労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪地裁平成30年(行ウ)第2号
サンプラザ不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  株式会社X(「会社」) 
被告  大阪府(同代表者兼処分行政庁 大阪府労働委員会) 
被告補助参加人  Z労働組合(「組合」) 
判決年月日  令和元年10月30日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、①会社が、雇用契約書様式を改訂し、本件ユニオン条項 (注1)、本件チェック・オフ条項(注2)を追加して、パート従業員との雇用契約にこの雇用契約書様式を使用したこと、②会 社の各店長らが、パート従業員との雇用契約に当たり、別組合への加入を勧奨又は強要したこと、③会社が、雇用契約書において 別組合に加入する旨の記載のあるパート従業員の賃金から、かかる記載があることのみをもって、別組合の組合費のチェック・オ フをしたことが不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件である。
(注1)別組合とのユニオンショップ協定に基づき原則として別組合の組合員になる旨を記載し、別組合のみについて加入意思の 有無を尋ねる内容の条項
(注2)労使協定が締結された場合、同協定に基づく賃金控除を実施する旨を記載した条項

2 大阪府労働委員会は、会社に対し、パート従業員との雇用契約の締結又は更新に当たり、労働組合への加入の意向を質問した り、その旨の記載のある雇用契約書の使用の禁止、本件ユニオン条項の「はい」の欄に○を付した雇用契約書が作成されたことを 理由に、チェック・オフをすることの禁止、既にチェック・オフした組合費相当額をパート従業員に支払うこと、上記1の①、② の一部及び③について文書の手交・掲示を命じ、その余の申立てを却下した(本件命令)。

3 会社は、これを不服として、大阪地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。 
判決の要旨  1 会社が本件ユニオン条項が含まれる雇用契約書様式を用いたこと について
 本件ユニオン条項は,原則として別組合の組合員になる旨の記載の下に,別組合のみについて加入意思の有無を尋ねるものであ り,本件ユニオン条項を含む契約書様式を示された者は,会社が,複数存在する労働組合のうちの一つである別組合への加入を勧 奨していると理解するのが自然である。そうすると,本件契約書様式は,雇用契約の締結又は更新の際に使用された場合,雇用な いし継続雇用を求める労働者をして,別組合へ加入しなければ雇用されず,あるいは雇用期間の更新がされないかもしれないと判 断させ,別組合に加入するよう誘導するものといいうる。会社は,別組合とのユニオンショップ協定の締結を従業員に周知する等 の必要性がある旨を主張するが,同一企業内に複数組合が併存している本件においては,特段の事情がない限り,中立保持義務 (平等取扱義務)を負っている会社において,あえて雇用契約の締結等の契約中に一の組合である別組合のみへ加入する意思があ るか否かを問う条項を入れる必要性及び合理性は認められない。以上によれば,会社による雇用契約書様式の使用は,別組合の組 織強化を助け,組合の組織の弱体化をもたらす性質のものというべきであるから,労組法7条3号の支配介入に当たるとした処分 行政庁の判断が違法であるとはいえない。

2 店長らが,パート従業員に対して,本件ユニオン条項への回答を求めたこと,本件ユニオン条項の「はい」の欄に丸をつける よう誘導したこと,別組合へ加入するよう勧誘したことについて
ア B9統括店長の行為について
 B9統括店長による組合員のパート従業員に対し,組合を脱退し別組合に加入するよう勧誘をした行為は,複数存在する労働組 合のうちの一つである別組合への加入を勧奨し,あるいは,別組合への加入を強要したともいいうるものであり,別組合の組織強 化を助け,他方で組合の組織の弱体化をもたらす性質のものである。会社は,組合の抗議にもかかわらず,本件ユニオン条項を含 む契約書様式を用い,雇用期間の更新を早期に完了させることで,パート従業員を,原則的に別組合の組合員にしようとする意思 を有していたものと認められる。B9統括店長は,パート従業員が別組合に加入しない選択をしたことを問題視する発言をしてい たこと,同店長が勧誘をし,パート従業員約10名が組合を脱退して,別組合に加入したことのほか,同店長がB2取締役から平 成27年4月15日までに更新手続を終えるよう指示を受けていたこと,以上の事実に上記の会社の意思を踏まえると,B9統括 店長は,使用者たる会社の意思を体して,上記勧誘行為を行ったものと認められる。よって,B9統括店長の上記勧誘行為が,会 社による労組法7条3号の支配介入に該当するとした判断が誤っているとはいえない。
イ B6統括店長の行為について
 B6統括店長は,本件ユニオン条項に「いいえ」と回答したパート従業員である組合員に対し,組合を脱退して,別組合に加入 するよう勧誘した行為は,複数存在する労働組合のうちの一つである別組合への加入を勧奨し,あるいは,別組合への加入を強要 したともいいうるものであり,別組合の組織強化を助け,他方で組合の組織の弱体化をもたらす性質のものであるということがで きる。会社は,パート従業員をして,原則的に別組合に加入させようとする意思を有していたと認められ,かつ,B6統括店長 は,当時,会社の次長級の役職者であって,別組合に加入するよう勧誘をし,パート従業員約10名が組合を脱退して,別組合に 加入したことのほか,上述したB2取締役の指示内容を踏まえると,B6統括店長は,使用者たる会社の意思を体して,上記勧誘 行為を行ったものと認められる。よって,B6統括店長の上記勧誘行為が,会社による労組法7条3号の支配介入に該当するとし た判断が誤っているとはいえない。
ウ B12店長及びB8店長の行為について
 パート従業員に対して本件ユニオン条項への回答を求めた際,B12店長は,「『はい』でよいか」と発言し,B8店長も, 「『はい』でいいよね」などと発言しているが,かかる行為は,使用者である会社が,その従業員に対し,複数存在する労働組合 のうちの一つである別組合への加入を勧奨し,あるいは,別組合に加入することへ誘導するものといいうる。また,会社は,パー ト従業員をして,原則的に別組合に加入させようとする意思を有していたこと及びB2取締役が本件契約書様式にしたがって契約 の更新をするよう指示しており,B9統括店長とB6統括店長が会社の意思を体して勧誘行為をしていたと解されることについて も上述したとおりである。以上の点を総合すると,B12店長及びB8店長についても会社の意思を体して,上記行為を行ったも のと認められる。よって,B12店長及びB8店長の行為が,別組合への加入を勧奨又は強要したものとして,労組法7条3号の 支配介入に当たるとした判断が誤っているとはいえない。
エ B7店長及びB11店長の行為について
 B7店長及びB11店長は,パート従業員に対し,本件ユニオン条項への回答を求めているところ,かかる行為については,別 組合の組織強化を助け,組合の組織の弱体化をもたらす性質のものというべきである。また,会社は,パート従業員をして,原則 的に別組合に加入させようとする意思を有していたこと及びB2取締役が本件契約書様式にしたがって契約の更新をするよう指示 しており,B9統括店長とB6統括店長が会社の意思を体して勧誘行為をしていたと解されることについても上述したとおりであ る。以上の点を総合すると,B7店長及びB11店長についても会社の意思を体して,上記行為を行ったものと認められる。よっ て,B7店長及びB11店長の行為について,労組法7条3号の支配介入に該当するとした判断が誤っているとはいえない。
オ まとめ
 以上によれば,店長らの行為が,会社による労組法7条3号の支配介入に該当するとした本件処分が違法であるとはいえない。

3 別組合に加入したパート従業員の賃金から,別組合の組合費をチェック・オフしたことについて
 チェック・オフの実施にあたっては,対象となる組合員から個別的に委任を受けていることが必要である(最高裁平成3年(行 ツ)第91号同7年2月23日第一小法廷判決)。本件チェック・オフ条項は,労使協定に基づく賃金控除を実施する旨を告げる にとどまるもので,当該組合員から個別的に委任を受けるものではない。また,本件ユニオン条項は,会社従業員をして,別組合 へ加入しなければ雇用されず,あるいは雇用期間の更新がされないかもしれないと判断させ,別組合に加入するよう誘導するもの であり,本件契約書様式による採用ないし更新の契約は不当労働行為に該当するものである。そうすると,本件契約書様式による 契約書を提出したパート従業員について本件チェック・オフを実施することは,十分な法的根拠のないものというべきであって, かかる行為は,別組合へ財政的な支援をし,その反面で組合を弱体化させるものと認められる。したがって,チェック・オフを実 施したことが支配介入に該当するとした判断が誤っているとはいえない。

4 ポスト・ノーティスに関する裁量権の逸脱・濫用について
 1から3で述べたとおり,会社の各行為について,いずれも支配介入が認められるところ,会社は,本件命令以前にもたびたび 救済命令を受け,その後に各行為に至っていることなど本件に現れた諸事情を踏まえると,本件命令第3項(ポスト・ノーティス を命じる部分)について裁量権の逸脱・濫用があるとはいえない。

5 総括
 以上によれば,本件各行為が支配介入に該当すると判断した本件命令が違法であるとはいえず,また,本件命令第3項について 裁量権の逸脱・濫用があるとはいえない。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成28年(不)第12号 一部救済 平成29年12月11日
 
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