労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  田中酸素 
事件番号  山口地裁平成24年(行ウ)第5号 
原告  田中酸素労働組合 
被告  山口県(処分行政庁・山口県労働委員会) 
被告補助参加人  田中酸素株式会社 
判決年月日  平成25年6月5日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 組合は、会社が、①団体交渉の合意事項(エアコン完備の休憩所を小野田営業所に設けること)を履行せず、②平成21年10月22日付け労働協約(以下、本件労働協約)に反し、団体交渉申入れ並びに会社の売上等の資料提示を行うことなく、平成21年の冬期賞与、平成22年1月の昇給及び同年の夏期賞与を支給し、③団体交渉における合意事項に反し、賞与総額等に関する必要な資料を提示することなく、平成21年の冬期賞与を支給し、④本件労働協約に反し、団体交渉において代表取締役社長を出席させないなど、誠実に対応せず、⑤団体交渉の申入れを正当な理由なく拒否したことが、不当労働行為に当たるとして救済を申し立てた。
2 山口県労委は、①平成21年冬期賞与の時期及び平成22年1月の昇給の時期における会社の対応は、本件労働協約を履行したといえず、②平成21年冬期賞与の支給について、団体交渉における合意事項を履行していないとして、不当労働行為に該当するとした上で、会社に対し、組合との間の今後の賞与又は昇給に関する団体交渉において、本件労働協約を遵守し、必要な資料を提示して、会社の主張の根拠を具体的かつ合理的に説明し、誠実に対応しなければいけないことを命じる一方、その余の申立てを棄却する旨の一部救済命令(本件命令)をした。組合は、これを不服として、本件命令のうち、組合の申立てを棄却した部分の取消しを求めて、山口地裁に行政訴訟を提起した。
3 本件は、組合が提起した取消訴訟一審判決である。 
判決主文  1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。 
判決の要旨  1 小野田営業所に休憩所を設置する旨の申立てを棄却したこと
(1) 組合と会社は、平成21年11月21日の団体交渉において、小野田営業所に作業員用の適切な休憩所設置を考えること及び同月25日からユニットハウスを仮の休憩所として作業員に使用させることを合意し、会社は、同月末、小野田営業所内の工場南側にエアコン付きのユニットハウスを設置した。
(2) 組合と会社の間では、平成21年11月21日の団体交渉の時点では、適切な休憩所を設置することについては合意されたものの、その具体的な内容については確定しておらず、組合がその後の団体交渉において、休憩所の広さ、エアコン、トイレ及び手洗い場の設置につき、要求を具体化させていったことが認められる。
(3) 会社は、ユニットハウスの設置など、組合の要求に対し、一定の履行努力や配慮をしていたことが認められ、また、組合のエアコン設置の要求についても、会社は、設置できない理由を団体交渉で説明した上で、「検討する」との回答をして、原告の了解を得ている。設置できない理由は、電源を引くのに費用がかかりすぎるというものであって、不合理なものとはいえない上、次善の策として一定の配慮がなされているなど、会社の対応は、不誠実な団体交渉に該当するとまでいえない。
2 団体交渉に社長の出席を求める旨の申し立てを棄却したこと
(1) 会社側の団体交渉出席者Y3及びY4の2名のうち、組合はY4は交渉相手として認めていないものの、Y3との間で交渉を行い、同人との間で団体交渉議事録を作成し、Y3及び組合の委員長X1が署名押印していること、組合は同議事録に基づいて合意事項の履行を求めていることによれば、Y3に決定権があったものと認められる。Y3は、団体交渉の場で即答しないこともあったことが認められるが、そもそも団体交渉において即時に結論を出すことを求められておらず、そのことをもって実質的な権限がなかったとすることはできない。賞与の決定の人事考課には、Y3及びY4も関与しており、この点からも、Y3が実質的に権限を有していなかったとはいえない。
(2) 以上によれば、組合との団体交渉においては、実質的な権限を有する者の出席があると認められるから、社長が出席しないことが不誠実な団体交渉であるとはいえない。
3 謝罪文を交付する旨の申立てを棄却したこと
(1) 会社の対応の不当労働行為該当性
ア 平成21年冬期賞与に係る対応については、資料の提示がなかったことが本件労働協約及び団体交渉における合意事項に反し、不当労働行為に該当する。
イ 平成22年1月昇給に係る対応については、事前に組合との団体交渉を実施しなかったことが本件労働協約に反しており、不当労働行為に該当する。
ウ 平成22年夏期賞与に係る対応については、会社は、団体交渉を実施することなく支給したことが認められる。同対応は、形式的には本件労働協約に反するものであるが、会社がこのような対応に出た理由は、組合が、脅迫とも受け取れる不穏当な発言をしたためであり、係る発言は労使関係、団体交渉における正常な発言といい難い。会社による対応が不誠実な団体交渉に当たるとまでいえない。
エ 休憩所設置に係る対応及び団体交渉の担当者に係る対応については、いずれも不当労働行為に該当しない。
オ 会社による団体交渉拒否の有無については、会社は、平成22年1月26日に団体交渉を申し入れて以降、延期を申し入れたのみで、同年3月22日になっても開催しなかったものであり、正当な理由もなく放置したと評価できなくもない。とはいえ、組合からの再度の申入れに応じており、その後、延期を申し入れているが、年度の初めの多忙という不合理とはいえない理由によるものである。また、4月10日に予定していた団体交渉が実施されなかったのは、会社と組合の認識の齟齬によるもので、会社が拒否したためではないと解するのが相当である。係る会社の一連の対応からすると、会社による団体交渉拒否がなされたとは認められない。
(2) 山口県労委の判断の妥当性
ア 会社の対応のうち、不当労働行為に該当するのは、①平成21年冬期賞与に係る対応、及び、②平成22年1月昇給に係る対応であり、原告が主張するそれ以外の対応については、該当するとは認められない。
イ 山口県労委が、本件申立てのうち謝罪文の交付に係る部分を棄却したのは、①組合は、平成16年の結成以来、ほぼ恒常的に会社と対立しており、緊張関係状態にあること、②こうした労使の激しい対立関係が生じたのは、会社側が不当労働行為を行ったことが原因の一つであるが、組合の会社に対する不穏当な言動等、組合の非礼な交渉態度にも一因があることから、将来の正常な労使関係の形成を図ることが行政処分としての労働委員会命令の大きな目的の一つであることをも考慮し、会社に資料等を提示して誠実に団体交渉する旨履行させることで足り、謝罪文の交付までは不要と判断したためであって、前提とした事実に誤認はなく、かつ、係る判断は労働委員会の裁量に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたるとまでは認められない。
(3) したがって、山口県労委が、本件申立てのうち、労働協約及び団体交渉での合意を履行しないことについて謝罪文を交付する旨の申立てを棄却したことは、違法とはいえない。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
山労委平成22年(不)第1号 一部棄却 平成23年12月8日
 
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