労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  大阪地裁平成27年(行ウ)第376号
樋口商店不当労働行為救済申立棄却命令取消請求事件 
原告  X1労働組合X2支部(「組合」) 
被告  大阪府(同代表者兼処分行政庁・大阪府労働委員会) 
被告補助参加人  株式会社Z(「会社」) 
判決年月日  平成28年9月14日 
判決区分  全部変更 
重要度   
事件概要  1 産業廃棄物の収集運搬及び処分を業とする会社は、平成11年、約30名いた従業員運転手を、4名を除き、本人の同意を得て請負運転手にした。従業員運転手として勤務していたA1も、この時、請負運転手となり、その後、車両の購入を契機として会社と専属下請契約を締結した。A1は、24年2月、申立人組合に加入した。
  本件は、会社が25年度から請負運転手については健康診断を実施しないこととしたことを受け、組合が健康診断及びこれに係る事項について会社に団交を申し入れたのに対し、会社がこれを拒否したことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件(組合員のうち請負運転手はA1のみ)である。
2 大阪府労委は申立てを棄却した。
3 これを不服として、組合が、大阪地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、大阪府労委の救済命令を取り消した。 
判決主文  1 処分行政庁が大阪府労働委員会平成25年(不)第64号事件について平成27年6月26日付けでした棄却命令を取り消す。
2 訴訟費用のうち、補助参加によって生じた費用は被告補助参加人の負担とし、その余は被告の負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
2 検討
(1) 判断枠組みについて
 労組法が、団体交渉を助成することを目的とすること(同法1条)に照らせば、労組法上の労働者に該当するか否かは、かかる団体交渉法制による保護を与えるべき対象者か否かという観点で判断すべきであるから、同判断に当たっては、労務提供者について、①事業組織への組入れ状況、②契約内容の決定が一方的・定型的か、③報酬の労務対価性、④業務の依頼に応ずべき関係か、⑤一定の時間的場所的拘束性の有無等、広い意味での指揮監督下にあるか、⑥顕著な事業者性があるかの各事情を総合的に考慮して決するのが相当である。
(2) 事業組織への組入れ状況の点について
 会社が従業員運転手を請負運転手に移行させた目的は、労働力を確保するためであったと認められる。
 また、会社は、請負運転手が購入し、業務で使用するトラックに会社の社名及び連絡先を表示させるなど、第三者との関係においては、従業員運転手と請負運転手を区別せず、請負運転手を組織の一部として扱っていると認められる。
 さらに、請負運転手は他社の業務を行うことを契約上禁止されており、会社の社名等が記載されたトラックを使用して自由に他社の業務を引き受けることは事実上困難であったとうかがえる上、実際にも例外的に親族等の業務を引き受けていた者が2、3名いたほかは、基本的に会社の業務のみに専念していたと認められる。
(3) 契約内容の一方的・定型的決定の点について
 ①本件契約締結の際は、車両の使用条件、経費の負担、契約解除の条件等についてあらかじめ記載された定型の書式が用いられていること、実際に従事する業務内容や業務の割り振りの条件も、請負運転手全員が一律とされていたこと、②報酬についても、請負運転手全員が同一の作業単価となるよう会社が一方的に決定したものであり、契約締結の際に労働条件を個別に変更する余地はなかったこと、③作業単価の減額に関して、会社は、一部の請負運転手から了解を得たのみで、請負運転手全員に一律に適用することとして一方的に決定したこと、以上の事実が認められる。
 以上の点に鑑みれば、請負運転手の労働条件に関する契約内容は、会社から一方的・定型的に決定されていたと認めるのが相当である。
(4) 報酬の労務対価性の点について
 請負運転手が従事する作業内容は定型化されており、-定の基準を満たせば遠隔地手当が支給されるものの、その基準内であれば、作業現場に赴くために要する費用(ガソリン代や高速道路使用料)や、実際の作業に必要な労力の程度(手積みか機械積みか)にかかわらず、作業単価は、各作業内容に対応して一律に決められているのであって、各請負運転手の裁量や才覚によってその金額に特段の差異が生じることはない。そうすると、請負運転手の報酬は、基本的に従事した業務の回数に依存するものと認められ、実質的には労働時間に比例する性質のものであったと認められる。これらの点に、休日や夜間の作業時間帯に応じた割増報酬が支払われていることや、作業単価に基づいて報酬が決められるという点では、従業員運転手から請負運転手に移行する前から変更がないことにも併せ鑑みれば、請負運転手に対する報酬は、実質的には労務提供の対価としての性質を有すると認めるのが相当である。
(5) 業務の依頼に応ずべき関係の点について
 請負運転手が割り振りを拒否したことをもって契約解除等の不利益を受けることがなく、実際にこれを拒否する場合も相当数あったことを考慮しても、会社は、請負運転手の大半が業務依頼を原則として引き受けることを前提に運用していたというべきで、A1を含む大半の請負運転手に関しては、基本的に業務の依頼に応ずべき関係にあったと認めるのが相当である。
(6) 広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束の点について
 上記認定のとおり、請負運転手は、自宅にトラックを駐車している者を除き、原則として、朝一番の業務に従事するため、まずは会社の駐車場にトラックを取りに行き、指示された車両点検を行った後、指定された時間帯及び場所での作業に従事し、作業終了後は会社の本社に戻ってマニフェスト等を提出することとされていたほか、朝一番の業務に従事しなかった請負運転手がその日の朝一番以外の業務の割り振りを希望する場合にも、会社の会社敷地内で待機することとされていたのであって、大半の請負運転手が1日3ないし5件程度の業務の割り振りを受け、朝から夕方まで業務に従事していたことにも照らせば、タイムカード等による時間管理を受けていなかったことや、業務の受注を強制されていたわけではないことなど、会社の主張する事情を勘案しても、請負運転手は、場所的にも時間的にも一定程度の拘束を受けていたと認めるのが相当である。
 そして、請負運転手は、作業内容だけでなく、運転前の点検事項、運転マナーなどといった業務に従事する際の注意事項や心構え等について会社から指示を受け、これに従って業務を行うべきものとされ、その業務内容は従業員運転手と基本的に異なるところはなかったと認められる上、1日の業務が終了した後、単に報酬の計算に必要な作業内容だけでなく、1日の走行距離や請負運転手が費用を負担すべきガソリンの給油量及び金額についてまでも運転日報に記載して、上記点検結果と併せて会社に報告することを求められていたことにも鑑みれば、請負運転手は会社の指揮監督の下に労務提供を行っているというべきである。
(7) 顕著な事業者性の点について
 ①請負運転手は、受託した業務を他人に孫請けさせることも、他社の産業廃棄物収集運搬業務に従事することも禁止されていること、仮に、請負運転手が、会社の業務で使用しているトラックを使用して、産業廃棄物収集運搬業務以外の業務に従事しようとしても、同トラックには会社の社名等が記載されていることからして、請負運転手が自由に他者から業務を引き受けることは事実上困難であったと考えられること、②実際にも親族等が経営する他社の業務を受託していた者は、2、3名存在していたのみで、基本的には会社の業務のみに専念していたこと、請負運転手の中に法人成りしている者がいるという点に関しては、証拠上、その実態が明らかであるとはいえないこと、③費用負担については、会社から一方的に決定された契約に基づくもので、その実態に照らしても、請負運転手が独自の才覚や営業判断を用いて、他の運転手よりも収益を上げる機会が確保されていたとは認められないこと、以上の点を総合的に勘案すると、会社が主張する事情を考慮したとしても、請負運転手に顕著な事業性があるとはいえない。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成25年(不)第64号 棄却 平成27年6月26日
 
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