概要情報
事件番号・通称事件名 |
神戸地裁令和元年(行ウ)第48号
不当労働行為救済申立却下命令等取消請求事件 |
原告 |
X組合(「組合」) |
被告 |
兵庫県(代表者兼処分行政庁 兵庫県労働委員会) |
参加人 |
Z株式会社(「会社」) |
判決年月日 |
令和3年10月29日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、被申立人会社が、①平成27年10月30日、申立人組合の分会との間で締結した、平成21年7月10日付け確認書(以下「本件確認書」という。)の一部(本件確認書のうち、分会員の就労日数を1か月当たり13日確保する部分(以下「13日確保協定」という。)を破棄したこと、②平成28年7月21日、申立人組合のA1組合員を被申立人会社が正社員として直接雇用することを拒否したこと、③平成29年5月22日から同月26日まで、申立人組合のA2組合員を就労させなかったこと、④同年9月以降、申立人組合の組合員を就労させなくなったことが不当労働行為に該当するとして救済申立てがあった事件である。
兵庫県労働委員会は、②について却下し、その余の申立てを棄却した。
組合は、これを不服として、神戸地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、組合の請求を棄却した。 |
判決主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用(参加費用を含む。)は原告の負担とする。 |
判決の要旨 |
1 争点
(1)A1分会員の採用拒否に関する救済申立ては除斥期間を経過したものか(争点1)
(2)第1次解約通告(会社が平成27年10月30日、分会に対し、90日の予告期間を置き、13日確保協定の解約を通告したこと)が、分会員に対する不利益取扱い及び組合に対する支配介入(労働組合法7条1号、3号)に該当するか(争点2)
(3)会社が、平成28年7月21日にA1分会員の採用を拒否したことが、A1分会員に対する不利益取扱い及び原告に対する支配介入(労働組合法7条1号、3号)に該当するか(争点3)
(4)会社が、平成29年5月22日から同月26日までの間、A2分会員の就労を拒否したことが、A2分会員に対する不利益取扱い及び原告に対する支配介入(労働組合法7条1号、3号)に該当するか(争点4)
(5)会社が、平成29 年7月24日以降分会員の就労を制限し、同年9月以降、全く就労させなくなったことは、組合員に対する不利益取扱い及び原告に対する支配介入(労働組合法7条1号、3号)に該当するか(争点5)
(6)第1次解約通告に対する救済申立てに関する除斥期間の主張について
会社は、第1次解約通告に関する救済申立て(平成29年10月13日申立て)に関し、原処分が除斥期間経過を理由に却下せずに実体判断を行って棄却したことについて、除斥期間経過を理由に却下すべきものであって、原処分が誤っている旨主張するのに対し、兵庫県労働委員会は会社の係る主張が不利益変更禁止の原則に抵触すると主張するので、この点を争点として取り上げるかどうかについて検討する。
会社は、第1次解約通告に係る救済申立てに対する棄却命令(以下「本件棄却命令」という。)の交付から15日以内に再審査の申立てを行っておらず、また30日内に取消しの訴えを提起していないところ、本件棄却命令は労働組合法27条の19第1項所定の期間経過時に会社に対する関係において確定する結果(労働組合法27条の13第1項)、本件棄却命令はもっぱら労働者側からこれを争い、その利益にのみ変更され得る状態になったものというべきである(労働委員会規則55条1項ただし書き)。
仮に、当裁判所が、会社の主張に基づき、本件棄却命令について、本来除斥期間経過を理由として却下すべきものであることを理由にこれを取り消した場合、兵庫県労働委員会は、その理由(すなわち、除斥期間を経過していることを理由に救済申立てを却下すべきこと)に拘束され、改めてする救済申立てに対する命令では、申立てを却下すべきこととなる(行訴法33条)。このような帰結は、実質的に会社が再審査の申し立てを行ったのと同様の結果を生ずることとなるが、かかる帰結は、上記のとおり本件棄却命令が会社との関係で確定した結果と相容れないものであり、使用者に対する関係で救済命令等を早期に確定させる労働組合法の趣旨に反することとなるから相当でない。
したがって、当裁判所は、本件棄却命令に関し、除斥期間を徒過しているか否かについては判断を示さず、もっぱら組合がその違法性を主張する実体面について判断を示せば足りると解するのが相当である。よって、この点は、本件における争点としては取り上げない。
2 争点2について
会社のB営業所では、平成24年度以降毎年大幅な赤字を計上しており、その収支改善の必要性があったと認められるところ、正規乗務員の稼働率の向上は収支改善のための合理的な措置であると考えられる。
そのような中、業務量に関わりなく、遅くとも平成27年1月以降は、分会員9名に対し1か月当たり13日以上の就労を確保することが、正規乗務員の稼働率の低下を招き、ひいては人件費を圧迫する要因となっていたものといえ、正規乗務員の稼働率向上による収支改善という、第1次解約通告の理由は首肯できるものである。
これに対し、組合は、会社のB1営業所では、正規乗務員はB2港を経由するコンテナを、OB乗務員はB1港を経由するコンテナを担当していたため、OB乗務員がB1港で乗務したからといって直ちに正規乗務員の業務量が減るということにはならないから、13日確保協定が正規乗務員の稼働率を悪化させたり、人件費を圧迫したりすることにはならないと主張し、B1営業所の経営改善は合理的な理由ではなく、真実は会社が分会の存在を嫌悪しており、その弱体化を目的としていたと主張する。
しかし、B1営業所の業務量にかかわらず、分会員の就労日数を確保することを義務付ける13日確保協定が撤廃されれば、全体としての業務量が減少した際には、B1港を担当する分会員(日雇労働者)の人数を削減し、その分、過剰となったB2港担当の正規乗務員をB1港の担当に割り振るなど、正規乗務員の稼働率を向上させるための流動的な対応が可能となるのであり、上記のような流動的な対応により、正規乗務員の稼働率を上げるべく13日確保協定の撤廃を図ることには一定の合理性が認められるから、この点に係る組合の主張は採用できない。
以上によれば、第1次解約通告は、B1営業所の収支改善のため、正規乗務員の稼働率を向上させるという目的のためにされたものであって、その理由が合理性を欠くとはいえず、労働組合の弱体化を図ることが決定的な動機となっている、あるいは労働組合の組合員であるが故をもってされたとはいえず、不当労働行為に該当しない。
よって、争点2に関する組合の主張は採用できない。
3 争点1について
会社は、平成27年10月30日、分会に対し、90日の予告期間を置き、13日確保協定の解約を通告した(以下「第1次解約通告」という。)。
会社と分会は、平成28年2月2日及び同年4月6日、第1次解約通告を受けた団体交渉を行い、同月7日、①13日確保協定について、労使双方の同意の上、同年1月31日をもって破棄することを確認し、②会社は乗務員の新規採用について、同年7月上旬を目途に1名を対象とし、会社の業績、又は経営計画等を考慮しながら検討する旨の同年2月17日付け確認書が作成された(以下「平成28年合意」という。)。
平成28年合意を成立させる過程において、分会が第1次解約通告撤回を同合意中に明示するよう会社に求めた事実は認められず、実際に平成28年合意中に第1次解約通告を撤回した旨の記載は存在しない。これらの事情は、会社において、第1次解約通告を撤回していないことを優に推認させるものである。また、仮に組合の主張するように、第1次解約通告を撤回した上、平成28年合意によって13日確保協定を失効させるのであれば、13日確保協定の失効は交渉妥結の日あるいは現実の押印の日等となることが通常と考えられ、あえて失効の日を遡及させる必要もない。このことも、平成28年合意が、第1次解約通告の撤回を前提とした13日確保協定の解約合意ではなく、あくまでも第1次解約通告の効力を会社及び分会が確認したものと理解することと整合的である。
そうすると、分会員の直接雇用は、13日確保協定の解約の効力(第1次解約通告の効力)の確認と同一の確認書上に記載されているものの、これらはあくまでも、前者を条件に、分会が第1次解約通告の効力を争わないとする事実上の関連性を有する限度にとどまるのであって、相互に直接的な関連性を有するとは評価できない。
また、会社は、A1分会員の不採用について、当該時点での経営状況に基づく判断である旨主張するところ、かかる会社の主張は、会社の経営状況に照らして不合理なものとはいえないことに加え、争点2について論じたとおり、第1次解約通告による13日確保協定の解約について、組合が主張するような分会員排除目的が決定的な動機となっているとは認められず、したがって、A1分会員の不採用が第1次解約通告と同様に分会員排除目的に基づいてされた一連一体の行為ということはできない。
そうすると、A1分会員の不採用は、第1次解約通告から平成29年以降にされた分会員の就労機会の減少と継続する行為ということはできず、その行為の除斥期間はA1分会員の不採用という意思決定がされた平成28年7月21日から起算されるところ、本件救済申立てが行われた平成29年10月13日の時点で除斥期間が経過していることは明らかである。
よって、争点1に関する組合の主張は採用できない。
4 争点4について
会社が平成29年5月22日から同月26日までの間、A2分会員の就労を拒絶したこと及びその理由として、A2分会員が日雇労働被保険者手帳を取得していないことを挙げたことは明らかである。
会社で就労する日雇労働者は、従前から日雇労働被保険者手帳の交付を受けた上で就労しており、会社も従前から、雇用保険法が定める手続上、日雇労働者を就労させるには日雇労働被保険者手帳を取得させなければならないと認識していたのであり、会社がA2分会員にだけ他の日雇労働者と異なる対応を求めたわけでもない。また、会社は、組合が運営する労働者供給事業であるテアシックスからA2分会員を供給すること自体については異議を述べていないことに加え、A2分会員について、日雇労働者に該当せず、無保険者として就労させることについて労働局からこれを直ちに違法とはいえないとの回答を得た後には、日雇労働者被保険者手帳の有無に拘泥せず、A2分会員が日雇労働被保険者手帳を取得していない状態で就労させた上、就労を拒絶した間の賃金相当額をA2分会員に支払っていることに照らせば、A2分会員の就労を拒絶したのは、日雇労働被保険者手帳を取得しないままA2分会員を就労させることの適法性に疑義があったためであるとの会社の主張は首肯できるものである。
また、確かに組合が主張するとおり会社がA2分会員の就労を拒絶した時期は、会社が前年度に行ったA1分会員の不採用に関連し、労使間に一定の対立のあったことはうかがわれるところであるが、A2分会員の就労拒絶に関する上記の事情に照らせば、A2分会員が当初より日雇労働者被保険者手帳を取得した上で就労を求めた場合等、会社においてA2分会員の就労に関し適法性に疑義がない場合であっても、同様の就労拒絶に及んだと考えることは困難である。
よって、会社が、A2分会員が組合員であるが故をもって就労を拒絶した、あるいはA2分会員が分会に所属しても日雇労働ができないことを示すことで分会加入の利益を減殺し、分会の拡大を阻止するために就労を拒絶したとは認められないから、争点4に関する組合の主張は採用できない。
5 争点5について
分会員の就労日数は平成29年7月以降に減少し、同年9月以降の就労はほぼ皆無となっているが、会社においては前年の9月、収益の改善を目的に運送料金の引上げを図ったところ、特にB1営業所では同業他社に顧客が流出する結果となり、業務受託料の減少を招く結果となった。分会員の就労日数の減少はこれらの業務受託料の減少に伴って生じたものとする会社の主張は合理的なものである。
これに対し、組合は、①会社は雇用保険に関する協定書に押印を拒み、雇用保険制度の運用見直しを契機としてこれを口実に分会員を排除しようとしたものであり、会社は不当労働行為意思を有していた、②会社は分会員の業務が減少した分について、企業内組合やC2支部の組合員を動員していたのであるから、分会員の就労日数を削減する必要はなかったと主張する。
しかし、平成29年当時、未だ13日確保協定解約の効力に関する司法判断はされていないものの、少なくとも会社はこれを解約したことを前提に行動していたのであって、分会員を1か月当たり13日以上就労させる義務を負っていないとの認識に立つ会社としては、あえて組合と新たな紛争となりかねない協定書への押印拒否によって就労拒絶の口実を作るまでもなく、テアシックスに労働者の供給を依頼しなければそれで足りるのであるから、会社が協定書への押印を直ちにしなかったことをもって、これを口実に分会員を排除しようとしていたとする組合の主張はその前提を欠くものであり、このことが不当労働行為意思を推認させるものではない。また、会社が、企業内組合ないしはC2支部の組合員を動員した事実は認められるものの、会社が協力を仰いだ者は日雇労働者ではなく正規乗務員、すなわち、正社員又は準社員であって、会社は、これらの継続的な雇用関係にある者の稼働率を向上させることで収支の改善を図っていたというのであるから、分会員が担当していた業務について企業内組合内ないしはC2支部の組合員に協力を仰いだという事情も、日雇労働者を削減する必要がなかったという組合の主張を裏付けるものではない。組合の主張は採用できない。
以上のとおり、分会員の就労日数の減少は、C1営業所の受注量の減少に伴うものであり、不当労働行為に該当しないということができ、このことは分会員の就労日数が減少した平成29年7月当時ないしそれ以降の13日確保協定の規範的効力の有無に左右されない。 |
その他 |
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