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概要情報
事件番号・通称事件名  京都地裁令和4年(行ウ)第14号・令和4年(行ウ)第17号
京都市不当労働行為救済命令取消請求事件(第1事件)、不当労働行為救済一部棄却命令取消請求事件(第2事件) 
第1事件原告兼第2事件被告補助参加人  京都市(「市」)
 
第2事件原告兼第1事件被告補助参加人  X1地本、X2支部、X3協議会(「地本ら」)
 
両事件被告  京都府 
処分行政庁  京都府労働委員会(「府労委」) 
判決年月日  令和7年7月24日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、市による指定又は委託により学童クラブ事業等を実施している団体(「運営団体」)に雇用されて当該事業に従事している職員を組合員とする地本らが、市に対し団体交渉を申し入れたところ、市がこれを拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。

2 府労委は、指定管理者として一部施設を運営するC委員会の職員である組合員に係るものに関し、労働組合法(「労組法」)第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、市に対し、これら組合員に係る賃金体系の見直しなど3つの事項についての団体交渉応諾を命じ、その余の申立てを棄却した。(「本件命令」)

3 これを不服として、市及び地本らは、京都地裁に対し、行政訴訟を提起した。第1事件は、市が、本件命令の認容部分の取消しを求め、第2事件は、地本らが、本件命令の棄却部分の取消しを求めたものである。
 同地裁は両者の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告市及び原告地本らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は、第1事件、第2事件を通じ、原告市と被告との間では原告市の負担とし、原告地本らと被告との間では原告地本らの負担とし、原告市の参加によって生じた費用は原告地本らの負担とし、原告地本らの参加によって生じた費用は原告市の負担とする。
 
判決の要旨  1 争点1(市は、C委員会以外の学童クラブ事業の運営団体(「他団体」)の組合員との関係で、労組法第7条第2号における使用者に当たるか)について

(1) 市が、令和2年7月10日の地本らによる団体交渉申入れ(「本件申入れ」)を拒絶した時点において、他団体組合員の賃金に関する事項について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位、すなわち使用者たる地位にあったかどうかを、以下検討する。

 学童クラブ事業の運営団体は、市から委託又は指定を受けたとしても、同事業以外を行うことを制限されるものではない。このことに加え、令和2年4月30日付けで発出された通知書(「4月30日付け通知書」)に示された市の見解を前提とすれば、学童クラブ事業に従事する職員に対して委託料の人件費部分と同額の賃金を支払うのかどうかの判断に当たっては、当該団体に経営上の裁量があるというべきである。

(2) もっとも、運営団体による賃金額決定の判断に、運営団体の裁量があるとしても、その裁量には、以下のとおり、相当強度の制約が存する。

ア 運営団体において実施すべき学童クラブ事業の性格について
 学童クラブ事業は、そもそも営利性ないし高い収益性を有するものではない。しかも、利用者から徴収する利用料金には、条例により上限が設けられているから、運営費用(人件費を含む財源)は、本質的に市から支給される委託費に依存するほかない状況にある。
 運営団体の裁量的判断によって、同団体の固有の財源から学童クラブ事業の運営費用を賄うにしても、社会福祉法人その他の非営利法人が、会社と同様の収益事業をすることは予定されておらず、現実的に十分に固有の財源を確保できるとも限らない。

イ 旧要綱について
 京都市学童保育所職員処遇実施要綱(令和元年12月18日施行のもの)及び京都市児童館職員処遇実施要綱(同日施行のもの)(併せて「旧要綱」)は、昭和56年に市が児童館等の職員の労働条件を統一することを目的として制定され、改定されたものである。旧要綱には、基本給や諸手当の支給要件など職員の勤務条件について詳細に定められている上、制定目的からすれば、各運営団体は、旧要綱に規定されたとおりに運営することが市から求められていたものと認められる。実際に、市は、少なくとも平成24年頃までは、各運営団体における職員の労働条件が旧要綱のとおりとなるように指導し、委託費の執行についても、事後に報告を徴求していた。さらに、市は、平成元年から、地本らとの間で児童館等の職員の賃金について、団体交渉を行う旨の協定書を締結し、継続協議を行い、その結果として、委託費を増額するなどの対応をしてきた。このように、市は、各運営団体の職員の賃金について強い影響力を及ぼしていたものといえる。

ウ 運営団体による事業の運営状況について
 募集要項によれば、市から支払われる委託料は、人件費及び事業費の合計から、年間利用料金収入見込額を差し引いた金額が目安とされる。上述のとおり各運営団体は利用料金を増額することができないし、仮に増額したとしても、これを差し引いた金額が委託料とされる。また、児童館等では、条例の規定により、職員数を一定数よりも減員することができない。市は、各運営団体に職員体制報告書を提出させ、旧要綱等に基づいて委託料(人件費部分)を算定しており、仮に運営団体が人員を減員したとしても、その分の委託料が減額されるだけである。さらに、委託料(人件費及び事業費)に余剰が生じたとしても、これを翌年度に繰り入れることも限度がある。このように、運営団体が児童館等の運営を工夫することによって、人件費に充てるための事業運営費を増額することは困難である。

(3) このように、運営団体による賃金額決定の裁量に、相当強度の制約は存するものの、各運営団体は、学童クラブ事業以外の事業を行うことは制限されておらず、委託料をどのような用途で使用するのか、同事業に従事する職員に対して委託料の限度でのみ賃金を支払うのか等は当該団体の経営上の判断に委ねられるものである。
 また、令和元年時点には、市は、各運営団体の職員の賃金の支給状況については把握しなくなっており、各運営団体に対しても、職員の賃金額は、旧要綱には拘束されないと説明するようになった。その後、市は、4月30日付け通知書を発するとともに、新要綱を制定することで、各運営団体に対して新要綱の性質は市が委託料を算定するために用いる基準にすぎないことを周知した。
 これらの点を考慮すると、市が支払う委託料と、運営団体の職員の賃金との間には、後者が前者の金額に絶対的に制約されるという関係があると直ちに認めることはできないというべきである。

(4) 以上より、市が、本件申入れを拒絶した時点において、各運営団体の経営上の裁量を失わしめるほどに、市が、各運営団体の職員の賃金について実質的に決定していたというまでの事情は認められない。よって、市は、他団体組合員との関係において、その賃金について現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるとはいえず、労組法第7条第2号における使用者には当たらない。
 よって、これと同旨の判断に基づく本件命令主文第2項は適法である。

2 争点2(市は、C委員会組合員との関係で、労組法第7条第2号における使用者に当たるか)について

(1) 他団体とC委員会との性格の相違に着目しつつ、以下検討する。
ア C委員会の性質
 C委員会は、市公設学童クラブ事業の管理及び運営を行うことを目的として、昭和46年に設立された権利能力(法人格)なき団体であり、その構成員の大半は、市の設置する学童保育所(8か所)の所長が占めていた。また、設立当初は、事務局が市の庁舎内にあるなど、市内部の一部署に類する性格を有していた。近時も、C委員会の会長及び事務局長は、市の職員のOBがこれを務めていた。C委員会が、学童クラブ事業以外の事業を行うことも制限されていないとはいうものの、上記の性格からして、公設学童クラブの運営以外の事業を行うことは想定されていない。C委員会の事業が、公設学童クラブの運営に限られることの帰結として、その収入は、利用者からの利用料金及び市からの委託費に限られることとなる。このように、C委員会は、設立以来現在に至るまで、市における公設学童クラブ事業運営を目的として、権利能力(法人格)なき団体として存在しているという点で、他団体とは性格を異にする。

イ 団体交渉の存在
 地本及び協議会は、平成元年2月1日、市に対し、C委員会の職員との関係で市が事実上の使用者に当たるとして、基本給の引上げ等を求めて団体交渉を申し入れ、市は、一度はこれを拒絶したものの、最終的には団体交渉に応じた。平成2年12月27日、C委員会の職員の期末勤勉手当の支給について地本らと市は合意し、基本給をはじめとする賃金については引き続き団体交渉を行う旨の協定書を締結した。このように、C委員会の職員との関係で、市は、使用者としての立場で、地本らとの団体交渉に応じてきた事実が存する点で、他団体とは事情を異にする。

ウ C委員会就業規則及びC委員会賃金規則の内容について
 C委員会就業規則及びC委員会賃金規則は、市が作成した就業規則例及び賃金規則例と概ね同じ内容であり、C委員会の職員の基本給及び諸手当については旧要綱の定めるところによると規定されているが、このことは、その後も、C委員会の職員の賃金に関しては、市の算定基準どおりに支払われていたことを考慮すると、C委員会は、市の用意した算定基準に従って賃金額を決定し、それは本件申入れを市が拒絶した時点においても異ならなかったものと認められる。

エ 検討
 C委員会の職員の採用について市が指示するなどした事実は認められない。また、他団体と同様、C委員会は、職員の賃金決定につき、形式的には裁量を有する。さらに、C委員会は、平成元年12月に市の庁舎外に事務所を移転し、遅くとも平成21年4月頃からC委員会の職員を市の職員が兼務することもなくなった。こういった点で、市とC委員会の関係に変化が生じたとみる余地もある。
 また、令和元年以降には、市において、職員の賃金について旧要綱どおりに支給する必要はない旨の説明をするようになったことに照らすと、職員の賃金額の決定に関しても、C委員会はその裁量を回復したとみる余地もある。
 しかしながら、C委員会は、その目的に従って公設学童クラブの運営を行う以上は、利用者からの利用料金のほかは、市から交付される委託費及び補助金に依存せざるを得ず、市は、従前、C委員会に雇用される組合員との間で団体交渉に応じていたことをもって、自らの労組法上の使用者性を認めていたと評価することができる。また、争点1について検討したとおり、運営団体には形式的に賃金額の決定の裁量があるとはいえ、実際には、職員の賃金額決定には市の強い影響力が及んでいたものである。運営団体一般に向け、市の解釈を伝える一片の通知書(4月30日付け通知書)の発出をもって、市とC委員会との間の特有の関係まで根本的に変更するものと評価することはできない。

(2) 以上の検討によると、市は、本件申入れの拒絶時点において、C委員会における賃金決定の方法に強い影響力を及ぼしていたものと評価することができ、C委員会の職員の賃金額の決定に関し、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったものと認めるのが相当である。

(3) 以上より、本件命令の主文第1項、すなわち、市に対して、C委員会組合員の賃金に関連する事項については労組法第7条第2号の使用者に当たるとして、原告地本らとの間で団体交渉に応じるように命じた部分は、上記と同旨であり、その判断に違法はないものと認められる。

3 結論
 よって、以上の判断と同旨の本件命令の主文第1項及び第2項はいずれも適法であり、市及び地本らの請求はいずれも理由がないから、棄却することとし、主文のとおり判決する。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
京都府労委令和2年(不)第2号 一部救済 令和4年6月1日
 
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