労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  広島地裁平成27年(行ウ)第36号
山陽測器不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  株式会社X(「会社」) 
被告  広島県(同代表者兼処分行政庁・広島県労働委員会) 
被告補助参加人  Zユニオン(「組合」) 
判決年月日  平成28年7月6日 
判決区分  請求一部棄却・命令一部取消 
重要度   
事件概要  1 会社で正社員として勤務していたA1は、平成26年3月11日、会社の総務部長B2から、勤務態度不良等を理由に解雇されることになった旨の説明を受け、同月15日、申立人組合に加入した。組合は、同月25日、アポイントなしで会社を訪れ、A1に対する退職強要等を議題とする団交を申し入れた。4月9日、第1回団交が開催され、会社はその場でA1を同月30日付けで解雇する旨発言したが、同月18日の第2回団交において組合からの要求を受け、当該解雇の撤回を決定した。
 本件は、①26年3月25日の業務終了後、B2がA1を呼び出して面談を実施し、組合に対する誹謗・中傷を行ったこと、②会社が決算賞与を同年4月25日の支給日にA1に支給しなかったこと及びその後、支給することに改めたものの、同年5月30日に支給した決算賞与の額が前年度の半額であったことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
2 広島県労委は会社に対し、文書交付及び決算賞与の追加支給を命じ、その余の申立てを棄却した。
3 会社は、これを不服として広島地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、本件命令の主文第2項(決算賞与の追加支給)を取り消し、会社のその余の請求を棄却した。  
判決主文  1 被告委員会が広労委平成26年(不)第3号・第5号事件について平成27年9月11日付けでした原告に対する不当労働行為救済命令のうち主文第2項を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)はこれを4分し、その2を原告の負担とし、その1を被告の負担とし、その余を被告補助参加人の負担とする。 
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
2 争点(1)(本件面談時のB2部長の発言は、支配介入の不当労働行為に当たるか)について
(1) 労組法7条3号は、労働者が労働組合を結成し、又は運営することを支配し、又はこれに介入することを禁止するところ、ここにいう支配介入とは、使用者の組合結成ないし運営に対する干渉行為や諸々の組合を弱体化させる行為など労働組合が使用者との対等な交渉主体であるために必要な自主性、独立性、団結力、組織力を損なうおそれのある使用者の行為を広く含むものと解すべきであり、ある行為が支配介入といえるかどうかは、組合員である労働者を威嚇又は懐柔し、労働組合の組織・運営に干渉・妨害を行い、組合を弱体化させる行為と評価できるかどうかにより判断すべきである。
(2) B2部長は、本件面談において、A1に対し、本件組合側担当者について、たちが悪い印象である旨を述べ、事前にアポを取らなかったなどの本件訪問の仕方や駐車方法などについて批判し、本件組合側担当者の行動はA1の説明と異なると非難し、本件組合との団体交渉において、会社が十分な対応ができず、交渉の結果がA1にとって実益のあるものにならないと見込まれることや、A1にとって不利益又は不快な会社における評価に関する話をすることを示唆し、本件組合のホームページに関し、本件組合が穏当でない言動をする団体であるとの認識を暗に示してこれに対するA1の認識を求め、本件組合による団体交渉の申入れにより会社が困っていると述べた上、本件組合の行動に対するA1の感想を求めている。
  このようなB2部長の発言は、その客観的・外形的な発言内容からすれば、本件組合の訪問方法等に対する批判ないし抗議にとどまらず、A1に対して、本件組合側担当者の印象の悪さを強調し、本件組合がA1の意図に反し利益にならない活動を行い、A1が本件組合の組合員であることにより得られる利益がないことを示唆し、不安や不快感を喚起させることによって、A1に対して、本件組合との関係を継続することを躊躇させ、本件組合からの離反を促す効果があるといえ、本件組合に対する嫌悪の意思に基づきその組織・運営を弱体化させる行為であると評価できる。
3 争点(2)(会社がA1の決算賞与の不支給決定を、A1が本件組合加入後も維持したこと、また、本件決算賞与11万円を支給したことが、不利益取扱いの不当労働行為に当たるか)について
(1) 会社は、A1について、勤務態度等に問題があり、指導等による改善が困難であるなどとして、A1を解雇する方針を決定し、まずは退職勧奨をすることとし、これに伴い、平成26年の決算賞与を支給しないことを決定した。その後、A1は本件組合の組合員となり、会社は、本件組合との団体交渉の途中で解雇決定を撤回したが、決算賞与の不支給決定については維持した。会社は、A1以外の従業員に対しては4月末頃に決算賞与を支給したが、本件組合から指摘を受けたことにより、A1に対しても、他の従業員に遅れて5月30日に本件決算賞与を支給した。本件決算賞与の支給額は、A1が平成21年から平成25年までの間に支給された決算賞与と比べて半額程度であった。
(2)ア 会社は、A1が本件組合の組合員になる前に平成26年の決算賞与の不支給を決定しているため、その不支給決定自体が不当労働行為に当たらないことは明らかである。
イ 広島県労委は、会社の行ったA1に対する平成26年の決算賞与の不支給決定は正当なものではなく、にもかかわらず、会社は、A1が本件組合加入後もこれを維持し、その後、A1の勤務態度等が決算賞与の支給時期前に特段悪化していない状況において、他の従業員に対して決算賞与を支給しているにもかかわらず、本件組合との関係を意識して、A1に対し、他の従業員と比べて著しく低額の本件決算賞与を支給したことや、他の従業員よりおおむね1か月遅れて本件決算賞与を支給したことからすれば、決算賞与の不支給決定の維持及び本件決算賞与の支給は、不当労働行為意思に基づくものであったと認められると主張する。
  しかしながら、夏季賞与及び冬季賞与については、会社の業績の著しい低下等のやむを得ない事由がある場合を除き、会社の業績及び社員の勤務態度・成績・将来性などを考慮して支給すると定められているのに対し、決算賞与については、決算状況に応じて決算賞与を支給する場合があると極めて抽象的に定められているに過ぎず、支給基準があるとは認められない。そうすると、決算賞与の支給を求める権利は、会社が支給決定をして初めて具体的な請求権として発生するものといわざるを得ず、さらに、会社が決算賞与を支給するかどうか及びその支給額について判断するに当たっては、夏季賞与及び冬季賞与に比して、広い裁量が認められるものと解するのが相当である。
  A1については、支給決定がないばかりか不支給決定がなされているため、決算賞与を支給される地位になかったというほかない。また、上記(1)の経過に照らせばA1に不支給決定がなされたのは同人の勤務態度等を理由とするところ、これらの事情は不支給とする際に考慮することが許される事情と解されるため、不支給決定が直ちに違法となり、A1において従前の決算賞与と同額の損害賠償金が填補される地位にあったとも認められない。したがって、広島県労委の主張する決算賞与の不支給決定が正当なものではないとの意味が、A1には決算賞与相当額の金銭を受領できる地位にあることを認める趣旨であれば採用することができない。
4 争点(3)(本件各救済命令は、被告委員会の裁量を逸脱・濫用したものか)について
(1) 労働委員会は、使用者の不当労働行為によって生じた侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の回復、確保を図るために、個々の事案に応じて必要かつ適切と考えられる是正措置を決定し、これを命ずる権限を有するものであって、かかる救済命令の内容の決定については、広い裁量権が認められるから、裁判所は、労働委員会の救済命令の内容の適法性が争われる場合においても、労働委員会の右裁量権を尊重し、その行使が右の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではないというべきである(最高裁昭和57年(行ツ)第50号同62年5月8日第二小法廷判決・裁判集民事151号1頁参照)。
(2) 本件救済命令1について、会社は、B2部長の本件面談時の発言は本件組合が会社の施設管理権を侵害したことを発端とし、その侵害行為に対する意見表明であるから、いわば喧嘩両成敗の状態であって、会社だけに是正措置を命じ、本件組合を一方的に利する本件救済命令1は、著しく不合理であると主張している。
  しかし、本件組合が会社の施設管理権を侵害したとは認められないから、会社の上記主張は、前提を欠いており、これを採用することはできない。
  そして、他に本件救済命令1が被告委員会の裁量を逸脱・濫用したものであることを認めるに足りる証拠はない。
  したがって、本件救済命令1は、被告委員会の裁量を逸脱・濫用したものとは認められない。
(3) 本件救済命令2については、上記3のとおり、その発令の前提となる不当労働行為があったとは認められないから、発令内容についての被告委員会の裁量の逸脱・濫用について検討するまでもなく、取消しを免れない。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
広労委平成26年(不)第3号・第5号 一部救済 平成27年9月11日
 
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