労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  福岡地裁平成29年(行ウ)第46号
ケミサプライ・アマックス不当労働行為救済命令取消請求事件
原告  株式会社X(「会社」) 
被告  福岡県(処分行政庁・福岡県労働委員会) 
被告補助参加人  Zユニオン(「組合」) 
判決年月日  平成30年5月16日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  本件は、組合と会社との間で平成28年11月24日に行われた組合 員A1の解雇問題等に係る団体交渉(「本件団交」)において、会社が、①就業規則を開示していたとの根拠を示さないまま退席 し、団交申入れの要求事項(「本件要求事項」)に係るその後の協議を拒否したこと、及び②会社役員らを出席させず、代理人弁 護士のみを出席させたこと、が不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件で、福岡県労働委員会は、会社に対し、誠実団 交応諾、①について文書の交付・掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。
 会社は、これを不服として福岡地裁に訴訟を提起したところ、同地裁はこれを棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加により生じたものも含め、原告の負担とする。 
判決の要旨  当裁判所の判断
1 争点(1)(本件要求事項が義務的団交事項であるか。)について
  義務的団交事項とは,組合員である労働者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項であって,使用者に 処分可能なものをいうと解される。
  組合は,A1の組合への加入以来,会社に対し,本件団交を含む団体交渉において,A1の解雇を撤回すること,A1の労働 条件に関わる違法状態やA1の懸念する不利益取扱いや嫌がらせを改善して,復職後も安心して働ける職場環境を確保することを 目的としていたものであり,本件要求事項は,文言上はA1の労働条件の説明を求めるものであるが,実質的には当該目的の実現 に向けての交渉の一環として前提を明確にすることを求めているものとみることができるから,本件要求事項はいずれも組合員で あるA1の労働条件その他の待遇に関する事項であって,使用者である会社に処分可能なものであると認められ,義務的団交事項 に該当するといえる。
2 争点(2)(会社は本件要求事項に対する回答書を送付したことをもって,団交義務を尽くしたといえるか。)について
  会社は,組合が本件要求事項で求めた説明の要求を全て受け入れ,回答書で説明を行っているから,団交義務を尽くしている と主張する。
  使用者は,団体交渉に当たり,組合と誠実に交渉にあたる義務(誠実交渉義務)があり,使用者は,単に組合の要求を聴くだ けでなく,要求に対して論拠や資料を示しながら具体的に回答や主張をし,また,合意を求める組合の努力に対しては誠実な対応 を通じて合意形成の可能性を模索する義務があると解される。また,誠実交渉義務は,使用者が組合と面談して協議する過程で果 たされ得るものであり,面談して協議すべき義務を含んでいるから,書面のみの往復による協議は,使用者と組合の合意に基づく ものでない限り誠実交渉義務を尽くしたことにはならないと解される。
  会社は,平成28年6月17日付けの書面により,今後の団体交渉をできる限り文書で行うよう求めたものであるが,組合が これに応じたと認めるに足りる証拠はなく,かえって,組合は,あっせん申請や本件団交申入れを行っており,組合が会社との面 談しての協議を求めていたことは明らかであるから,組合は本件要求事項について書面のみによる協議を拒否したものと認められ る。また,本件要求事項は会社の主張するような単なる説明の要求にとどまるものではなく,面談協議を通じて,A1の復職後の 労働条件その他の待遇について合意形成を求めるものであり,本件団交申入れに至る経緯に照らせば,会社は組合の意思を理解し ていたものと認められるから,回答書を送付したのみでは誠実交渉義務を尽くしたとはいえない。
  したがって,会社が回答書を送付したことをもって団交義務を履行したとは認められず,会社の主張は採用できない。
3 争点(3) (本件団交における会社の対応が正当な理由のない団交拒否となるか。)について
  本件団交に至る経緯と本件団交における会社の対応を併せ考えれば,会社は,本件団交前の団体交渉から,組合の要求に対し て論拠や資料を示しながら具体的に回答や主張をしたり,また,合意を求める組合の努力に対しては誠実な対応を通じて合意形成 の可能性を模索する努力を尽くす必要はないとして,不誠実な交渉態度を続け,本件団交に至っても態度を改めなかったのである から,本件団交における会社の対応は,正当な理由のない団交拒否(不誠実団交)として労組法7条2号の不当労働行為に当たる と認められる。
4 争点(4)(本件救済命令に処分行政庁の裁量の逸脱があるか。)について
(1) 本件命令1項(会社が本件団交申入れに係る団体交渉に直ちに応じることの命令)について
  前記3で認定,説示したところによれば,会社は,本件団交及びその後の団交において,本件団交申入れに対して誠実交渉義 務を果たしたとはいえないものであるから,本件命令1項は,原告に対し,直ちに本件団交申入れに対して誠実な交渉を行わせる ために必要かつ相当な内容である。
(2) 本件命令2項(会社が団体交渉において要求事項に対する回答や自らの主張の根拠を具体的に説明することを命じ,かつ,文書で回答のみで協議に応じないこと,十分な協議を行 わずに裁判で争えばよいとして協議に応じないこと,十分な協議を行わずに団体交渉を打ち切ることをいずれも禁じる旨の命令) について
  会社は,本件団交を含む一連の団体交渉において,要求事項に対して文書で回答した内容で十分であるとしたり,裁判で争え ばよいなど発言したり,十分に協議することなく一方的に協議を打ち切ったりして,要求事項に対する回答や自らの主張を具体的 な根拠を示さないまま形式的に述べていたものであるから,本件命令2項は,これらの不誠実な交渉態度を防止するために必要か つ相当な内容であるといえる。
(3) 本件命令3項(本件団交における会社の対応が不当労働行為と認定されたこと等についての掲示の命令)について
  本件命令3項は,同1項及び2項の実効性を確保するために必要かつ相当な内容であるといえる。
(4) 以上のとおりであるから,本件命令1項ないし3項のいずれについても,処分行政庁が裁量を逸脱したものとは認められない。
5 争点(5) (本件救済命令の発出時点において救済の必要性があったか。)について
  会社は,本件団交直後に就業規則の備付場所を伝えて議題となった事項に回答しており,その後も本件要求事項について団体 交渉を行うよう繰り返し促したが,組合がこれを拒否していたものであるから,会社は団交拒否をして おらず,本件救済命令発 出時点においては救済の必要性がないと主張する。
  B2弁護士は,最初に出席した6月17日団交から本件団交に至るまで,A1の解雇は撤回して復職を命じるものの,解雇事 由は存在し解雇は違法ではないとの前提の下,組合がA1の復職後の労働条件その他の待遇について合意を求めて努力しているの に対して,B2弁護士は,形式的対応に終始し誠実に対応したとはいえないものであり,組合が会社の呼び掛けに応じて団体交渉 を申し入れたとしても誠実な交渉は期待できなかったことが認められるのであって,会社のこうした交渉態度が改まるであろうこ とをうかがわせる事情もないから,団体交渉が行われても誠実交渉が行われない高度の蓋然性があったと認められる。
  したがって,組合が,B2弁護士のみが出席する団体交渉では誠実交渉が望めないとして,会社の形式的な団体交渉の促しに 応じなかったことにも合理的な理由があるといえ,本件救済命令の発出時点において,誠実交渉を求める組合を救済する必要性は あったと認められる。
6 会社は,本件救済命令発出後,団体交渉に応じて本件要求事項全てについて回答や説明を行ったのであるから,本件命令1項 を履行しており,本件命令2項及び同3項も同1項を実現するためのものであるから,本件救済命令は救済の必要性を失ってお り,取り消されるべきであると主張する。しかし,救済命令の発出後,事情の変更があり,救済命令の履行が客観的にみて不可能 になった場合や,救済命令の内容が他の方法によって実現されて目的が達せられた場合には,救済命令はその基礎を失って拘束力 を失うと解されるところ,救済命令の拘束力が失われた場合には,使用者は救済命令に従うべき義務はなくなるから,救済命令の 取消しを求める法律上の利益もなくなり,取消しを求める訴えは不適法となるため,救済命令は取り消されないこととなる。した がって,会社の前記主張は失当である。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
福岡労委平成28年(不)第9号 一部救済 平成29年8月9日
 
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