労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  テーエス運輸 
事件番号  神戸地裁平成22年(行ウ)第40号 
原告  全日本建設交運一般労働組合テーエス支部 
被告  兵庫県(処分行政庁・兵庫県労働委員会) 
被告補助参加人  テーエス運輸株式会社 
判決年月日  平成25年4月16日 
判決区分  一部取消 
重要度   
事件概要  1 支部は、会社が、①平成14年3月27日付けで会社と支部との間で締結した基本協定(以下、基本協定)を更新せず失効させたことが、労組法7条3号に、②支部組合員に20年度の夏季一時金を支給しなかったこと、③20年度の基本給について、支部組合員に対し定期昇給及び、④ベースアップを行っていないことが、同条1号及び3号に該当し、⑤支部との団体交渉において会社の提案の合理性を検討するために必要な親会社の連結決算書類を開示しなかった行為が同条2号に該当するとして、救済を申し立てた。
2 兵庫県労委は、申立てを棄却した(以下、本件命令)。
3 本件は、支部が提起した取消訴訟一審判決である。 
判決主文  1 兵庫県労働委員会が、兵庫県労委平成20年(不)第4号不当労働行為救済申立事件について、平成22年1月7日付けでした命令のうち、別紙救済申立て5項について棄却した部分を取り消す。
2 その余の原告の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告に生じた費用の5分の1を被告及び補助参加人の,被告に生じた費用の5分の1を被告の、補助参加人に生じた費用の5分の1を補助参加人の各負担とし、その余の費用を全て原告の負担とする。
※別紙救済申立て5項
 「会社は、組合との団体交渉に際し、日本エア・リキード株式会社と会社との連結の貸借対照表及び損益計算書を開示しなければならない。」 
判決の要旨  1 基本協定失効の不当労働行為該当性
(1) 基本協定(定期昇給制度、同意条項、組合活動休暇等を規定)は、昭和48年に生じた不当労働行為救済申立事件に関し締結された和解協定を基本とし、それまでの労使間で形成された合意等を成文化したものであるから、労使双方にとって、最も重要な労働協約の一つであるといえる。このような基本協定の性質及び同協定を改定するときは、会社は支部と誠意をもって協議し、合意の上で行うことが明記されていることに照らすと、会社が基本協定の改定を求めるに当たっては、支部と十分協議し、双方が納得できる見直しを実現するべく、合意形成に努めることが強く求められているというべきである。
(2) 平成20年2月15日の本件不更新通知に至るまでの協議の状況が明らかではなく、同年3月31日を満了日とする状況において、同年2月15日に初めて明確な不更新通知がされ、同年3月7日に具体的な条項の改定案が提案されたことは、支部側に検討期間を十分に取る余裕がなかったのではないかとも考えられる。しかしながら、会社は19年3月22日の当初協議依頼書を初めとして、複数回基本協定の条項の改定を求めており、他方で、基本協定改定案を提示された後の支部の対応は、同意条項のうち、改定の対象とはなっていない部分である「円満解決をはかること」の解釈や、基本協定改定案が示されているにもかかわらず、具体的提案について書面にすること、会社を永続的に発展させられる根拠等について回答を求めるというものであり、支部は、会社が基本協定の改定を求めていること自体に反発し、会社の改定案の内容について具体的な協議に入ることを拒んでいたものと認められる。そうすると、会社側に明確な不更新通知や具体的な改定案提案の時期が本件協定の期間満了日に近接していたとはいえるものの、会社は協定期間満了の約1年前から協定改定の意向を示しており、複数回にわたり改定の申入れをした上で協議を重ねてきたのであり、基本協定が失効したのはそのような協議によっても改定案の合意に至ることができなかった結果であると認められ、協定期間満了日までに改定について合意に至らなかったことについては支部側にもその原因の一端があるというべきであるから、基本協定の改定に当たっては支部と合意形成に努めることが会社に強く要請されることを踏まえても、会社が支部の弱体化を図るため、基本協定の失効を企図し、改定のための協議を不当に引き延ばして基本協定を失効させたと認めることはできない。
(3) 基本協定失効により、定期昇給制度、同意条項や組合活動休暇等が協定としての効力を失うことになるから、 支部の被る不利益が大きいことは明らかであるところ、一般に、使用者が誠実な手続を踏まずにこれを破棄したような場合には、その態様によっては不当労働行為とされる可能性も否定できないが、本件における基本協定の失効に至る経緯については、上記のとおりであって、会社が相当な期間をもって廃止検討を申し入れていることが認められるから、上記不利益の大きさから直ちに会社の不当労働行為意思を推認することはできない。
(4) 以上のとおり、基本協定の失効について会社の不当労働行為意思は認められず、不当労働行為は成立しない。
2 ワンマン運行協定改定を一時金増額の条件とし夏季一時金を全額不支給としたことの不当労働行為該当性
(1) ワンマン運行協定改定を一時金増額の条件としたこと
 ワンマン運行協定改定により、現行のワンマン運行協定では二人乗車することとなる車両を一人乗車できるようになることから、その分の人件費を将来削減することができ、また、車両の買い換えを抑制することも見込まれるから、その将来の削減分を夏季一時金の増額分の原資とすることができるといえ、ワンマン運行協定改定を条件とすることが不合理な前提条件ということはできない。そして、支部は、夏季一時金との関係で上記のような方針をとっていたとしても、ワンマン運行協定の改定自体について絶対に反対するという立場を取っているわけではないし、ワンマン運行協定改定は、増加分9万5000円の条件となっていることにすぎず、60万円については無条件での支給となっていること、支部と会社は、かねてよりワンマン運行を可能とする車両の条件を緩和してきており、夏季一時金増額の条件としてワンマン運行協定改定を提案する前にも、ワンマン運行協定改定自体を提案していること、会社はワンマン運行協定改定と一時金の増額の関連性について、削減されるコストが原資となる旨の最低限の説明はしていることに照らすと、会社が、支部が同意できない条件であることを認識しながらこれに固執したということはできない。
 支部が増加分の支給をされなかったのは、自己の方針に従い会社の条件に同意しなかった結果にすぎないから、これにより当該条件に同意した他の組合との間で一時金支給額に差異が生じたとしても、これをもって不当労働行為に当たるとはいえない。
(2) 夏季一時金60万円の不支給
(ア) 労使間の一時金交渉等において、組合が当初拒絶していた会社側の提案に対し、ある程度交渉が進んだ結果、当初の提案に同意することとして交渉妥結に至ることはあり得ること、この一時金交渉において支部が会社の60万円の提案をいったん拒絶した時点で会社がこの提案を明確に撤回したような事情も認められないことに照らすと、支部は会社の提案をいったん拒絶したことによりこれに対する承諾適格を失ったとする会社の主張は採用できず、支部の60万円での妥結表明により、会社との間で、夏季一時金を60万円とする合意が成立したと解するのが相当である。
(イ) そうすると、会社の夏季一時金60万円の不支給については、支部の弱体化等を図るものとして、不利益取扱い及び支配介入の不当労働行為が成立するが、9万5000円の不支給については、不当労働行為に当たらないから、9万5000円の追加支給を求める支部の請求は理由がない。
3 ベースアップ及び定期昇給を実施しなかったことの不当労働行為該当性
(1) 定期昇給の不実施
 14年以降4000円以上の昇給が維持されてきたこと、会社の作成に係る書面においても、毎年自動的に昇給されることを意味すると解する余地のある記載がされているが、会社にとって、将来の経済動向や業績の変動を全く考慮せず、毎年必ず4000円ずつ昇給していく旨の合意をすることは、社会経験則上にわかに考えにくいものであって、基本協定が失効してからも新たな協定が結ばれない限り4000円の昇給を毎年実施していくことが会社の合理的意思であると解釈することは困難である。また、支部が主張する4000円の定期昇給の「労使慣行」が基本協定締結前から成立し、個別労働契約の内容になっていたとは認められない。基本協定が失効し、4000円の定期昇給の条項がなくなった以上、新たに協定が締結されない限り、会社が4000円の定期昇給を実施しなければならない理由はないから、その不実施は不当労働行為に当たらない。
(2) ベースアップの不実施
 支部及び会社は、基本給妥結案でいったん合意したが、その妥結内容について、定期昇給とベースアップを含むものであるか等疑義が生じ、会社は、支部が合理的かつ具体的な釈明があるまで協定書への記名、押印は保留する旨申し入れ、協定書の調印に至らなかったため、20年度の昇給を実施しなかった。このようにいったん妥結したかに見えた妥結内容について、労使双方の認識に大きな差があり、合意の意義について疑義が生じたような場合には、そもそも真に合意が成立していたのかについても疑義があり得る上、支部側が協定書への調印を拒否している以上、会社が基本給妥結案のベースアップを実施しなかったことはやむを得ないというべきであり、そのような認識の齟齬がなく調印を行った交通労連との間で昇給に差異が生じたとしても、各組合の意思決定に基づく交渉の結果とみるのが相当であって、会社に支部の弱体化を図る等の不当労働行為意思があったと推認することはできない。したがって、会社がベースアップを実施しなかったことは不当労働行為に当たらない。
(3) 支部に加入・脱退した組合員の取扱い
 特定の組合に所属していた組合員が当該組合から脱退した場合、当該組合の労働協約の効力が引き続き当該組合員の労働契約に及ぶことはないというべきであり、本件のように、当該組合員が元の組合を脱退した後異なる組合に加入した場合には、当該組合員は新たな組合の労働協約に服する意思であり、脱退前の組合の労働協約の効力に服する意思を推認することはできない。
 Z1、 Z2及びZ3の3名は、支部加入後に基本給等が減額されていることが認められるが、Z1のみならず他の2名も交通労連から支部に移ったことがうかがわれることからすると、Z1らと会社との合理的意思解釈としては、脱退した交通労連の労働協約の効力は及ばず、新たに加入した支部の労働協約の効力が及ぶものと解するのが相当であるから、会社の取った措置はこれに反するものとはいえない。したがって、Z1らについて既に実施したベースアップを取り消した措置から、会社の不当労働行為意思を推認することはできない。
(4) 上記のとおり、ベースアップ及び定期昇給の不実施については、不当労働行為に当たらない。
4 連結決算書類不開示の不当労働行為該当性
 20年度春闘統一要求に対して、会社は、定期昇給制度を設けず、賃上げも行わないと回答した上、夏季一時金についても、支部の要求額である95万円を大幅に下回る56万円を当初提案し、ワンマン運行協定改定を条件としない純粋な上積みは60万円にとどまったこと(19年夏季一時金の75万4000円と比較しても大きな開きがあった)、会社、とりわけY1社長は、会社の財務内容の改善を期待されて代表取締役に就任した経緯があり、組合の要求に十分に答えられない理由として会社の経営状況が良くないことを繰り返し説明していたことに照らせば、労働者にとって、賃金は最も重要な労働条件の一つであるから、支部が会社の経営状況について詳細な情報を得たいと考えるのは当然のことであるし、親会社が100%出資している会社に対し、相談した税理士の薦めに従って連結決算書類の開示を求めることにも相応の理由があると認められる。そして、会社としては、このような支部の求めに対し、結論において支部の要求に対し譲歩することができないとしても、支部の理解が得られるよう自己の主張の根拠を具体的に説明し、これを裏付ける資料を示すなどして、誠実に協議する努力義務があるというべきであるから、口頭とはいえ支部から開示を求める理由を明らかにした上で連結貸借対照表の開示を求められた以上は、これを示して説明を行うべきであるところ、会社は、既に十分な資料を提出しているから開示する必要はないとして開示しなかったのであるから、支部に対して意を尽くした説明をしたと認めることは困難である。したがって、会社が連結決算書類の適時かつ十分な開示をしなかったことについては、誠実交渉義務に違反するものとして不当労働行為が成立する。
 したがって、連結決算書類の不開示について不当労働行為が成立しないとした本件命令は判断を誤ったものである。
5 謝罪文の掲示棄却部分の当否について
 以上に認定判断したとおり、①支部組合員に対して20年度夏季一時金60万円を支給しなかったこと、②同年度夏季一時金に関する労使交渉において、支部の要求に対して連結決算書類を開示しなかったことは支部に対する不当労働行為に該当するというべきである(なお、支部は20年度夏季一時金60万円については既に支給を受けているが、これについても不当労働行為に当たると主張していることが明らかである)。しかしながら、過去の不当労働行為を戒め、同種の不当労働行為の再発を防止するため、使用者に謝罪文の掲示を命ずるかどうかは、労働委員会の広汎な裁量にゆだねられているというべきであるから、本判決によって本件命令の一部が取り消され、処分行政庁が改めて救済内容について判断を行う際にも、謝罪文の掲示を命ずるかどうかを改めて判断すべきことになる。
 本件では、これを命じなければ救済の実効性がおよそ確保されないという特段の事情もうかがえないから、当裁判所が、本判決の際、処分行政庁の裁量を否定し、謝罪文の掲示を義務付ける趣旨で、謝罪文の掲示棄却部分が違法であるとしてこれを取り消すことは相当でない。 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
兵庫県労委平成20年(不)第4号 棄却 平成22年1月7日
大阪高裁25年(行コ)第93号 原判決一部取消 平成26年1月16日
 
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