労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  岐阜地裁令和3年(行ウ)第2号
労働委員会救済命令取消請求事件 
原告  株式会社X(「会社)」 
被告  岐阜県(代表者兼処分行政庁 岐阜県労働委員会) 
判決年月日  令和4年9月30日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、①会社が、T店に勤務していた組合員A5に対し、平成30年4月21日より本店勤務を命ずる配置転換命令を発出したこと、②平成30年10月1日付けでA3組合代表に対し訓戒の懲戒処分を行ったことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事件である。
2 岐阜県労委は、①について労組法第7条第3号、②について同条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、(i)組合の組合員を不当に配置転換し、又は懲戒処分するなどして、組合の組合活動に支配介入することの禁止、(ⅱ)組合の組合員を不当に懲戒処分するなどして、組合の組合員を不利益に取り扱うことの禁止、(ⅲ)組合の代表A3に対する注意(訓戒)の懲戒処分がなかったものとしての取扱い、(ⅳ)文書の交付等を命じ、その余の申立てを棄却した。
3 会社は、これを不服として、岐阜地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 
判決の要旨  1 本件配転命令は労組法7条3号の支配介入に該当するか
⑴ 会社は、先行配転命令及び本件配転命令ともに業務上の必要性に基づきされたものであり、本件組合の運営を支配し、あるいはこれに介入しようとしたものではなかったと主張する。
 この点、会社が支配介入の意思の下に配転を行い、そのことによって組合の運営を支配しまたはこれに介入することになる場合は、当該配転は支配介入の不当労働行為に該当するところ、支配介入の意思については、組合の弱体化や反組合的な行為に対する積極的な意図であることを要せず、その行為が客観的に組合弱体化ないし反組合的な結果を生じまたは生じさせるおそれがあることへの認識、認容で足りるとすべきである。

ア 先行配転命令(会社は、T店で勤務し、本件組合の組合員であったA5及びA4に対し、平成29年5月21日付けで本店への配転を命ずる旨を内示)について
 会社は、先行配転命令の必要性について、主に、本店の人出不足、T店の人員余剰、配転の対象としてベテラン従業員が必要とされていたこと等を指摘する。
 しかし、この当時の人手不足に対する認識として、B2工場長は、「本店は少し足りていないのではないか、と考えている。ただ、秋の繁忙期には補充をしているので、特別問題があるとは思っていない。」と説明しており、先行配転命令発出時、会社は、本店の人手不足について特別問題視はしていなかったと推認できる。
 他方、T店の人員について、B2工場長は、「売上から見ると、T店の厨房は現在人数が多すぎると考えている。」という説明をしている。しかしながら、喫茶部門と販売部門とで業務内容が異なる上、喫茶部門は、その後の会社における商品の販売増加につながることも期待して運営されていると考えられることからすれば、単純に同一店舗内の異なる部門の売上げを比較して人員余剰があるかどうかを判断できるのかについては疑問がある。そして、先行配転命令の時点において、T店の「喫茶部門」の従業員数は5名であり、A4及びA5が異動となれば、同部門の従業員数は3名となる。同部門では、平成28年5月にそれまで3名体制だったものを5名体制とし、その後、平成29年7月21日にA4が異動した後には、B3店長が喫茶指揮を担って実質5名体制を維持し、この体制を平成30年2月まで保持している。このような状況からすれば、先行配転命令当時において、同部門の従業員数を3名まで減員すべきほどの人員余剰があったともいい難い。
 そうすると、先行配転命令の必要性については、明らかではないというべきである。

イ 本件配転命令について
 会社は、本件配転命令(原告が、平成30年4月7日付けで、A5に対し、同月21日からの本店勤務を命じたもの)の必要性について、主に平成28年12月及び平成29年2月に2名の男性従業員(C6及びC7)が労災により休職したことから、製造部門の従業員の負担を少しでも軽減する必要があったことを主張する。
 しかし、本店「製造部門」では、C6及びC7が労災により休職をした以降の平成29年4月20日から平成30年4月13日までの間、繁忙期を含めて同人らを除いて、実質10名~11名の従業員数の体制を維持してきたことが認められる。本件配転命令は平成30年4月にされたものであることに照らすと、労災による休職が生じてから1年余り経過した後に、かかる休職を踏まえて負担軽減の措置をとったと考えるのは不自然である。また、会社は、繁忙期に向けて人員を増やす必要があった旨も主張するが、以上のような人員配置の経過に照らすと、その必要があったとも認められない。

ウ 以上のとおり、先行配転命令及び本件配転命令のいずれについても、直ちに配転の必要性があったとはいえない。

⑵ア 他方で、会社とA3との間には、入社以来の緊張関係があったことがうかがわれ、特に会社のした解雇をA3がユニオンに加入して争った前件訴訟で、そのことはより明確になったものというべきである。
 安全衛生委員会(以下「本件委員会」という。)は、その議題からすれば従業員の労務環境等について議論する場であって、その結果は当然、従業員に周知されるべきものと考えられ、実際に周知されてきたにもかかわらず、会社において、A3が前件訴訟で勝訴判決を得て職場復帰が見込まれる時期になって、本件委員会に所属する委員から、本件委員会等で知り得た内容を部下等に勝手に漏らさないことや会社側に立って社員を指導することを誓約するなどといった誓約書を徴求したことは、本件委員会がその構成員をみれば労使の協議の場ともみえること、本店以外の従業員の参加にも門戸を開いていることなども踏まえると、復職したA3が本件委員会に参加し、影響力を行使する場として利用することを懸念していたことを推認させる。
 実際、本件委員会は、ほどなくして開催されなくなっており、T店従業員の過半数代表となったA3の要請があっても開催されていないが、HACCP導入への対応のために年間計画を踏まえて開催していた委員会を、団体交渉への対応を理由に一切取りやめるというのは不自然である。
 その上、A3は、平成29年の選挙により、T店従業員の過半数代表に選任されるに至ったのであるから、会社としては、A3の他の従業員に対するそれ以上の影響力の拡大を避けたいという意思が生じることは容易に推認できる。

イ 以上の点に加え、先行配転命令が、T店における従業員過半数代表者にA3が選出された直後と解される時期に発令されたことを踏まえると、先行配転命令は、T店におけるA3の影響力の低下を意図して発令されたものであるといわざるを得ない。

⑶ その上で、会社は、平成29年5月30日、A4とA5がA3と同じくユニオンに加入したことを知り、同年10月3日にはA3を代表者として本件組合が結成されたことを知っており、その頃にはA4とA5が本件組合の組合員となったことも把握したものと推認できる。
 T店従業員の過半数代表者は、平成30年については選挙の結果、B3店長が選出されていたとはいうものの、T店の従業員がそれまでと大幅に入れ替わった様子はなく、A3を支持する従業員が大幅に減少したとも考えられない中で、A3は、会社に対しハラスメント申告書を提出するなどしており、依然として会社とA3の緊張関係は継続していたことがうかがわれる。
 そのような状況下で、一度撤回されたにもかかわらず、先行配転命令と同じく本件組合の組合員であるA5を対象としてされた本件配転命令は、その必要性が明らかでないことも併せて考えると、先行配転命令と同様、T店におけるA3の影響力の低下を意図したもの、すなわち、A3が結成し代表者を務める本件組合のT店における影響力の低下を意図したものであることが推認できる。

⑷ 以上のとおり、先行配転命令及び本件配転命令の必要性の程度並びに会社とA3の間の対立等の経緯を併せ考慮すれば、本件配転命令に及んだ会社には、A3の組織する本件組合の運営に介入し影響力を低下させようとする意図があったと推認せざるを得ない。本件配転命令は、労組法7条3号の支配介入に該当するものと認められる。

2 本件懲戒処分は労組法7条1号の不利益取扱い及び同条3号の支配介入に該当するか。
⑴ 本件懲戒処分が本件組合の組合員であるA3に対する不利益な取扱いに当たるか。
 本件懲戒処分(平成30年10月1日の注意(戒告)の懲戒処分)は、直接的には、A3につき、本件就業規則94条⒃に該当する懲戒事由(正当な理由なく、所属長または責任者の指示命令、通達に従わなかったとき)が認められたこと、つまり、A3が改善報告書を提出しなかったことを根拠としてなされているところ、改善報告書の提出要求は、本件非違行為(A3が平成30年4月12日にT店内において、A3からパワハラを受けたとしてこれを会社に申告した人物を探しているかのように受け取られるパワハラ行為)の存在を前提としてされている。
 会社は、本件非違行為の存在について少なくともA3が自らこれを認めている状況にはなく、そのほか本件非違行為の存在を認めるに足りる確たる証拠もない中で、就業規則に定めがないことを理由にA3に弁明の機会を与えないなどさらに適切な調査を尽くすことなく、これが存在することを当然の前提にして改善報告書の提出を求めたのであるから、A3において、その提出要求に根拠がないとして応じないことには理由がある。
 したがって、A3が改善指導書で求められた改善報告書の提出に応じないことを根拠にされた本件懲戒処分は理由がないのであり、本件組合の組合員であるA3に対する不利益な取扱いというべきである。

⑵ 本件懲戒処分が組合員であることによってされたものか
 A3と会社は以前から緊張関係にあり、会社は、A3のT店における他の従業員等に対する影響力を低下させることを意図して先行配転命令や本件配転命令に及んだことが認められる。
 会社が、本件非違行為の認定が十分にできていないにも関わらず、更なる調査を行わないまま本件懲戒処分に及んだのは、本件配転命令と同様、A3の活動を制約し、その影響力の低下を意図したものといえ、この当時、A3が代表者である本件組合が結成され、A3の活動が本件組合の活動として行われていることを踏まえると、A3の活動を制約しその影響力の低下を図るということは、本件組合の組合活動を制約又は制限し、組合の弱体化を図るものといわざるを得ない。
 そうすると、本件懲戒処分は、A3が組合員であることによってされたものと認められる。

⑶ また、以上に述べたところによれば、本件懲戒処分は、A3が労働組合を運営することに介入するものと認められる。

⑷ したがって、本件懲戒処分は、本件組合の組合員であるA3に対する不利益取扱いに当たるとともに、本件組合に対する支配介入に該当する不当労働行為であると認められる。

3 結論
 以上のとおり、本件配転命令及び本件懲戒処分は、いずれも不当労働行為に該当するものであるから、本件命令に違法はない。
 よって、原告の請求は理由がないから棄却する。
 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
岐阜県労委平成30年(不)第1号 一部救済 令和3年2月9日
 
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