃上げ・一時金の差別支給の是正と差額の支払、(3)労働協約の解約がなかったものとしての取扱い、(4)文書掲示・手交を命じ、その余の申立ては却下した。会社は、これを不服として再審査を申し立てたが、中労委は、初審命令を一部変更し、再審査中に会社から営業を譲り受けたI社及びその後会社を吸収合併したH社に初審命令と同旨の救済を命じ、再審査申立てを棄却した。 
命令主文  Ⅰ 本件初審命令主文第1項から第8項までを、次のとおり変更する。
「1 再審査申立人株式会社育良精機大阪工場は、再審査被申立人岩井金属労働組合各組合員(当時組合員であったX1を含む。以下同じ。)に対する下記の懲戒処分等がなかったものとして取り扱わなければならない。
(1)加工不良の発生等を理由とする懲戒処分
  ア X2に対する平成4年5月12日付け減給処分、同年7月1日付けおよび同月20日付け各出勤停止処分並びに同年8月18日付け譴責処分
  イ X3に対する平成4年5月12日付け減給処分、同月27日付け及び同年7月13日付け各出勤停止処分並びに同年8月27日付け譴責処分
(2)敷地内組合活動当を理由とする懲戒処分
  ア X4に対する平成6年11月5日付け及び同7年4月10日付け各出勤停止処分
  イ X2に対する平成4年10月12日付け譴責処分並びに同月26日付け及び同7年4月10日付け各出勤停止処分
  ウ X3に対する平成4年10月12日付け譴責処分並びに同月27日付け、同5年9月29日付け、同6年11月5日付け、同月24日付け及び同7年4月10日付け各出勤停止処分
  エ X1に対する平成6年11月5日付け及び同7年4月10日付け各出勤停止処分
(3)暴言等を理由とする懲戒処分
   X2に対する平成4年12月28日付け出勤停止処分
(4)東京総行動から翌朝帰阪した組合員の就業が不都合であることを理由とする帰宅命令
  ア X2及びX3に対する平成4年12月3日付け、同5年2月18日付け、同年4月2日付け及び同年9月22日付け各帰宅命令
  イ X1に対する平成5年9月22日付け帰宅命令
(5)出勤率が低いこと等を理由とする班長解職
    X1に対する平成7年5月20日付け班長解職
2 再審査申立人株式会社育良精機大阪工場は、再審査被申立人岩井金属労働組合各組合員の下記の各賃上げ及び一時金が、各組合員の基本給(平成6年以降は基準内賃金。以下同じ。)に基本給比率(賃上げ総原資あるいは一時金総原資を従業員の基本給の総額で除して得られる数値。平成6年以降は賃金比率。)を乗じて得られる金額(ただし、差定率が100パーセントを超えている場合には、この金額に1万円を加算した金額。)であったものとして取り扱わなければならない。
(1)X4及びX1に対する平成6年年末一時金以降、同9年夏季一時金までの間の各賃上げ及び一時金(ただし、同7年年末一時金を除く。)
(2)X2及びX3に対する平成3年年末一時金以降、同9年夏季一時金までの間の各賃上げ及び一時金(ただし、同7年年末一時金を除く。)
3 再審査申立人株式会社広沢本社及び同株式会社育良精機大阪工場は、連帯して、第1項の懲戒処分等により減給又は賃金カットした金額((5)について、班長解職がなかったならば、X1が退職するまでの間に得られたであろう賃金相当額)並びに第2項の各賃上げ及び一時金の既支給額との差額及びこれらに各支払期以降年率5分加算した金額を当該組合員に支払わなければならない。
4 再審査申立人株式会社育良精機大阪工場は、岩井金属工業株式会社と再審査被申立人岩井金属労働組合との労働協約の平成4年9月9日付け解約をなかったものとして取り扱わなければならない。
5 再審査申立人株式会社広沢本社及び同株式会社育良精機大阪工場は、再審査被申立人岩井金属労働組合に対して、連名で下記の文書を、本命令書写しの交付の日から10日以内に手交するとともに、横1メートル×縦2メートル大の白色板に同文を明瞭に記載して、再審査申立人株式会社育良精機大阪工場の大阪府東大阪市中野41番地の2所在の工場の正面玄関付近の従業員の見やすい場所に10日間以上掲示しなければならない。
           記
               年 月 日
 岩井金属労働組合
  執行委員長 X4 殿
            株式会社広沢本社
             代表取締役 Y1
            株式会社育良精機大阪工場
             代表取締役 Y2
 岩井金属工業株式会社が行った下記の行為は、中央労働委員会において、労働組合法第7条に該当する不当労働行為であると認定されました。今後、このような行為を繰り返さないことを誓約します。
           記
1 貴組合員(貴組合員であったX1氏を含む。以下同じ。)に対して、平成4年5月12日付け以降、加工不良の発生、敷地内組合活動等を理由として延べ22件の懲戒処分をしたこと。
2 貴組合員に対して、平成4年12月3日付け以降、延べ9回の帰宅命令を発したこと。
3 X1氏に対して、平成7年5月20日付けで班長職を解いたこと。
4 貴組合員に対して、平成3年年末一時金以降、同9年夏季一時金までの間の各賃上げと一時金(同7年年末一時金を除く。)に関して差別したこと。
5 貴組合との労働協約を平成4年9月9日付けで解約したこと。」
Ⅱ 再審査申立人株式会社広沢本社及び同株式会社育良精機大阪工場の本件再審査申立てを棄却する。 
判定の要旨  3601 処分の程度
3607 労働者の行為と不利益取扱の程度との関連
加工不良の発生等を理由とする副委員長X2及び書記長X3の懲戒処分については、各懲戒処分の理由と程度に加え、会社は、処分を行うに際し、同人らから何ら事情聴取していないこと、また、各懲戒処分と不良報告書に関する団交の申入れに一切応じていないこと、さらに各懲戒処分が短期間に集中的に行われていることを併せ考慮すると、本件各懲戒処分は、加工不良の発生等を口実としてことさら組合員を不利益に取り扱うとともに厳しく対応することにより、組合活動に打撃を与えることを企図して処分したとみるのが相当であるとされた例。

3609 その他
敷地内組合活動等を理由とする懲戒処分については、敷地内組合活動を一定程度認めていた本件労働協約の解約そのものが不当労働行為であり、会社が、労働協約の解約によりその法的根拠を失った敷地内組合活動は就業規則に違反するとして懲戒処分に付したことは正当ということはできず、本件各懲戒処分は、組合員を不利益に取り扱い、もって組合の弱体化を企図したものとされた例。

3601 処分の程度
3607 労働者の行為と不利益取扱の程度との関連
副委員長X2に対する暴言等を理由とする懲戒処分については、発言に至った経緯に加え、昼休み中の出来事であること、会社は、懲戒処分に際し当事者から事情を聴取していないことを併せて考慮すると、本件発言処分は、むしろX2が穏当を欠く発言をしたことを奇貨として、同人を不利益に取り扱い、もって組合の弱体化を企図してものであるとされた例。

1302 就業上の差別
1400 制裁処分
東京総行動から翌朝帰阪した組合員の就業が不都合であることを理由とする帰宅命令については、本件帰宅命令は、実質的には懲戒処分たる出勤停止処分と同様と見るのが相当であり、帰宅命令の理由は、組合員が前日、東京総行動に参加し、Hグループ東京本部等に要請活動を行ったという点以外に見当たらず、また、作業の安全性に具体的な支障があったとの疎明もないから、本件帰宅命令は、組合員が東京総行動に参加したことに対する報復として、組合員を不利益に取り扱い、もって組合の弱体化を企図したものであるとされた例。

1302 就業上の差別
青年部長X1を出勤率が低いこと等を理由として班長解職したことについては、班長解職に値するほどの重大な業務上の問題が同人にあったといえる疎明はなく、むしろ、スト等によって労働委員会等へ出席し、あるいは救済命令の履行を求めた行動を嫌悪して、班員から苦情が出ているとしてこれを口実に同人を不利益に取り扱い、もって組合の活動を牽制することを企図したものであるとされた例。

1202 考課査定による差別
会社に給与体系表はなく、毎年の賃上げ額と一時金支給額は、欠勤控除とその後に行われる査定により算定されていたところ、欠勤控除、査定には明確な基準はなく、査定は副社長らの任意の判断により行われていたが、組合員が常態として減額の対象となっており、会社はその理由を全く疎明しておらず、また、従業員の賃上げ額・一時金支給額を一切明らかにしていないことから、会社の以上のような対応は、不合理な格差の存在を推認させるものであり、本件賃上げ・一時金の支給が行われたと同時期に様々な不当労働行為が次々と行われていたこと、組合員への支給額は、会社が明らかにした従業員平均額と比べてみてもかなり低いこと等を併せて考慮すると、本件賃上げ・一時金の支給は、不当労働行為の意思のもとに組合員を差別的に取り扱い、もって組合の弱体化を企図したものと認めるのが相当であるとされた例。

2610 職制上の地位にある者の言動
3103 労働協約締結をめぐる行為
会社は、何ら事情を説明することなく、本件労働協約を一方的に破棄していること、会社社長が「俺は、前の社長が結んだ労働協約は守らない」と憚ることなく発言していること等からすると、会社は専ら敷地内での組合活動を封ずるという目的のためにのみ本件労働協約を破棄したもので、このことは不当労働行為であるとされた例。

4908 営業譲渡後の譲受人
会社から営業を譲り受けたI社と会社との関係をみると、従業員は同一で指揮命令系統にも変更がないこと、事業内容が同一で土地、建物、機械、設備等をそのまま使用していること、労働条件が同一で勤続年数も通算されていること、Hグループの企業が100%出資し、半数程度の役員が兼務している上、本件不当労働行為が行われた当時、会社の代表取締役であったY2がI社の代表取締役に就任していること等の事実と労組法第7条の趣旨に鑑みれば、会社の労働関係は、I社にそのまま引き継がれているとみるのが相当であって、I社は、使用者として本件不当労働行為にかかる責任を負い、本件救済命令の名宛人たり得るとされた例。

4907 合併・組織変更後の新企業体
4908 営業譲渡後の譲受人
上記のとおり、I社は、使用者として本件不当労働行為に係る責任を負い、加えて、会社は、営業譲渡後も存続していたのであるから、労働関係がI社に引き継がれたとはいえ、現に不当労働行為を行った者としての責任を免れないとして、本件救済方法としては、本件の各懲戒処分と帰宅命令がなかったものとしての取扱い、本件班長解職がなかったものとしての取扱い、本件賃上げ・一時金の差別がなかったものとしての取扱い、本件労働協約の解約がなかったものとしての取扱いは、労働関係を引き継ぎ現に労働関係が継続しているI社に命じることとし、この取扱いに伴い必要となる減給、賃金カット分の支払、得られたであろう賃金相当額の支払、既に支払った金額との差額の支払等については、I社と現に不当労働行為を行った会社を吸収合併したH社が連帯して支払うことを命じるのが相当であると判断された例。

業種・規模  金属製品製造業 
掲載文献   
評釈等情報  中央労働時報 2004年7月10日 1030号23頁 

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪地労委 平成 4年(不)第58号 一部救済(命令書主文に救済部分と棄却又は却下部分を含む)  平成13年 3月 5日 決定 
 
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