労働委員会関係裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る] [顛末情報]
概要情報
事件名  茨木産業開発 
事件番号  大阪地裁平成23年(行ウ)第63号 
原告  茨木産業開発株式会社 
被告  大阪府(処分行政庁:大阪府労働委員会) 
被告補助参加人  茨木産業開発労働組合 
判決年月日  平成24年7月4日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 Y会社がX組合に対し組合掲示板(掲示板の設置場所)を貸与しないこと(以下「本件不貸与」という。)が、労組法7条3号の不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事件である。
2 大阪府労委(以下「府労委」という。)は、Y会社に対し、①他のZ組合と同等の条件でX組合に組合掲示板を貸与すること及び②文書手交を命じた。
 本件は、これを不服として、Y会社が大阪地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、Y会社の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は、原告の負担とする。  
判決の要旨  1 本件不貸与が支配介入に当たるか(争点1)
(1) 労働組合による企業の物的施設の利用は、使用者との団交等による合意に基づき行われるべきで、使用者は、労働組合に対し、当然に企業施設の一部に掲示板を設置し貸与すべき義務を負うものではなく、貸与するかどうかは原則として使用者の自由に任されているといえる。
 しかし、同一企業内に複数の労働組合が併存している場合は、使用者は、各組合に対し中立的な態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきで、一方の組合の組織の強化を助けたり、他方の組合の弱体化を図るような行為をすることは許されず、使用者がこのような意図に基づき両組合を差別し、一方の組合に対し不利益な取扱いをすることは、同組合に対する支配介入となる。
 この使用者の中立保持義務は、掲示板の貸与という便宜供与の場合でも異ならず、使用者が、一方の組合に掲示板を貸与しておきながら、他方の組合に対して貸与を拒否することは、合理的な理由が存在しない限り、他方の労働組合の活動力を低下させその弱体化を図ろうとする意図を推認させ、支配介入に当たると解される。
 そして、合理的な理由の存否については、使用者が表明した貸与拒否の理由について表面的、抽象的に検討するだけでなく、一方の組合に貸与されるに至った経緯及び条件設定の有無・内容、他方の組合に対する貸与をめぐる団交の経緯及び内容、企業施設の状況、貸与拒否が組合に及ぼす影響等諸般の事情を総合勘案して判断しなければならない。
(2) 本件において、Y会社は、訴外Z組合に対しては、掲示板の貸与に応じていながら、X組合からの貸与の申入れに対しては、拒否し続けているから、合理的な理由が存在しない限り、本件不貸与は、X組合の活動力を低下させその弱体化を図ろうとする意図を推認させ、支配介入に当たると解される。
(3) この点、Y会社は、①訴外Z組合とX組合とでは、掲示板の必要性、設置要求期間や要求の強さに差があり、X組合は形式的に掲示板の設置を要求していたにすぎなかったこと、②Y会社がX組合に対しZ組合より広い組合事務所を貸与していることが、Z組合に対する不当労働行為として公序良俗に反し無効であることから、両組合の組合事務所の交換とX組合に対する掲示板の設置を同時に行うべきで、Y会社のその旨の交渉にX組合が応じなかったことを考慮すると、異なる取扱いには合理的な理由があると主張する。
 ア 前記①の点については、X組合もZ組合に遅れたとはいうものの、1年以上にわたり要求書に掲示板の設置を要求事項として挙げ、団交で掲示板の設置を要求し、掲示板の必要性を説明したり、早急に設置してほしい旨繰り返すなどし、平成21年9月以降は、掲示板の貸与についてZ組合とX組合に対する取扱いを異にしている状態となっていることからすれば、X組合の掲示板の貸与要求が形式的なものにすぎないとはいえない。また、X組合において、組合員への連絡手段としてのみならず、Y会社内の非組合員らに対する情報宣伝活動等のために、掲示板を利用する必要もあった。
 したがって、前記①の点に関するY会社の主張は理由がない。
 イ 前記②の点については、組合事務所は、常に組合員数に比例した面積を確保する必要があるとまではいえないし、実際も、当初、Z組合は、Y会社から移転を要請された平成21年9月までは、現在の組合事務所よりも広い部屋の貸与を受けていたところ、Y会社からの要請に同意して移転していること、また、両組合の各組合事務所の面積差はそれほど大きくないことに加え、Z組合からは平成21年12月の団交の際に組合事務所について詰問されたものの、その後は特に詰問されることはなく、不当労働行為として救済を申し立てられてもいないから、Y会社において、X組合とZ組合のそれぞれに貸与している組合事務所の面積について、組合員数に応じた取扱いをしていないことが、直ちに中立保持義務に違反しているとまでは評価できず、Y会社が主張するようにZ組合に対する支配介入に該当するとはいえない。
 しかも、組合事務所の貸与は、掲示板の貸与と必ずしも表裏のような密接な関連性を有するものでなく、掲示板の貸与問題と同時解決を図らなければならないほどの緊急性があるともいえない。むしろ、X組合は、旧校舎の際には、Z組合とともに掲示板の貸与を受けていたにもかかわらず、新校舎建て替え後は、Z組合と異なり、貸与を受けていず、掲示板の貸与を受ける必要性があることを考慮すると、X組合が組合事務所の交換より先に掲示板の設置を求めたからといって、その要求ないし対応が不当とはいい難く、組合事務所の交換はY会社と両組合の合意を要するのに対し、掲示板の設置・貸与はY会社さえ同意すれば直ちに実行可能なことも考慮すると、Y会社は、当該要求に応じてまず本件不貸与問題を解決すべきであったことは明らかであり、これらが、掲示板の貸与についてZ組合とX組合とを差別する合理的な理由になるとはいい難い。
 ウ なお、Y会社は、府労委が、本件申立ての適否の判断に影響を及ぼす事情である、X組合に対する従前の優遇状況、及び本件申立てがY会社に対する攻撃意思の表れであることにつき判断を回避し、支配介入の存否に関する判断を誤ったと主張する。
 しかし、同一企業内に複数の労働組合が併存している場合は、使用者としては、全ての場面で(すなわち、いかなる時点においても)各組合に対し中立的な態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきであるから、仮に、過去においてZ組合に比してX組合が優遇されていたことがあったとしても、それが直ちに現在における掲示板の貸与に関する中立保持義務違反を免責する合理的な理由にはならない。
 また、掲示板及び組合事務所の貸与等を巡る団交の状況等をみると、本件申立てがY会社に対する攻撃意思の表れである不当なものとは認めることはできず、Y会社の主張には理由がない。
(4) したがって、Y会社の本件不貸与は、これによってX組合の組合活動に支障をもたらし、その弱体化を図ろうとする意図を推認させるものとして、支配介入に当たる。
2 本件命令に裁量権の逸脱又は濫用があるか(争点2)
(1) 労働委員会は、不当労働行為によって生じた侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の回復、確保を図るために、個々の事案に応じて必要かつ適切と考えられる是正措置を決定し、これを命ずる権限を有するものであって、救済命令の内容の決定については、広い裁量権が認められている。
 したがって、裁判所は、労働委員会の救済命令内容の適法性が争われる場合でも、労働委員会の裁量権を尊重し、その行使が上記趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではない。
(2) Y会社は、府労委が掲示板の機能についての一般論を論じるのみで具体的な必要性について検討せず、また、その主文記載の方法による救済を要する理由の説明もないことから、本件命令につき裁量権の逸脱又は濫用があると主張する。
 しかし、府労委は、本件命令において、掲示板がX組合の「組合員以外の従業員にも組合活動の状況等の情報を伝達することに大きな意義があり」、X組合の「情報宣伝活動にとって重要な媒体であること」と指摘し、一般論でなくX組合における掲示板の必要性について判断を示しており、実際にも、掲示板を利用する具体的な必要性も相当程度あったと認められる。
 また、上記1のとおり、Y会社の本件不貸与には合理的理由がなく、それが、Y会社の不当労働行為によって生じた侵害状態と評価できることからすると、その状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の回復、確保を図るための是正措置として、Y会社に対し、X組合へのY会社に存在する他の労働組合(訴外Z組合)と同等の条件による掲示板の貸与を命じるのみならず、本件不貸与が府労委によって不当労働行為と認められたこと及び今後は同様の行為を繰り返さないことが記載された文書の交付を命じることが不必要又は不適切とはいえず、本件命令の主文記載の内容は府労委の裁量の範囲内と認めるのが相当である。
(3) 以上によれば、本件命令において府労委の裁量の逸脱又は濫用があり、違法であるとのY会社の主張は採用できない。
その他   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成22年(不)第33号 全部救済 平成23年3月14日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約237KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。