労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  川崎重工業 
事件番号  神戸地裁平成23年(行ウ)第93号 
原告  労働組合武庫川ユニオン 
被告  兵庫県(処分行政庁・兵庫県労働委員会) 
被告補助参加人  川崎重工業株式会社 
判決年月日  平成25年5月14日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 組合の分会のA1ら組合員13人は、申立外会社B社又は同C社に雇用されて、会社と申立外会社らとの請負契約や労働者派遣契約に基づき、会社の工場で就労していたところ、平成21年11月から12月にかけて解雇又は雇止めとされた。組合は、会社が分会組合員の雇用に関する要求事項を議題とする組合の団交申入れを当該組合員の使用者に当たらないことを理由に拒否したことが労組法7条2号に該当するとして、救済を申し立てた。
2 兵庫県労委は、申立てを棄却した(本件命令)。
  本件は、組合が提起した取消訴訟一審判決である。  
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用及び補助参加に係る費用は、原告の負担とする。 
判決の要旨  1 本件団交に係る会社の使用者性の有無
 (1) ア 不当労働行為禁止規定(労組法7条)における「使用者」は、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、同事業主は同条の「使用者」に当たるものと解される(最高裁判決)。
 本件において、会社が、A1らとの関係で労働契約上の雇用主に当たるものではない。そして、本件団交拒否において問題とされている団交事項は、「①B社と貴社(会社)との契約関係について過去にさかのぼり明らかにされたい。②B社との関係には、職業安定法、労働者派遣法違反の可能性があります。貴社により組合員を直接雇用し雇用と生活の安定を図られたい。」というものであり、本件申立てに係る救済内容も同旨であり、本件団交の主眼は、②の直接雇用にある。そうすると、会社が本件団交に応じる義務がある使用者に当たるというためには、会社が、分会組合員の雇用確保について、雇用主であるB社と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったといえる必要がある。
 イ また、ここでいう「使用者」は、労働契約関係ないしはそれに隣接ないし近似する関係を基盤として成立する団体労使関係上の一方当事者を意味し、雇用主以外の者であっても、当該労働者との間に、近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存する者もまた、これに該当する。
 (2) 会社がA1らとの関係で「労働者の基本的な労働条件等について、現実的かつ具体的な支配力を有しているといえる者」に該当するか
 ア 組合の、会社が分会組合員であるA1及びA2の基本的な労働条件等について現実的かつ具体的な支配力を有することを基礎づける具体的事実に関する主張は、要するに、派遣先企業は派遣労働者を直用化してその就労を確保することが現実的に可能であることから、派遣労働者の基本的な労働条件等について支配力を有するというものであると解される。
 イ しかしながら、会社が、派遣労働者であったAらと直接雇用契約を締結するかは、基本的に会社の有する採用の自由が及ぶ範囲内の事柄であり、会社が自ら直用化するか否かを決定することができるからといって、そのことから直ちに会社が使用者に当たると解することはできない。組合は、「基本的な労働条件等」に当該労働者を雇い入れるか否かという採用に関する事項も含まれると主張するようであるが、上記最高裁判決のいう「労働者の基本的な労働条件等」に採用に関する事項(雇い入れるか否か)が含まれないことは同事件における事案の内容及び判旨から明らかであるし、企業は法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由に雇用を決定できると解されること、個別労働紛争解決促進法5条1項は、「個別労働紛争」から「労働者の募集及び採用に関する事項についての紛争を除く」としていることなどに照らしても、「基本的な労働条件等」に採用に関する事項は含まれないと解すべきである。
 また、労働者派遣法の違法状態を解消し、派遣労働者の雇用の安定を図る方策は直接雇用に限られるわけではないことに加え、同法40条の4は、派遣可能期間に抵触する等一定の要件を充たした場合に派遣先企業に派遣労働者に対する労働契約の申込みを義務付けているものの、当該申込義務は、派遣先企業が派遣労働者に対して負う私法上の義務ではなく、国に対して負う公法上の義務であって、当然に派遣先企業が使用者に当たるということもできない。
 組合は、B社は業務の大半を会社との取引に依存していた旨主張するが、仮にB社の業務の大半が会社に依存していたと認められるとしても、本件では派遣労働者の解雇等の撤回ないし直接雇用に関する現実的かつ具体的な支配力の有無が問題となるところ、本件では、B社が労働者を解雇する場面において、会社は派遣解除通知をするに当たり減員人数を伝えるのみであり、派遣契約を解除される労働者を決定するのはB社であったことからすると、会社は誰を解雇するかについてB社に対して影響力を及ぼしておらず、人選をB社の意向にゆだねていたものというべきであり、採用の場面で会社がB社に何らかの影響力を及ぼしていることはうかがえないのであって、単に業務の大半を依存しているという事実のみから会社を使用者と認めることはできない。
 (3) 会社がA1らとの関係において「近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存する者」に該当するか
 ア 組合は、派遣先企業が派遣労働者に対し直接雇用申込義務を負う場合、両者の間に近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存する、と主張するものと解される。
 イ 本件では、労働者派遣法40条の4が定める要件のうち、同法35条2項の規定による派遣元事業主からの通知の要件を欠くことが明らかであるが、仮に、同通知の要件を欠く場合でも派遣先は直接雇用申込義務を負うと解した場合、本件では、A1らについて派遣可能期間に抵触していることが認められるから、会社は労働者派遣法上の直接雇用申込義務を負うと認める余地があることとなる。しかし、労働者派遣法の定める派遣先の直接雇用申込義務は私法上の義務ではなく、これを怠ったとしても労働者派遣法上の指導、助言、勧告、公表などの措置が採られるにとどまり、派遣先が申込みをしたのと同じ効果を生じさせるものではなく、罰則として派遣先と派遣労働者との間で雇用関係が創設されるわけでもないことからすると、そもそも、会社が直接雇用申込義務を負うことから直ちに派遣労働者との間で近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存するものということはできない。
 ウ 会社は、①20年から会社全体の操業度が落ち込み、休業日の設定や、当初比較的余裕のあった兵庫工場への従業員の受入れ等の対策を採っていたこと、②兵庫工場においても、21年11月から22年1月にかけて海外向けの台車生産が完了すると新しい仕事がない状態であり、派遣労働者の兵庫工場以外での就労確保もままならず、台車課全体で3回にわたり派遣契約を中途解除したこと、③21年12月11日に兵庫労働局より実質労働者派遣と認められる期間を通算すると派遣可能期間の制限に抵触する旨是正指導を受けるまでは、18年8月1日の兵庫労働局の是正指導に従い、19年3月16日から従来の請負契約を派遣契約へと切替えたため、派遣可能期間の抵触日を22年3月16日と認識しており、抵触日前の同年2月末には労働者派遣契約は終了するつもりであったこと、④21年の年末の作業に余裕を持たせるため、同年11月に、B社に対して期間1か月人数1人とする労働者派遣契約を打診し、B社は従業員に打診したが契約締結に至らなかったことが認められ、これらの事実に鑑みると、本件団交の申入れが行われた21年11月19日時点において、Aらが従前従事していた台車生産に関する業務は将来に向けて減少していく傾向が明らかであり、会社は諸種の対策を採って自ら雇用する従業員の就労確保に努めたが、派遣労働者の就労確保をする余裕まではなく、兵庫労働局の2度目の指導を受ける前の会社の認識でも派遣契約は22年2月末ないしは遅くとも同年3月15日までに終了するつもりであったことからすると、会社とAらとの間に近い将来において雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性があったとは認められない。  (4) 以上のとおり、会社は、Aらとの関係で、労働会社法上の「使用者」に当たらないから、Aらが所属する組合の本件団交に応じなかったことをもって、労組法7条2号の不当労働行為が成立するとは認められない。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
兵庫県労委平成22年(不)第1号 棄却 平成23年6月9日
 
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