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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪地裁令和4年(行ウ)第180号
大阪府ほか2者不当労働行為救済申立棄却命令取消請求事件 
原告  X組合(「組合」) 
被告  大阪府(代表者兼処分行政庁 大阪府労働委員会) 
判決年月日  令和5年9月14日 
判決区分  却下・棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、大阪府(以下「府」という。)、公益財団法人Bセンター(以下「Bセンター」という。)及びD公共職業安定所(以下「D職安」といい、府及びBセンターと併せて「府ら3者」という。)が、日雇労働者で組織される組合が申し入れた団体交渉(以下「団交」という。)に応じなかったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
2 大阪府労委は、救済申立てを棄却したところ、組合は、これを不服として、大阪地裁に行政訴訟を提起した。
3 大阪地裁は、組合の請求のうち、大阪府労委に対する命令の義務付けを求める部分を却下し、その余の請求を棄却した。 
判決主文  1 本件訴えのうち、原告の大阪府労働委員会に対する命令の義務付けを求める部分をいずれも却下する。
2 本件訴えのその余の部分に係る原告の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。 
判決の要旨  1 判断枠組み

 一般に使用者とは雇用契約上の雇用主をいうが、労組法7条の目的にかんがみると、雇用主以外の事業主であっても、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、当該事業主は同条の「使用者」に当たるものと解するのが相当である(最二小判平成7・2・28参照)。

2 争点1-1 府が組合の組合員の労組法上の使用者に当たるかについて

(1)組合は、以下アからキの旨主張して、府が組合の組合員の使用者である旨を主張するので、以下、検討する。

ア 福利厚生施設について

 組合は、「C3センター内に設置されている娯楽室等は、日雇労働者のために事業者の代わりにC2事業団が設置したものであり、日雇労働者のための福利厚生施設である。娯楽室等は、同事業団が解散した後に国の財産となり、労働局の管理施設となり、労働局は府を通してBセンターに管理運営させている。府は、福利厚生施設である娯楽室等の提供及び使用制限に関する意見を言える立場にあるから、使用者性がある。」旨主張する。
 しかし、C3センターの娯楽室等は、広く一般府民等が利用可能なものであったことからすると、直ちに日雇労働者のための福利厚生施設であるとはいえないし、原告の主張を前提としても、上記娯楽室等は、事業主から福利厚生施設の提供を受けることが困難な日雇労働者のために設置されたものにすぎず、これが日雇労働者のための福利厚生施設の側面を有するとしても、事業主に代わって設置されたものではない。したがって、府がC3センターを含むC1センターの設置に関与していたとしても、上記娯楽室等の設置をもって直ちに府の使用者性を基礎付けるものということはできない。
 また、組合の主張を前提としても、上記娯楽室等は現時点において国の普通財産であり、Bセンターはこれらを管理しているにすぎず、府は、娯楽室等の提供及び使用制限について意見を言える立場にすぎないのであるから、府が福利厚生施設の利用等について雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあるとはいえない。

イ 健康保険料の負担について

 組合は、「C3センター内では、平成17年度までは府が、平成18年度以降はC4年金事務所がそれぞれ日雇労働者の健康保険に係る印紙代の肩代わり事業を行っていた。府は、平成17年度まで組合の組合員らの健康保険料を負担していたから、使用者性がある。」旨主張する。
 しかし、府は、平成17年度まで、C3センター内において日雇労働者の健康保険に係る印紙代の肩代わり事業を行っていたことが認められるものの、そのことから直ちに府が日雇労働者の健康保険料を負担していたと評価することはできず、ほかに府が上記負担をしていたことを認めるに足りる証拠はない。
 組合の主張を前提としても、府が日雇労働者の健康保険料を肩代わりしていたのは、健康保険に未加入の違法な求人を適法化するために求人事業者に代わって負担していたにすぎず、このような行為は行政機関としての府による労働者保護施策とみることが可能であり、使用者としての行為であるとはいえないから、府の使用者性を基礎付けるものということはできない。

ウ 高齢者特別清掃事業(以下「特掃事業」という。)について

 組合は、以下(ア)から(ウ)のとおり主張する。
(ア)特掃作業員の名目上の雇用主はC5機構であるが、1日の作業員就労数が府によって決められ、賃金台帳の書式も府が決めた様式に指定されている等から、特掃作業員の実質的な使用者は府である。
(イ)府は、特掃作業員の賃金手取額を5700円と決定していた。これは、①特掃事業の委託契約の業務仕様書における作業員に不労就労が発生した場合の返納すべき余剰金額の記載のほか、②労働局及び府がBセンターに委託した環境美化等業務に係る委託契約書並びに市がC5機構に委託した高齢日雇労働者社会的就労支援業務に係る業務委託契約書における作業員の賃金手取額を1日5700円とする旨の記載によって裏付けられている。したがって、府は特掃作業員の使用者である。
(ウ)府による特掃作業員の資格調査は、求人者の意思とは関係なく、Bセンターの常時利用者のみに限定し、55歳以上の者と年齢制限し、年金収入を生活保護以下の者と制限し、生活保護受給者の就労を禁止するなど、紹介業務に付随する手続ではなく、求人者の意思を無視して紹介段階で府が定めた違法な条件により労働者を排除する行為である。これらの事情からすると、府に使用者性がある。
 しかし、(ア)1日の作業員就労数や賃金台帳の書式は日雇労働者の労働条件に関するものではなく、府がこれらを定めているからといって府の使用者性を基礎付けるものとはいえない。
 また、(イ)特掃事業は、E地域の生活が困難な55歳以上の高齢日雇労働者の自立生活の支援及びE地域等の環境美化を図るための就労対策事業であり、府が使用者として行っているものとはいえないから、仮に府及びC5機構間の業務委託契約において特掃作業員の1日の賃金手取額を5700円とする旨の合意があったとしても、そのことをもって府の使用者性を基礎付けるものとはいえない。
 加えて、(ウ)府が行う資格調査は、Bセンターが特掃作業員をC5機構に紹介するために必要な登録を行うための客観的な要件を確認するものであり、特掃事業が就労対策事業であることに伴う資格制限であって、使用者としての行為であるとはいえないから、府の使用者性を基礎付けるものとはいえない。

エ 社会保険印紙の交付について

 組合は、「府は、失業保険や健康保険の未適用事業者の代わりにBセンターを通じて日雇失業保険料及び日雇健康保険料を肩代わりし、保険未適用事業者からの求人紹介をしてきた。そして、府は、時期は不明であるものの、日雇失業保険料の肩代わりを止め、日雇健康保険料の肩代わりの条件を変更した。このように、府は、社会保険加入や未加入及び保険料の負担といった条件を変更していることから、使用者性がある。」旨主張する。
 しかし、府がC3センター内において日雇労働者の健康保険に係る印紙代の肩代わり事業を行っていたとする点については、前記イで説示したとおりである。
 その余は、組合が主張する当該事実を認めるに足りる証拠はなく、仮に組合が主張するように府が日雇労働者の雇用保険に係る印紙代の肩代わり事業を行っていたとしても、前記イで説示したのと同様に府による労働者保護施策とみることができるから、これをもって府の使用者性を基礎付けるものということはできない。

オ 一時金の支給について

 組合は、「C3センターが設置された翌年の昭和46年から、ボーナスの支給がない日雇労働者のために、一時金の支給が始まったところ、その資金は、府、市及びC8協会(求人業者)から出されており、夏季一時金及び冬季一時金が年2回支給されていた。その後、特掃事業の開始とともに、一時金の支給は廃止され、一時金に使用されていた資金は特掃事業の費用に回された。一時金の支払は使用者が行うものであること、府は、一時金を支給するかどうかの権限を持っていることから、使用者性がある。」旨主張する。
 しかし、昭和46年夏期から少なくとも平成元年までの間、E地域の日雇労働者の福祉の増進を図るため、一時金が支給されていたことが認められ、その資金が府、市及び求人業者から支出されていたことがうかがわれるものの、これは、事業主から一時金の支給が受けられない日雇労働者のための福利厚生措置であり、府が事業主に代わって支給したものとはいえないから、府の使用者性を基礎付けるものとはいえない。

カ チェックオフ制度について

 組合は、「一時金の支給は、A3組合がBセンターの窓口の横にテーブルを出し、白手帳を持ってきた労働者に領収書を書かせて、Bセンター、国及び府の職員が領収書と引き換えに領収書に書かれた金額より100円少なく一時金を支払っていた。このように、府が一時金から100円を引いて、その100円を労働組合であるA3組合に渡すことはチェックオフ制度そのものであり、府は、使用者が行うべき行為を協力して行っているから、使用者性がある。」旨主張する。
 しかし、組合が主張するような、府がチェックオフをしていたことを認めるに足りる証拠はない。

キ C3センターの閉鎖及び立退きについて

 組合は、「C3センター内には、登録した求人事業者と労働者が直接求人活動ができる『寄り場』が設置され、日雇労働者は主に『寄り場』で仕事を見つけていた。それにもかかわらず、労働局、市や府は、労働者である組合の組合員の意見を無視して、同センターを強制閉鎖して相対紹介を行っていた『寄り場』を廃止し、その結果、多くの日雇労働者が失業するなどした。このような行為は、日雇労働者を解雇しているのと同然の行為であり、団交を行う対象者になり得るというべきである。」旨主張する。
 しかし、府ら3者は、C1センターを平成31年4月24日には閉鎖したこと、その後も、Bセンターは、C3センターの向かいに設置された仮事務所において、引き続き職業紹介事業(窓口紹介)を行っていたことが認められる。仮に上記措置によって日雇労働者の就職者数が減少したとしても、これらが日雇労働者の個々の雇用契約を終了させるものとは同視できないから、府の使用者性を基礎付けるものとはいえない。

(2) 小括

 以上によれば、組合の上記各主張はいずれも採用することができない。本件全証拠によっても、府が、組合の組合員の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配・決定することができる地位にあると認めることはできないから、府は、組合の組合員の労組法上の使用者には当たらないというべきである。

3 争点1-2 Bセンターが組合の組合員の労組法上の使用者に当たるかについて

 組合は、「Bセンターも、前記2(1)アからカで主張した事項について、府らと共に実施等していた事情によると、Bセンターには使用者性がある。」旨主張する。
 しかし、前記2(1)アからカで説示したことはBセンターについても妥当する。本件全証拠によっても、Bセンターは、組合の組合員の基本的な労働条件等について雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配・決定することができる地位にあると認めることはできず、組合の組合員の労組法上の使用者には当たらないというべきである。

4 争点1-3 D職安が組合の組合員の労組法上の使用者に当たるかについて

 組合は、「D職安は、C3センターの一員として、前記2(1)オ、カで主張した事項について、府らと共に実施していたことから、使用者性がある」旨主張する。
 しかし、前記2(1)オ、カで説示したことはD職安にも妥当する。本件全証拠によっても、D職安は、組合の組合員の基本的な労働条件等について雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配・決定することができる地位にあると認めることはできず、組合の組合員の労組法上の使用者には当たらないというべきである。

5 争点2 本件弁明書をもって組合が府ら3者に対して団交申入れをしたといえるかなどについて

 前記2から4で説示したとおり、そもそも府ら3者は、組合の組合員の使用者には当たらないというべきであるから、府ら3者の対応が正当な理由のない団交拒否に当たるとする組合の主張は前提を欠く。
 この点を措くとしても、①府が令和2年に行った、組合のA1委員長らを債務者として土地明け渡し断行仮処分命令の申立て事件(以下「別件保全事件」という。)は組合代表者個人を債務者として申し立てられたものであること、②別件保全事件において、A1委員長が提出した弁明書(以下「本件弁明書」という。)には組合名の記載がないこと、③本件弁明書には、「団交に応じよ」との記載や15項目の要求事項が掲げられているものの、明確に団交を申し入れる文言ではないことからすると、本件弁明書をもって組合が労働組合として団交を申し入れたとみることはできない。
 そして、府がC3センターの代表であるとの根拠が定かではなく、府を債権者とする別件保全事件において本件弁明書を提出したとしても、BセンターやD職安に対して団交申入れしたとみることができないことは明らかである。

6 まとめ

 以上によれば、本件棄却命令は適法であり、本件棄却命令を取り消すべきとはいえないから、本件訴えのうち、請求の第1項(本件棄却命令の取消請求)は理由がない。
 また、本件訴えのうち、請求の第2項から第4項は、大阪府労委に対して命令(府ら3者に対する団交応諾命令)の義務付けを求めるもので、いわゆる申請型義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条6項2号)と解されるところ、上記のとおり本件棄却命令は適法であるから、同法37条の3第1項2号の要件を欠き、不適法なものとして却下を免れない。

7 結論

 本件訴えのうち、大阪府労委に対する命令の義務付けを求める訴えは不適法であるからこれらをいずれも却下し、本件棄却命令の取消しを求める請求は理由がないからこれを棄却する。
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委令和3年(不)第12号 棄却 令和4年6月13日
 
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