労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  京都府労委令和2年(不)第2号
京都市不当労働行為審査事件 
申立人  X1組合・同X2支部・同X3協議会(組合ら) 
被申立人  京都市(市) 
命令年月日  令和4年6月1日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、市による指定又は委託により学童保育事業等を実施している団体らに雇用されて当該事業に従事している職員を組合員とする組合らが、市に対し団体交渉を申し入れたところ、市がこれを拒否したことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 京都府労働委員会は、指定管理者として一部施設を運営する申立外C団体の職員である組合員に係るものに関し、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると判断し、市に対し、これら組合員に係る賃金体系の見直しなど3つの事項についての団体交渉応諾を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 京都市は、組合らが令和2年7月6日付けで申し入れた団体交渉に関し、C団体就業規則第3条に規定する職員である組合らの組合員に係る次の事項について、組合らとの団体交渉に応じなければならない。
(1)賃金体系の見直し
(2)住宅・扶養手当等の京都市の職員と同等水準での新設及び学校休業中の長時間勤務に対する繁忙手当の新設
(3)令和2年4月30日付けでY市子ども若者はぐくみ局子ども若者未来部育成推進課長名の各運営団体代表者様宛て「児童館・学童クラブ事業の委託に関する事務の見直しについて(通知)」と題する文書をもって通知した委託料の額の算定に関する変更のうち、人件費関係に係るもの
2 組合らのその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 本件の争点
 指定又は委託により学童保育事業等を実施している団体に雇用されて当該事業に従事している職員を組合員とする組合らが、令和2年7月6日に、市に対し、団体交渉の申入れを行ったところ、同月10日に市がこれを拒否したこと(「本件拒否」)は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するか(その前提として、市は同号における使用者に当たるか)。
(1)市は、児童館等に勤務する組合員全体に対して、同号における使用者に当たるか。
(2)仮に、(1)において、組合員全体に対して同号における使用者に当たるといえないとしても、C団体が雇用する組合員に対しては、同号における使用者に当たるか。

2 争点(1)について

(1)本件において、組合らの組合員は、市ではなくC団体又は本件4団体(E1、E2、E3及びE4の各団体)との間で労働契約関係にある。
 救済命令の名宛人となるべき使用者については、労働契約上の使用者を基本とすべきであるが、一方で、本件のような集団的労使関係における団体交渉が問題となっている事案においては、団体交渉の促進という労組法の趣旨に照らし、契約上の使用者に限定することなく、団体交渉事項である基本的な労働条件等について、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある者が使用者に当たると考えるべきである。
 これを本件についてみると、当事者間において、採用、解雇や日常の指揮監督等の雇用関係全般について市が関与していないことに争いはないが、一方、当時の市が児童館及び学童保育所についてそれぞれ〔令和2年4月30日付けで変更されるまで〕定めていた職員処遇要項(以下「旧要項」と総称)は基本給及び諸手当について具体的に定めており、これによれば、基本給及び諸手当についてのみであっても、それら事項が団体交渉事項となっており、市が当該事項を現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるとすれば、市に使用者性を認めるべきこととなる。

(2)次に、C団体及びE1団体(社会福祉協議会)以外の本件4団体の賃金について定めた諸規定をみると、旧要項の定めるところによる旨規定している。
 これについて検討すると、本件については、これら運営団体が、市の過去の指導の下に包括的に基本給及び諸手当については旧要綱によるとの意思決定を行い、そのように運用してきたと考えることもできるが、他方、制度上は旧要項の内容は各運営団体を拘束するものとはなっておらず、令和元年時点では市もその旨説明してきていること等からすれば、各団体においては旧要項の改正の都度その内容について検討し、その結果旧要綱によることが適当である旨判断し、特に諸規程の変更等は行ってこなかったものと解することも可能であり、そのいずれであるかについては規程だけからは判断できない。

(3)そこで、規程以外に本件審査手続において明らかとなった事実を基に検討すると、後記3で検討するC団体の場合とは異なり、組合らは本件4団体とは基本給及び諸手当について実質的な交渉を行った経過がなく、交渉のやりとりから運営団体の意向を推認することはできない。むしろ、本件4団体は、学童保育事業従事者の雇用の受け皿として設立されたC団体とは異なり、いずれも社会福祉法人として法人格を有し、独立の事業主体として学童保育事業以外の事業も含めた事業運営を行っていると認められ、また、E1団体以外の本件4団体にあっては旧要項に規定されている諸手当以外の手当も規定するなどしているので、本件4団体が団体交渉に応じるべき使用者性を欠いているとは断定できない。
 以上、検討したところによれば、市は児童館等に勤務する組合員全体については、基本給及び諸手当について現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったと認めることはできず、労組法第7条第2号における使用者に当たるとはいえない。

(4)なお、組合らは、平成元年以降30年にわたり、市が団体交渉に応じてきたとも主張する。
 確かに、毎年度の組合らと市との協議等の中で基本給の給料表の具体的内容や手当の新設について合意され、それが旧要項に反映されてきたことが認められる。
 しかしながら、旧要項の規定は各運営団体の職員の基本給及び諸手当を拘束するものであったとは認められないことに加え、毎年度の協議の申入れの内容は学童保育事業全体に係る行政政策に関する申入れとしての面を多分に有しており、かつ、その申入れの方法も、50以上の運営団体があるうち5団体にしか組合員が存在しない中で、組合員が所属する団体を特定もせずに申し入れられていることをも考慮すれば、上記の協議及びそこでの合意内容は、児童館等の組合員全体との関係では、あくまで、組合らと市の予算上の人件費算定基準という行政政策に関する協議及び合意事項にとどまるものであって、労組法上の団体交渉であったとは認められない。

3 争点(2)について
(1)昭和63年のX2支部及びX3協議会との団体交渉で、C団体は、基本給及び諸手当については旧要綱にのっとった支払いしかできない、とか、賃金規則例など市の定めた縛りがある、などと旧要綱どおりに運営する方針である旨明確に回答している。そして、これを受けてX2支部及びX3協議会が平成元年2月1日付で市に対し、C団体に要求した事項についての団体交渉を申し入れたところ、当委員会への不当労働行為救済申立ては経たものの、同年9月7日に市は団体交渉に応じる旨回答した。そうするとこの時点では、市は要求事項の限度でC団体の職員である組合員との関係において自ら使用者であることを認めたことになり、かつ、その前提として、市がC団体の職員の基本給及び諸手当について現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあり、団体交渉に応じるべき使用者に当たるとの状況があったと認められる。
 その後、組合らと市との間においては、C団体の職員である組合員に限定した団体交渉が行われた経過は認められないが、平成4年以降、組合らと市との間では、令和元年12月まで、約30年にわたって毎年度の予算編成に当たっての統一要求書による協議が行われ、その内容からすれば、当該協議がC団体の職員である組合員の基本給及び諸手当に関する労組法上の団体交渉をも兼ねていたものと認めることができる。
 そうすると、市は、C団体の職員である組合員の基本給及び諸手当について、自らは判断せずに旧要綱どおり支給するとするC団体の運営の在り方そのものを容認し、C団体に代わって自ら組合らとの間で基本給及び諸手当に関する団体交渉を行い、具体的な額について決定してきており、これは労組法上の使用者としての行為であったと認められる。

(2)市は、団体について、遅くとも平成21年4月以降は市から完全に独立し、市は労組法上の使用者ではなくなったと主張し、(C団体の市からの)独立性の疑義が解消されたとする根拠として、事務所所在地の市の庁舎外への移転、市の職員による充て職の廃止や兼務の解消を主張する。しかし、C団体の職員の基本給及び諸手当については、同月以降も旧要項により自動的に定められるという構造にあり、しかも同年7月に行われた組合らとC団体との間の団体交渉の席上において、C団体側は旧要項どおり基本給及び諸手当を支払う方式を維持していく旨の発言をしている。以後も、C団体自らが基本給及び諸手当を決定するとの説明や、今後は基本給及び諸手当も交渉事項とする旨の申入れがC団体側からなされた事実は認められない。
 そして、市が使用者と判断されたのは、上記のようなC団体における基本給及び諸手当の決定の在り方が根拠となっているのであり、独立性の有無がその根拠となっているわけではない。
 そうすると、上記のような事情の変化により直ちに市が労組法上の使用者でなくなったとはいえない。

(3)以上のとおり、C団体の雇用する組合員については、市は、旧要項に規定する基本給及び諸手当の限りにおいて、現実的かつ具体的に、支配、決定することができる地位にあるといえ、労働組合法第7条第2号所定の使用者に当たると判断される。
 よって、市による本件拒否は、C団体が雇用する組合員に関して労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。 
掲載文献   

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