概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
名古屋地裁令和6年(行ウ)第131号
不当労働行為救済命令取消請求事件
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| 原告 |
X組合(「組合」)
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| 被告 |
愛知県(処分行政庁 愛知県労働委員会(「愛知県労委」))
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| 判決年月日 |
令和7年10月15日 |
| 判決区分 |
棄却 |
| 重要度 |
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| 事件概要 |
1 本件は、B1会社(「会社」)が、①A2組合員ではなく、C1乗務員を会社F部門のトレーラー乗務に従事させたこと(「本件乗務員選定」)、②A2の妻がF部門の求人に応募したところ、夫婦は同じ部署で働けないとして採用手続を行わなかったこと、③A2に対する配車の連絡を計2日間行わなかったこと(「本件連絡懈怠」)、④A1組合員の業績給を他のトレーラー乗務員よりも低く支給したことが、不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
2 愛知県労委は、組合の申立てを棄却した。(「本件命令」)
3 組合は、これを不服として、名古屋地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、組合の請求を棄却した。
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| 判決主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
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| 判決の要旨 |
1 争点1(本件乗務員選定の不当労働行為該当性)について
⑴ 会社は、令和5年1月21日の団体交渉(「5年1月21日団交」)で組合に提案したトレーラーの乗務基準(「乗務基準」)を踏まえてトレーラー乗務員の選定をしているところ、令和5年3月1日の本件乗務員選定については、C1が令和2年3月にF部門に復帰して以降トレーラー乗務員を希望していたものの単車乗務員をしている状況であったこと、トレーラー乗務員の経験年数はC1がA2を大幅に上回ること、F部門に復帰してすぐの者をトレーラー乗務員にしない運用であったことを考慮してC1をトレーラー乗務員に選定したものと認められる。
そうすると、本件乗務員選定は、会社の本件当時までの乗務基準及び運用に照らして不合理又は不自然な点はなく、A2を、同人が組合員であること理由としてトレーラー乗務員から排除したものと評価することはできず、本件乗務員選定について会社の不当労働行為意思は認められない。
⑵ 組合は、A2が組合に加入する前の令和2年にF部門にいた頃には、C1をトレーラー乗務員とせず、費用を負担してA2にけん引免許を取得させ、同年5月からトレーラー乗務員としていたのであるから、本件乗務員選定はA2が組合の組合員であることを理由とする不利益取扱いであると主張する。しかし、トレーラー乗務員への配置換えをするか否かについては、各車種の輸送の需要、乗務員の配置状況及び乗務員の希望等の諸事情によるものであり、組合の主張する令和2年時の取扱いとの違いをもって、本件乗務員選定が、A2の組合への加入を理由とするものであると直ちに推認することはできない。そして、C1は令和2年3月にF部門に復帰したのであるから、上記の令和2年時の取扱いは、F部門に復帰してすぐの者をトレーラー乗務員にしないという前記の運用に沿う扱いというべきであり、組合の主張は採用できない。
組合は、C1は、F部門に戻る際、トレーラー乗務員にはならないとの条件があったと主張し、組合の組合員らの供述がこれに沿う。しかし、組合の組合員らの上記供述はいずれも、別の従業員からB2部長がその旨話していたと伝え聞いたというものであって、そのような条件が設けられた理由についても同組合員らの推測にすぎないから、上記供述が組合の主張する条件の存在を的確に裏付けるとはいえず、かえって、B2自身の供述はこれと反するものであるから、組合の上記主張を採用することはできない。組合は、令和2年3月にC1がF部門に復帰してから本件乗務員選定までの約3年間、C1がトレーラー乗務員に戻っていなかったこと、令和3年5月に経験の浅い乗務員をトレーラー乗務員にしたこと、その結果として重大事故を生じさせ、トレーラー乗務員の人員確保が喫緊の課題となっていたことといった事情が、組合の主張する上記条件の存在を裏付けるとも指摘するが、トレーラー乗務員への配置換えをするか否かについては、各車種の輸送の需要、乗務員の配置状況及び乗務員の希望等の諸事情を考慮して行われるものと考えられ、本件乗務員選定までにC1がトレーラー乗務員に戻っていなかった事実自体が組合の上記主張を裏付けるとはいえず、上記判断を左右しない。
また、組合は、本件乗務員選定が、組合と会社との間でA2のトレーラー乗務員の希望順位が1位であると確認されていたことを無視するものであるとも主張する。しかし、証拠上、会社は、希望順位を認めるような、組合主張に係る発言はしていないから、会社が組合の主張する希望順位を確認し又は同意していたとは認められない。また、希望については、乗務基準の要素の1つであるにとどまり、その他の要素においてA2をC1に優先してトレーラー乗務員に選定すべき事情があったとも認められないから、本件乗務員選定が組合の組合員を排除する意図によるものであったと見ることはできず、組合の主張は採用できない。
さらに、組合は、会社が、①A2のF部門への異動以前に、トレーラー乗務員であるA1に単車乗務員への変更を打診したこと、②A2のF部門への復帰を不合理に遅らせたこと、③組合との交渉を忌避する姿勢に転じたことなどからすれば、本件乗務員選定は、組合の組合員がトレーラー乗務員に拡大することを会社が危惧していたことによるものであると主張する。しかし、会社は、上記①については、トレーラー乗務員は土日の仕事が多いところ、A1が日曜日の休暇を希望していたため打診したものであることがうかがわれ、上記②については、復帰元及び復帰先の繁忙度を考慮したことによるものである旨の会社の説明が直ちに不合理なものとは認められず、③についても、5年1月21日団交後の弁護士変更によるものと考えられるのであり、
いずれも組合が主張するように組合の組合員がトレーラー乗務員に拡大することを危惧していたことによるものと認めるに足りない。
⑶ したがって、本件乗務員選定は、労組法7条1号及び3号に違反するものではなく、これと同旨の本件命令に誤りはない。
2 争点2(B2がA2の妻の採用手続を行わなかったことの不当労働行為該当性)について
⑴ 令和5年4月10日頃、A2、A2の妻及びB2等の間で、A2の妻の採用希望に係る面談(「本件面談」)が行われた。B2は、本件面談後、人事担当者に確認した上で、A2に対し、電話で、働く部署を特定した形での採用は難しいと伝え、加えて、一般論として同じ部署で夫婦が働くのは難しい旨も本件面談時の説明を再度繰り返した。(「本件電話」)なお、以下では、本件面談及び本件電話におけるB2の説明内容を「本件説明内容」という。
一般論として、本件説明内容のように、会社が従業員を雇用し又は配置するに当たり、夫婦を同じ場所で稼働させることをできるだけ控えるという方針をとること自体は、会社の方針として考えられるものであり、現に会社に夫婦で同一の部門で働く乗務員がいなかったことを踏まえると、B2が、本件面談及び本件電話で、本件説明内容が真実に反するとの認識を有し又は正当でないものと考えながらその説明をしたものとは認められない。したがって、B2がA2及びその妻に虚偽の説明を繰り返して同人の正式な採用手続に進むことを断念させようとしたものとは評価できない。加えて、会社における令和5年1月から12月までの採用活動状況のうち、面接をしていない応募者もいることなども併せて考慮すると、B2が本件面談及び本件電話で本件説明内容を述べたこと及び直ちに採用手続をしなかったことについて不当労働行為意思は認められない。
⑵ 組合は、会社が、本件命令に係る救済手続において、A2の妻を採用しなかったことにつき、配属先を約束しての採用は行っていなかったこと等が理由であり、夫婦は同じ職場で働けないという理由からではない旨を主張していたことを指摘し、本件説明内容は虚偽であると主張する。しかし、B2は、本件説明内容に加え、配属先を約束しての採用は行っていないことも説明しており、本件説明内容が真実に反し又は正当でないとの認識の下でされたものであったと認めることはできない。
また、組合は、働く部署を指定していることが問題であると会社が説明した点について、会社が職場ごとに採用募集をしていることと矛盾するため虚偽の説明であると主張する。しかしながら、組合の上記主張も、会社において職場を限定して採用していたと主張するものではなく、会社内での配置転換は現に行われていたから、特定の職場を希望していること自体につき、その後の配置転換に支障がある等と考え、人事担当者が上記説明をしたとしても、必ずしも不合理又は不自然とまでは断じられず、この点をもって、B2が本件説明内容が真実に反し又は正当でないとの認識を有していたことの裏付けとすることはできない。
⑶ したがって、B2が本件面談及び本件電話で本件説明内容を述べて採用手続を行わなかったことは、労組法7条1号及び3号に違反するものではなく、これと同旨の本件命令に誤りはない。
3 本件命令のその余の判断について
⑴ 組合は、令和5年5月2日及び13日の本件連絡懈怠も不当労働行為であり、これを不当労働行為に当たらないとして棄却した本件命令の取消しを求めている。
しかし、当時、単車の配車はB2が連絡し、トレーラーの配車はC2係長が連絡していたこと、B2が会議等のために対応できない場合はC2が単車の配車についても連絡していたこと、もっとも、A2については、C2によるパワーハラスメントの問題があったことから、A2に対してはB2が連絡を行うようにしていたことがうかがわれ、継続的に連絡懈怠があったとの事実も認められないことも踏まえると、B2の連絡ミスであるとの会社の主張にも相応の合理性がある。また、組合は、本件連絡懈怠について、弁論の終結に至るまでこれらを違法とする理由を主張していない。これらのことからすると、本件連絡懈怠は、労組法7条1号の不利益取扱いには該当せず、組合の弱体化を企図して行われたものとは認められないことから、同条3号の支配介入にも該当しないとする本件命令に違法な点はない。
⑵ 組合は、トレーラー乗務員であるA1の令和5年4月分ないし9月分の業績給が他のトレーラー乗務員と比較して激減させられたことが不当労働行為に当たり、これを不当労働行為に当たらないとして棄却した本件命令の取消しを求めている。
しかし、A1の業績給は、会社の12名のトレーラー乗務員中、令和5年5月においては最も低かったが、A1は、同月1日から3日までの3日間、有給休暇を取得し、同月6日、7日、13日、14日、21日及び27日について私用により配車を控えるよう希望していたこと、F部門のトレーラー乗務員の同月の出勤日数は、A1は16日で、A1以外の11名の乗務員は21日から26日であったことが認められる。また、その他の月もA1の業務給は相対的に低いものの、A1は、他のトレーラー乗務員と比して有給休暇の取得及び配車を控えるよう希望することが多かったことが認められる。
そうすると、令和5年4月分ないし9月分のA1の業績給が相対的に低かったのは、不当労働行為意思によるものとまではいえず、労組法7条1号の不利益取扱いには該当せず、組合の弱体化を企図して行われたものとは認められないことから、同条3号の支配介入にも該当しないとする本件命令に違法な点はない。
4 結論
以上によれば、組合の申立てを棄却した本件命令に違法はなく、組合の請求は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
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