労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  テーエス運輸  
事件番号  大阪高裁25年(行コ)第93号  
控訴人  兵庫県(処分行政庁・兵庫県労働委員会)  
控訴人補助参加人  テーエス運輸株式会社  
被控訴人  全日本建設交運一般労働組合テーエス支部  
判決年月日  平成26年1月16日 
判決区分  原判決一部取消  
重要度   
事件概要  1 支部は、会社が、①平成14年3月27日付けで会社と支部との間で締結した基本協定(以下、基本協定)を更新せず失効させたことが、労組法7条3号に、②支部組合員に20年度の夏季一時金を支給しなかったこと、③20年度の基本給について、支部組合員に対し定期昇給及び、④ベースアップを行っていないことが、同条1号及び3号に該当し、⑤支部との団体交渉において親会社の連結決算書類を開示しなかった行為が同条2号に該当するとして、救済を申し立てた。
2 兵庫県労委は、申立てを棄却した(以下、本件命令)。
3 支部は、これを不服として神戸地裁に取消訴訟を提起したところ、同地裁は、本件命令のうち上記⑤を棄却した部分の取消しを求める限度で請求を認容し、その余の請求を棄却した。兵庫県労委は、これを不服として大阪高裁に控訴を提起した。
4 本件は、兵庫県労委が提起した控訴審判決である。 
判決主文  1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審ともに補助参加によって生じた費用も含めて被告控訴人の負担とする。 
判決の要旨  1 争点1(訴えの利益の有無)について
 親会社が会社法444条3項に基づく連結計算書類を作成すべき義務を負っておらず、これを開示することが不可能であったとしても、労働委員会は、申立人の主張する「不当労働行為を構成する具体的事実」(労働委員会規則32条2項3号)を認定して不当労働行為の成否を判断し、救済を命ずるのが相当であると判断した場合には、労働委員会に与えられた裁量の範囲内で、申立人である支部の「請求する救済の内容」(同項4号)に必ずしも拘束されることなく、適切妥当な救済を命ずることができると解されるから、本件命令のうち本件救済申立て5〔会社は、支部との団体交渉に際し、親会社と会社との連結の貸借対照表及び損益計算書を開示しなければならない。〕を棄却した部分の取消しを求める支部の訴えについて、支部の救済利益がなく、訴えの利益がないということはできない。
2 争点2(誠実交渉義務違反の有無)について
ア 会社は、親会社の100%子会社であるところ、親会社は、平成15年4月21日付けで株式上場廃止に要する手続を完了し、平成17年2月17日付けで関東財務局から有価証券報告書の提出を要しない旨の承認通知を受け、平成17年度以降、金商法24条1項による有価証券報告書の添付書類である連結財務諸表及び会社法444条3項に基づく連結計算書類の作成義務を負っておらず、同条1項に基づいて連結計算書類を作成しているとも認められないから、子会社である会社は、そもそも同年度以降の連結財務諸表及び連結計算書類を所持していなかったものと認めることができる。
イ 平成19年から平成20年にかけての支部と会社間の労使交渉の過程で、支部が会社の経営状況の詳細な情報を得たいとの考えから、顧問税理士の助言もあって親会社の連結貸借対照表等の提出を求めたこと自体は理解できないではないものの、親会社の連結財務諸表ないし連結計算書類によって子会社である会社の経営状況の詳細な情報が得られるものではなく、そもそも親会社は連結財務諸表ないし連結計算書類を作成すべき法律上の義務を負っておらず、現にこれらの書類を作成していない上、会社としても親会社の連結貸借対照表等を所持しておらず、会社法上、会社は親会社に対して連結計算書類の開示等を求めることのできる地位になく、支部の求めに応じて会社自身の直近の貸借対照表及び損益計算書等は開示しているのであるから、会社が支部の口頭による連結貸借対照表等の提出要求に対し、開示の必要はないとの判断の下、これに応じなかったからといって、直ちに団体交渉において使用者に求められる誠実交渉義務に違反したものと認めることはできないというべきである。このことは、会社において、本件基本協定の更新拒否、平成20年度夏季一時金の不支給、同年度基本給のベースアップ及び定期昇給の不実施に関し、支部が主張するような不利益取扱い及び支配介入の不当労働行為を行う意思が認められるとしても左右されるものではない。
ウ 支部は、①支部が上記各交渉時における会社の回答の正当性を判断し、対案を提出するためには、親会社の経理状況及び親会社と会社の経営上の関係を検討することが不可欠である、②親子会社間の資金移動を通じて、財産、損益の調整が行われているかもしれず、子会社である会社の単独決算書類だけでは正確な経営状況の判断ができないため、親会社の連結決算書類の開示を受ける必要性があると主張するが、親会社の連結財務諸表ないし連結計算書類によって会社の経営状況の詳細な情報が得られるものではないから、上記主張は採用することができない。
エ 本件救済申立事件及び本件訴訟の審理経過に照らすと、親会社が平成17年度以降、会社法444条3項に基づく連結計算書類の作成義務を負わなくなったとの事実関係が明らかになったのは、当審第1回口頭弁論期日において、会社の提出に係る親会社経営部長Z2作成に係る2013年8月22日付け報告書(丙39)を書証として取り調べてからであり、少なくとも本件救済申立事件及び本件訴訟の原審段階では、親会社が連結財務諸表ないし連結計算書類を作成していることを前提とした主張立証活動がされていたことがうかがえる。支部の口頭による親会社の連結貸借対照表等の開示要求に対し、支部が親会社に問い合わせるなどして事実関係を調査していれば、親会社が平成17年度以降の連結財務諸表を作成していないとの事実関係及びその法令上の根拠が明らかになり、会社の対応も、「開示する必要がない。」との回答ではなく、明らかになった事実関係に即した回答になっていたとも考えられ、事後的にみれば、会社の連結貸借対照表等の開示要求に対する会社の対応に全く問題がなかったとはいえない。
 しかしながら、支部による口頭での親会社の連結貸借対照表等の開示要求に対し、会社が、その財務内容が支部に分かる書類を既に提出しており、親会社の連結決算書類を提出する必要はないと認識していたことは、相応の合理的理由があるというべきであるから、会社が支部の開示要求に応じなかったことが、直ちに団体交渉において使用者に求められる誠実交渉義務に違反したものと認めることはできない。
3 まとめ
以上によれば、支部による親会社の連結貸借対照表等の開示請求に対し、会社がこれを「正当な理由がなく拒」んだ(労組法7条2号)とはいえないから、会社には同号所定の不当労働行為が成立すると認めることはできない。労組法7条2号所定の不当労働行為が会社には成立しないものと判断し、支部の本件救済申立て5を棄却した本件命令は、結論において相当であり、違法な点はない。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
兵庫県労委平成20年(不)第4号 棄却 平成22年1月7日
神戸地裁平成22年(行ウ)第40号 一部取り消し 平成25年4月16日
 
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