労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪高裁令和5年(行コ)第121号
大阪府ほか2者不当労働行為救済申立棄却命令取消請求控訴事件 
控訴人  X組合(「組合」) 
被控訴人  大阪府(代表者兼処分行政庁 大阪府労働委員会) 
判決年月日  令和6年3月21日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、大阪府(以下「府」という。)、公益財団法人Bセンター(以下「Bセンター」という。)及びD公共職業安定所(以下「D職安」といい、府及びBセンターと併せて「府ら3者」という。)が、日雇労働者で組織される組合が申し入れた団体交渉(以下「団交」という。)に応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
2 大阪府労委は、救済申立てを棄却したところ、組合は、これを不服として、大阪地裁に行政訴訟を提起した。
3 大阪地裁は、組合の請求のうち、大阪府労委に対する命令の義務付けを求める部分を却下し、その余の請求を棄却した。
4 組合は、これを不服として、大阪高裁に控訴したところ、同高裁は、組合の控訴を棄却した。 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 
判決の要旨  1 当裁判所も、本件棄却命令は適法であり、これを取り消すべきとはいえないから、組合の本件棄却命令の取消請求は理由がなく、その余の請求に係る本件訴えは、行政事件訴訟法37条の3第1項2号の要件を欠き、不適法であると判断する。その理由は、後記2のとおり当審における組合の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第3(以下「原判決第3」という。)のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断

⑴ 争点1-1(府が組合の組合員の労組法上の使用者に当たるか)について

ア 組合は、娯楽室等には、広く一般市民が入ってきたりはせず、府とBセンターとの間の契約書等には、日雇労働者の福利厚生に使用しなければならない旨明記されており、娯楽室等の一部は府の財産であるから、娯楽室等は、府が事業主に代わって設置した福利厚生施設である旨主張する。
 しかし、娯楽室等の実際の利用者のほとんどが日雇労働者であり、日雇労働者の利用を想定したものであったとしても、日雇労働者以外の府民等が客観的に利用可能であったこと自体は否定できない。また、府とBセンターとの間の府有財産使用貸借契約書及び府有財産賃貸借契約書には、いずれもBセンターは貸付物件を「日雇労働者の福利厚生」に使用しなければならないことが定められており、娯楽室等の一部に府が所有する部分も含まれているように思われるが、これらの事実は、娯楽室等は、府などが、事業主から福利厚生施設の提供を受けることが困難な日雇労働者のために、行政機関の立場で公共施設として設置したものであり、事業主に代わって設置したものではないとの判断を左右するものではない。
イ 組合は、①日雇健康保険料の印紙の肩代わりは、保険料の肩代わりであること、②E地域で求人活動するほとんどの業者が日雇健康保険の未加入者であり、その保険料を府が負担することは、府がほぼ全ての日雇労働者の日雇健康保険料の本人負担分を賃金の一部として支払っていたことになること、③市と府は、特掃作業員の日雇健康保険料の本人負担分を賃金として労働者に支払っていることからすると、府に使用者性はある旨主張する。
 しかし、上記①及び②につき、府が、全ての業者との関係で日雇健康保険料を肩代わりしていたとは認め難いし、E地域で求人活動をするほとんどの業者が日雇健康保険に未加入であるとも認め難いから、日雇労働者の健康保険料の全てを府が負担していたと評価することは困難である上、原判決第3の2⑴イのとおり、これらの負担は、行政機関としての府による労働者保護施策としてされたものであるし、平成17年度以前のことでもあるから、府の組合の組合員に対する使用者性を基礎付ける事実とはいえない。また、上記③の事実を認めるに足りる証拠はない(かえって、証拠によれば、特掃作業員につき健康保険等の本人負担分が発生した場合は、事業主であるC5機構が納付することとなっている。)。
ウ 組合は、特掃事業に関し、①府がC5機構に賃金台帳の形式等を指定していること、②労働者の賃金額をC5機構との契約書に明記していること、③E地域の代表的な労働組合が市と府と賃金交渉していること、④市と府が資格審査をしていることなどからすると、実質的な使用者は市と府であり、⑤年齢制限などについて改善を求めることは、憲法及び労組法上の団交の対象となるべき内容であるから、府には使用者性がある旨主張する。
 しかし、賃金台帳の書式は日雇労働者の労働条件に関するものではないし、特掃事業は就労対策事業であり、資格調査は、それに伴う資格制限であって、いずれも府が使用者として行っているものではなく、上記①、②及び④の各点が、府の使用者性を基礎付けるものではないことは、原判決第3の2⑴ウのとおりである。また、上記③及び⑤につき、A4組合が、特掃事業の件で市及び府と賃上げ交渉をしたことなどを内容とするチラシを作成したことは認められるが、特掃事業が府及び市が共同で行っている就労対策事業であること(原判決認定事実⑶)などからすると、上記組合と市及び府が憲法28条及び労組法上の団交をしたと認めることは困難であるし、上記事業内容について改善を求める必要があるからといって、府を組合の組合員の使用者と解すべきことにはならず、上記チラシの内容などから府の使用者性を基礎付けることはできない。
エ 組合は、一時金の支払を行う行為は、E地域で求人する業者全体に代わって行うのであるから、府は、地区全体を代表する使用者に該当するし、一時金から100円が徴収されていたことは明確であり、チェックオフといえる旨主張する。
 しかし、原判決第3の2⑴オ及びカのとおり、一時金の支払は、日雇労働者の福祉の増進を図るための福利厚生措置であり、府の使用者性を基礎付けるものとはいえないし、府が一時金から100円を徴収していたことを認めるに足りる証拠はない。なお、ー時金がいつまで支払われていたかは証拠上不明であるから、一時金の件は、令和2年時点における府の組合の組合員に対する使用者性を基礎付ける事情にはいずれにせよならない。
⑵ 争点1-2(Bセンターが組合の組合員の労組法上の使用者に当たるか)について

 組合は、Bセンターは府の補助・指示に従って、府の出先機関としての役割を果たしているから、府と同様に使用者性があるし、委託契約書において、Bセンターが5700円で労働者を雇い入れる契約を結んでいるから、Bセンターが労働者を雇用しており、使用者に当たる旨主張する。
 しかし、まず、府に使用者性が認められない以上、Bセンターと府の関係から、Bセンターの使用者性を基礎付けることはできない。また、大阪労働局及び府とBセンター間の委託契約書の環境美化業務に係る業務仕様書には、作業員の1日の賃金手取額を5700円とする旨の記載がある(原判決認定事実⑶ア)が、組合の組合員がBセンターに作業員として雇用されたことを認めるに足りる証拠はないから、Bセンターの使用者性を基礎付ける事実とはいえない。
⑶ 争点1-3(D職安が組合の組合員の労組法上の使用者に当たるか)について

 組合は、①大阪労働局及び府とD職安の関係性、②C3センター閉鎖時にD職安の職員を総動員していること、③日雇雇用保険被保険者証を持つ者に対する一時金支払に、D職安の職員も参加していることなどからすると、D職安も使用者性がある旨主張する。
 しかし、上記①につき、府に使用者性が認められない以上、D職安と府及び大阪労働局との関係から、D職安の使用者性を基礎付けることはできない。また、上記②及び③の事実を認めるに足りる証拠はないし、これらの事実をもって、D職安の使用者性を基礎付けることもできない。
⑷ 争点2(別件保全事件においてA1委員長が提出した本件弁明書をもって組合が府ら3者に対して団交申入れをしたといえるか等)について

 組合は、本件弁明書をもって、府ら3者に対して団交申入れをした旨主張するが、その主張が採用できないことは、原判決第3の5のとおりである。なお、府は地方公共団体、Bセンターは法人、D職安は国の行政機関であって(原判決認定事実⑴ウ)、別の団体又は機関であるから、府ら3者がC3センターの管理者や構成員であり、それぞれが互いに連絡を密に取っているといった事実が存したとしても、府に本件弁明書の内容が伝わったことをもって、Bセンター及びD職安に対し団交申入れをしたと見る余地はない。
3 結論

 以上によれば、府ら3者は組合の組合員の労組法7条における使用者には当たらず、組合が府ら3者に対して団交申入れをしたとも認められないから、府ら3者が組合に対し不当労働行為をしたとは認められない。
 したがって、組合による不当労働行為救済申立てを棄却した本件棄却命令は適法であり、これを取り消すべきとはいえないから、本件訴えのうち、本件棄却命令の取消請求は理由がないから棄却すべきであり、その余の本件訴えは、行政事件訴訟法37条の3第1項2号の要件を欠き、不適法なものとして却下すべきである。これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないため、これを棄却する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委令和3年(不)第12号 棄却 令和4年6月13日
大阪地裁令和4年(行ウ)第180号 却下・棄却 令和5年9月14日
 
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