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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和5年(行ウ)第126号
東京都教育委員会不当労働行為救済命令取消請求事件
 
原告  X1組合、X2支部(併せて「組合ら」)

 
被告  東京都(処分行政庁 東京都労働委員会(「都労委」)
 
判決年月日  令和8年1月29日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、東京都教育委員会(「都教委」)が、会計年度任用職員として任用していた公立学校の外国人英語等教育補助員(「ALT」)2名(「両組合員」)の労働条件等に係る団体交渉申入れ(「本件団交申入れ」)について、ALTには労組法の適用はないとして応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。

2 都労委は、組合らに申立適格を認めることはできないとして、申立てを却下した(「本件却下決定」)。

3 組合らは、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、組合らの請求を棄却した。 
判決主文  1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。
 
判決の要旨  1 本件の争点は、組合らに不当労働行為救済の申立適格を認めることはできないとした本件却下決定がその前提とした、両組合員に労組法が適用されないことが憲法28条に違反して無効であるか否かであり、具体的には次の2点である。
⑴ 特別職非常勤職員だった両組合員が、労働基本権の保障されない会計年度任用職員に変更されたことが憲法に違反し無効であるか否か(争点1)

⑵ 特別職非常勤職員だった両組合員を会計年度任用職員に変更したことにより、地公法58条が適用され、その結果として労組法が適用されなくなったことが憲法に違反し無効であるか否か(争点2)

2 争点1のうち、法令違憲の点について
⑴ 地方公務員の労働基本権に対する制約
 地方公務員は、憲法28条の「勤労者」に当たり、同条の労働基本権の保障を受ける。しかし、地方公共団体の住民全体の奉仕者としての地位の特殊性及びその職務の内容の公共性から、労働基本権の保障について一定の制約を受けざるを得ない。また、その勤務条件が法律及び地方公共団体の議会の制定する条例によって定められることから、私企業における労働者の場合のように団体交渉による労働条件の決定という方式が当然には妥当しない。地方公務員の労働基本権は、地方公務員を含む地方住民全体ないしは国民全体の共同利益のために、これと調和するように制限されることも、やむを得ない。

⑵ 制約の代償措置
 上記のような理由で労働基本権が制約を受ける場合、その制約に見合う代償措置が講じられなければならない。地公法(※)上、勤務条件に関する利益保障(地公法24条から26条まで等)や身分保障(地公法27条以下)に関する規定がある。また、労働組合及びその団体交渉に代わるものとして、職員団体制度が設けられているほか(地公法52条以下)、地方公務員の勤務条件に関する利益の保護のための機構として、人事委員会又は公平委員会の制度が設けられている(地公法7条以下)。
※ 地方公務員法について、令和2年4月1日に施行された改正地方公務員法を「改正地公法」、改正前の地方公務員法を「改正前地公法」といい、改正の前後を問わない文脈では、単に「地公法」として引用することがある。
 そうすると、制度上、地方公務員の労働基本権の制約に見合う代償措置としての一般的要件を満たしているといえる(最高裁昭和51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号1178頁参照)。
 そして、このことは改正前地公法下における一般職非常勤職員及び臨時的任用職員も含めて妥当するものであり、改正地公法22条の2による会計年度任用職員も、一般職非常勤職員として、これら代償措置が適用されるのであるから、会計年度任用職員制度の創設に際し、重ねて代償措置を設けなかったとしても、改正地公法22条の2が直ちに憲法28条に違反するということはできない。

⑶ 組合らの主張について
ア 組合らは、雇止めや次年度の雇用に関する交渉について、職員団体制度における交渉の対象外とされている点、任用期間経過後に措置要求をすることができない点を問題視する。
 しかし、期間の定めのある公務員として任用された場合、任用予定期間が満了した後に再び任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用されることを期待する法的利益を有するものと認めることはできないことからすると(最高裁平成6年7月14日第一小法廷判決・集民172号819頁参照)、次年度の雇用に関する事項が職員団体制度における交渉の対象外とされていたり、任用期間経過後に措置要求ができなかったとしても、法的利益の保護に欠けるということはできない。

イ また、組合らは、代償措置が本来の機能を失っているとして、権利救済措置の実際の周知状況や、東京都人事委員会の処理実態を援用して主張する。
証拠によれば、「外国人英語等教育補助員(ALT)の勤務条件」と題する勤務条件を説明する文書には、権利救済措置の記載はなく、他に地公法の定める権利救済措置が両組合員に対して現実に説明されたことを示す証拠はないから、両組合員にこれらの説明があったとは認められない。また、両組合員以外の会計年度任用職員に関する周知状況も、証拠上必ずしも明らかでなく、かえって、証拠によると、そのような周知が行われていない自治体が相当数にのぼることがうかがわれる。さらに、証拠によると、東京都人事員会の事案処理状況として、非常勤職員に関する措置要求が毎年0から2件程度であることや、審査請求の件数が不明であると認められる。
 たしかに、権利救済措置は、これが周知されることによって、より積極的に活用される可能性が高まるといえる。しかし、法律上の制度について、適式な公布及び施行がされ、対応する行政組織が整備されていれば、それ以上の周知が行われていないことをもって直ちにその代償措置がその本来の機能を失っているということにはならない。また、一定の制度がある場合に、その利用件数が0件の年があるとか、その利用実態が資料上不明であるという事実があったとしても、そのことは、真に必要な場合の申立てが事実上行えない状況になっているとか、そのような申立てが行われた場合に、それが適切に処理されていない状況に陥っているなどといったことを意味するものとはいえない。かえって、上記によれば、非常勤職員においても、年間数件とはいえ措置要求制度を利用している実態が認められる。
 そうすると、組合らが主張する上記事情は、人事委員会による代償措置が本来の機能を失っていることを推認させるものではない。

⑷ 小結
 以上によると、改正地公法22条の2が創設した会計年度任用職員についても、制度上、地方公務員の労働基本権の制約に見合う代償措置としての一般的要件は、依然満たされており、かつ、その代償措置が本来の機能を失っているともいえない。
 争点1のうち、法令違憲の点についての組合らの主張には、理由がない。

3 争点1のうち、適用違憲の点について
⑴ 主張の整理
 組合らは、両組合員が令和2年3月までの間、複数年にわたって都教委から特別職非常勤職員として任用され、その間、団体交渉を実際に行ってきた経緯を指摘し、職務内容にも何ら変更がないのに、労働基本権を制約することとなる会計年度任用職員として両組合員を任用することは、憲法28条に反すると主張する。
 組合らの主張は、要するに、このような経緯から、両組合員は、本件各任用までの間、制約のない労働基本権を享受しており、両組合員がALTとしての任用を繰り返される限り、その労働基本権を制約されないという憲法上の利益が生じていたのに、都教委が両組合員を会計年度任用職員として任用した本件各任用によってその労働基本権が侵害されたため、本件各任用が改正地公法の適用上、憲法28条に違反し無効である、というものであると解される。

⑵ 検討
 そこで検討すると、両組合員については、改正前地公法下において、特別職非常勤職員として繰り返し任用されてきたという経緯がある。そのため、両組合員において、この当時享受していた労働基本権を引き続き享受したいとの主観的な期待を有するに至ること自体は、理解可能である。
 しかし、そもそも特別職非常勤職員として繰り返し任用されていたという事実があったとしても、そのことによって、両組合員において、その任期が満了した後に再び任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用されることを期待する法的利益を有するものと認めることはできない(上記最高裁平成6年判決参照)。そして、任期が満了した後に再び任用されることを期待する法的利益がない以上、再び任用がされることとなった場合に、特定の制度や任用形態による任用を期待する法的利益もまた認められない。このことは、特定の制度や任用形態による任用がされた場合に、憲法上の権利がより保護され又はより制約されることとなるといった事情が付随する場合であったとしても異ならない。
 そうすると、地公法上の地方公務員に対する労働基本権の制約について、法令違憲がないという上記検討結果を前提にする限り、両組合員に対して、その特別職非常勤職員としての任期満了後に、改正地公法22条の2を適用して会計年度任用職員として任用することが、その適用上違憲ということはできない。

⑶ 小結
 争点1のうち、適用違憲の点に関する組合らの主張には、理由がない。

4 争点2について
 組合らは、両組合員が令和2年3月までの間、複数年にわたって都教委から特別職非常勤職員として任用され、その間、団体交渉を実際に行ってきた経緯を指摘し、職務内容にも何ら変更がないのに、会計年度任用職員として両組合員が任用されたことを契機に、両組合員に地公法58条を適用して労働基本権を制約することは、憲法28条に反すると主張する。
 この主張も、上記3⑴と同様に、両組合員は、本件各任用までの間、特別職非常勤職員として繰り返し任用される中で、制約のない労働基本権を享受しており、両組合員がALTとして任用を繰り返される限り、その労働基本権を制約されない憲法上の利益が生じていたのに、都教委が両組合員を会計年度任用職員として任用した結果、その憲法上の利益を害する地公法58条が適用されることとなってしまったことが、憲法28条に違反し無効である、というものであると解される。
 しかしながら、上記3⑵で検討したのと同様に、両組合員が特別職非常勤職員としての任用を繰り返されてきたとの経過があるとしても、その任期の終了後、改めて任用がされる場合に、特定の制度や任用形態による任用を期待する法的利益は認められず、このことは、特定の制度や任用形態による任用がされた場合に、憲法上の権利がより保護され又はより制約されるといった事情が付随する場合であっても異ならない。したがって、地公法上の地方公務員に対する労働基本権の制約について、法令違憲がないという上記検討結果を前提とする限り、本件各任用によって会計年度任用職員となった両組合員に対し、地公法58条が適用されることとなったことが、憲法28条に違反し無効であるということにはならない。
 争点2に関する組合らの主張には、理由がない。

5 結論
 以上によると、本件団交申入れについて、労組法が適用されない会計年度任用職員に係る事項を議題とするものであり、組合らに不当労働行為救済の申立適格を認めることはできないとして、組合らの申立てを却下した本件却下決定に違法はないこととなる。
 よって、組合らの請求はいずれも理由がないので、これらを棄却する。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委令和2年(不)第104号 却下 令和4年7月19日
 
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