労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  北光金属  
事件番号  福島地裁平成25年(行ウ)第5号 
原告  北光金属株式会社(「会社」) 
被告  福島県(処分行政庁・福島県労働委員会) 
被告訴訟参加人  全日本金属情報機器労働組合福島地域支部(「支部」) 
判決年月日  平成26年7月8日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要    会社が、組合員A1の解雇の撤回、A1が復職するまでの休業補償の支払い、原告のA1に対する安全配慮義務違反の損害賠償の3点を要求事項とする団体交渉に応じなかったことが不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事件である。
 福島県労委は、支部の申立てを認容し、会社に対し、支部が平成24年7月17日付けで申し入れた団体交渉への誠実応諾を命じた(本件命令)。
会社は、これを不服として福島地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、会社の請求を棄却した。  
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 争点(1)(支部に、不当労働行為の救済命令を求める申立てをする申立資格がないことは、本件命令の違法事由となるか。)について
 労働組合法5条1項が労働委員会に課す義務は、直接、国家に対し負う責務にほかならず、申立資格を欠く組合の救済申立てを拒否することが、使用者の法的利益の保障を図るという意味での、使用者に対する義務ではないと解するべきである。そのため、仮に資格審査の方法又は手続に瑕疵があり若しくは審査の結果に誤りがあるとしても、使用者は、単に審査の方法又は手続に瑕疵があること若しくは審査の結果に誤りがあることのみを理由として救済命令の取消しを求めることはできないものと解するべきである。(最高裁昭和32年12月24日第三小法廷判決・民集11巻14号2336頁参照)
 会社は、支部が労働組合法2条の要件を充足しないことを処分行政庁が看過し、本件命令を発令したことが違法であると主張するが、これはまさに処分行政庁による労働組合法2条の要件具備の有無に関する審査の結果に誤りがあることを理由とした本件命令の違法を主張するに他ならず、そのような主張は失当であるといわざるを得ない。
2 争点(2)(団体交渉の応諾義務の存否)ア(支部は、主として政治運動又は社会運動をすることを目的とする団体であって労働組合には当たらないことから、会社は団体交渉の応諾義務を負わないか。)について
(1) 支部は、労働者が主体となって組織された団体であるといえる。また、A1の解雇の撤回を求めて会社と交渉をし、不当労働行為の救済命令の申立てをしていたほか、他の組合員の労働相談に応じ、また他の労働組合の争議団の支援をするなどしていたものであり、このような活動は自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図る活動であるといえる。そして、支部が、労働組合法2条各号が規定する事由に該当することを示す証拠は見当たらない。したがって、支部は、労働組合法上の労働組合に当たると認めることが相当である。
(2) 支部は、政治運動又は社会運動とみられる活動をしていたことがうかがえるものの、このような活動が主たる目的であることを示す証拠は見当たらず、支部の主たる目的が、政治運動又は社会運動をすることにあるとすることはできない。
(3) 解雇の撤回等を求める活動を会社の従業員以外の者がするときは、特段の事情がない限り政治運動又は社会運動に当たるとの会社の主張は、独自の見解といわざるを得ず、採用の限りではない。
3 争点(2)(団体交渉の応諾義務の存否)イ(個別的労働紛争だけが交渉事項である場合には、会社は団体交渉の応諾義務を負わないか。)について
(1) 支部が申し入れた3つの事項は、いずれもA1と会社との間の労働契約に関する事項であるといえ、特に解雇は労働契約を終了させ、労働者たる地位を失わせるものであることから、労働組合がその撤回を求めることは義務的団体交渉事項であるということができ、会社に応諾義務があるものといえる。
(2) 個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律及び労働審判法等の個別的労働紛争に関する解決手続が整備されていても、労使間の直接交渉によって個別的労働紛争を解決することは、労働者にとって簡易、迅速かつ経済的な紛争解決手段としてなお存在意義があることは明らかである。また、会社が指摘する法令を参照しても、個別的労働紛争を、労働組合による団体交渉ではなく、それら法令に基づく制度のみによって解決することを予定していると解される条項は見当たらない。会社の主張は、独自の見解といわざるを得ず、採用することはできない
4 争点(2)(団体交渉の応諾義務の存否)ウ(支部はいわゆる合同労組であることから、会社は団体交渉の応諾義務を負わないか。)について
(1) 支部は労働組合法上の労働組合に該当する団体であり、かつ、支部が会社に対して申し入れた交渉事項は、義務的交渉事項に当たる。したがって、会社は、これに応ずる義務を負うということができる。
(2) 会社は、労働組合法上、個別的労働紛争のみを交渉事項として取り上げて団体交渉名下に使用者と交渉をする団体は想定されていないところ、支部は個別的労働紛争のみを交渉事項として扱ういわゆる合同労組であるから、支部には団体交渉の当事者たる資格がなく、会社には、かかる支部からの団体交渉申入れに応じるべき義務はないと主張する。会社の主張は、個別的労働紛争は労働組合による団体交渉の対象ではないことを前提として、そのような個別的労働紛争のみを扱う団体は労働組合法上の労働組合とは認められないとの主張と解されるが、そもそもそのような前提が誤っていることは上記3において説示したとおりである。会社の上記主張は独自の見解といわざるを得ず、採用することはできない。
5 以上検討したところを総合すると、支部は、労働組合法上の労働組合に該当する団体であり、支部が会社に対して団体交渉を申し入れた、会社がA1に対して解雇通知を発した件については、それが個別的労働紛争であるとしても、義務的団体交渉事項であるということができる。支部からの団体交渉申入れを拒否した会社に対し、そのような拒否が不当労働行為に当たるとして団体交渉に誠実に応じることを命じた本件命令は適法なものであるというべきである。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
福労委平成24年(不)第2号 棄却 平成25年7月29日
 
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