概要情報
事件名 |
立花商事 |
事件番号 |
福岡地裁平成25年(行ウ)84号 |
原告 |
株式会社立花商事(「会社」) |
被告 |
福岡県(処分行政庁・福岡県労働委員会) |
補助参加人 |
連合福岡ユニオン(「組合」) |
判決年月日 |
平成26年9月10日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
会社が、組合からの就業規則の改定部分の写しの交付要求を拒否したことが、不当労働行為に当たるとして、申立があった事件である。福岡県労委は、会社に対し、改訂した就業規則の写しを組合に交付した上で、誠実団交応諾、文書の手交・掲示を命じた。
会社は、これを不服として福岡地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、会社の訴えを棄却した。
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判決主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は、原告の負担とする。
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判決の要旨 |
(1) 組合が改定就業規則の写しの交付を受ける必要性について
ア 組合及びその組合員らは、当初から、本件就業規則改定が就業規則の不利益変更にあたるのではないかとの疑念を抱き、これに反対する意思を明らかにした上で、不利益変更の有無を確認するために、改定就業規則の開示を求めていたのであるから、改正就業規則の不利益変更部分を取り上げて会社と団体交渉することを予定していたものと認められる。そして、本件就業規則改定が就業規則の不利益変更にあたることを指摘するためには、改定就業規則の各条項及びその構成についての慎重な検討が必要であるから、その前提として、組合が会社に対して改定就業規則の写しの交付を求めたことには合理性があったというべきである。
イ 本件就業規則改定によって新設された条文は、約260条にのぼるところ、全従業員向け説明会では、会社代表者が1時間程度の説明をしたのみであり、参加した従業員らは、参考資料として配布された改定就業規則の写しを持ち帰ることすら許されなかった。また、組合員向け説明会では、1時間30分程度の時間内において、新設された規定のうち、主に服務規程に関するものと推認される事項についての質疑応答がされたにすぎない。全従業員向け説明会及び組合員向け説明会によって、組合員らが、本件就業規則改定が不利益変更にあたる旨を具体的に指摘することができる程度に検討するのに十分な情報を得ることができたとは考え難い。また、組合員が、改定就業規則を書き写す作業には、相当な時問及び労力を要し、組合による迅速な検討及びそれを前提とした会社との交渉等の活動にも著しく支障を来すこととなる。不利益変更と思料する条項のみを書き写すことは、組合員個人が、当該条項が不利益変更に当たるか否かの判断を強いられることとなり、組合が組織として就業規則の不利益変更の有無を検討することができなくなるから労働組合を通じて団結して交渉に当たることの意義が薄れてしまう。よって、本件の事実関係に鑑みれば、会社の行った周知活動のみによっては、組合が検討に必要かつ十分な資料を得ることができたということができず、組合が会社から改定就業規則の写しの交付を受けることについての必要性があったというべきである。
ウ 組合は、会社に対し、組合員向け説明会の後も、複数回にわたり、その組合員らが不利益処分を受けたと思料される機会に、改定就業規則の写しの交付を求めており、不利益処分と改定就業規則との関係を疑い、改訂就業規則の内容に関心を持っていたことがうかがわれる。また、組合は、本件就業規則改定の不利益変更についての団体交渉をする前提として、事実確認をするために、会社に対して、改定就業規則の写しの交付を求めていたのであるから、組合が、改定就業規則の写しの交付を受ける前の段階において、本件就業規則改定のうち不利益変更部分について団体交渉の申入れをできなくとも、やむを得ないというべきである。さらに、組合の組合員らに対する懲戒処分に関連する改定就業規則の条項が開示された後に開催された団体交渉は、いずれも、概ね2時間程度のものであり、組合員らの労働条件に直ちに影響を与える重要事項について協議することが主たる目的とされていたから、団体交渉において、改定就業規則の内容の合理性について議論が及ばなかったことについても、やむを得ない事情があったというべきである。
エ 以上のことからすれば、組合には、本件就業規則改定の不利益変更について団体交渉するために改定就業規則の写しの交付を受ける必要性があったものと認められ、これに反する会社の主張は採用できない。
(2) 改定就業規則の写しを交付することによって会社が被る不利益について
本件就業規則改定より前に、組合が会社に対して当時の就業規則の写しの交付を求めたところ、会社は、当時の就業規則の写しの交付に応じていた。そして、就業規則を開示した後、それが組合によって悪用された事実がないことは、会社代表者も認めるところである。その他、会社が組合に対して改定就業規則の写しを交付した場合に、組合がこれを悪用して会社に対する誹謗中傷をするなどして、会社に不当な不利益を与えるおそれが高いとは認めることができない。
(3) 小括
以上のとおり、組合には、本件就業規則改定の不利益変更についての団体交渉を準備するために改定就業規則の写しの交付を受ける必要性があり、他方、会社には、改定就業規則の写しを組合に交付することによって特段の不利益が発生するわけでもなかったのであるから、就業規則の写しを交付する法的義務はない、従業員に対する周知は既に済んでいる、などといった形式的な理由によって、改定就業規則の写しの交付を拒否し続けた会社の対応は、不誠実な交渉態度であったといわざるを得ず、上記の会社の対応は、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。
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その他 |
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