労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  ゴールド・スター 
事件番号  横浜地裁平成22年(行ウ)第11号 
原告  株式会社ゴールド・スター 
被告  神奈川県(処分行政庁:神奈川県労働委員会) 
補助参加人  港湾労働組合 
判決年月日  平成23年8月4日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 Y会社が、(1) X組合の組合員X1及びX2に対して平成20年夏期及び年末賞与を支給しないこと、交通補助費を遅れて支給したこと、歩合給手当等の賃金を減少させる配車差別を行った上、長距離の運送業務をさせなくなったこと、(2) 組合員X1に対して基本給の昇給を実施しないことが、不当労働行為に当たるとして、神奈川県労委に救済申立てがあった事件である。
2 神奈川県労委は、(1) 公平配車及び組合員X1及びX2が長距離運送業務に就いた際に支給されたであろう賃金相当額(支給済み額を控除し、年率5分相当額を加算した額)の支払等及び(2) 文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。
 本件は、これを不服としてY会社が横浜地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁はY会社の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用を含め、原告の負担とする。 
判決の要旨  1 Y会社がX1らに対する長距離の運送業務を命ずる配車をしなかったことによるX1らの各経済的不利益(不利益性)の有無について(争点1)
 X1の歩合給手当は、長距離の運送業務の割合が減少したため、大きく減少し、また、省エネ手当は、満額支給されずあるいは全く支給されなかった。かかるX1の歩合給手当及び省エネ手当の減少は、Y会社がX1を長距離運送業務に配車しなかったことが原因であり、X1は経済的な不利益を被った。
 X2の歩合給手当は、長距離運送業務の配車は1日だったため、他のコンテナ運転手よりも低額であった。したがって、Y会社がX2に対する長距離運送業務を命ずる配車をしなかったことにより、X2は経済的な不利益を被った。
2 Y会社がX1らに対して本件研修を命じて運送業務に従事させなかったことによるX1らの不利益性の有無及び不当労働行為性の有無について(争点2)
(1) 本件研修の不利益性の有無について(争点2ア)
 X1らの歩合給手当の減額の幅及び歩合給手当がX1らの賃金に占めていた割合に照らすと、本件研修の指示により、X1らが運送業務に就けなかったことは、経済的に不利益と認められる。
 一方、従前、同種の研修は事故を起こした運送業務の従業員及び遅刻者だったため、対象者になること自体が名誉とは言い難く、X1らに本件研修の趣旨、期間及び修了要件などが伝えられない状態で、本件研修を継続することは、運送業務による収入の機会が失われつつあるX1らにとって、精神的な苦痛があったと認められる。
(2) 本件研修の不当労働行為性の有無について(争点2イ)
 ①本件研修の開始時期は、本件24時間ストライキ後の、X1らが初めて出勤した日であること、②本件24時間ストライキは、X2の本件配転命令、X1らのX組合への加入、X1らへの配車状況の変化、夏期賞与等の支給差別等を経て、いったん成立した団体交渉の合意をY会社が翻意し、平成20年年末賞与についての団体交渉に出席拒否するなどの行為を続けていることを理由にされたこと、③Y会社が、X1らに本件研修の趣旨、目的、期間、修了要件も告げず、X1らは、本件研修の実施目的が明らかではなかったと認められること、④X1が本件研修を受ける詰所でのY会社による本件白板記載は、全体として、X1がX組合の組合員であることを強調するとともに、X1が一方的にY会社を破壊しようと企図し、X1の活動が他の従業員にとって望ましくないとの印象を与え同人を誹謗中傷する内容であったこと、⑤このような内容の本件白板記載を前に本件研修を受けることは、X1に強い羞恥心又は屈辱感を与え、本件白板記載の内容には本件研修の目的等を達するための必要性又は合理性も見出せないことを総合的に勘案すれば、Y会社は、X1らを監視下に置き、X1らの組合活動を嫌悪し、X1らに歩合給手当等を減少させる経済的な不利益及び精神的な苦痛を与えることを企図して、本件研修を命じたというべきである。
 よって、本件研修は、X1らが組合員であることを理由とした不利益取扱いの不当労働行為に該当する(労組法7条1号)。
3 Y会社が、X1に対して20年5月分からの基本給の昇給を行わず、X1らに対して同年夏期及び年末賞与を支給せず、交通補助費を遅れて支給したことの不当労働行為性の有無について(争点3)
(1) X1を昇給させなかったことについて(争点3ア)
 ①昇給が実施されなかったのは、X1がX組合に参加して間もない時期で、X組合がY会社に対し本件配転命令の撤回等に関する団体交渉の再三の申入れにかかわらず団体交渉が開催されないなど、労使対立が顕在化していた時期であったこと、②基本給の昇給は、X組合の組合員たるX1ら及び他1名を除く全従業員に対し実施されたことを総合すれば、Y会社がX1の基本給の昇給を実施しなかったのは、X1の組合活動を嫌悪し、同人が組合員であることを理由としたとみるべきで、不利益取扱いの不当労働行為に該当する(労組法7条1号)。
(2) X1らに対して20年夏期及び年末賞与を支給しなかったことについて(争点3イ)
 ①夏期賞与及び年末賞与が不支給とされたのは、Y会社とX組合の労使対立が顕在化していた時期であって、②Y会社は、X1に対して夏期賞与を支払うことを打診してはいるものの、重要な考慮要素となる親和会(Y会社と社員による会員組織)との間の支給基準を明示せず、③X2に対しては、夏期賞与支給の打診すらなく、④年末賞与については、X組合との交渉自体を拒否し、Y会社がX組合との間で、夏期及び年末賞与に関する合意に向けて真摯な努力をしたとも、努力する意思を有していたとも認められず、⑤親和会所属の従業員全員には賞与が支給されたことも総合すれば、これらの不支給は、Y会社が、X1らの組合活動を嫌悪し、組合員であることを理由として行った不利益取扱いの不当労働行為というべきである(労組法7条1号)。
(3) X1らに対して交通補助費の支給開始が遅れたことについて(争点3ウ)
 ①支給が遅延した時期は、労使対立が顕在化していた時期であり、②支給の遅延はX1らに限られ、③Y会社は、交通補助費の支給基準をX組合に開示せず一方的に決定した額を支給し、X組合の団体交渉には応じないなど団体交渉権を尊重する姿勢が窺われないことからすれば、X1らの組合活動を嫌悪し、組合員であることを理由として不利益取扱いをしたというべきで、不当労働行為に該当する(労組法7条1号)。
4 本件救済命令における救済方法の適法性について(争点4)
(1) 本件救済命令(1)の賃金支払部分について(争点4ア)
 ア 労働委員会の救済命令制度は、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るとともに、労使関係について専門的知識経験を有する労働委員会に対し、その裁量により個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し、命じる権限を委ねることを趣旨、目的とするから、労働委員会は、救済方法について、広い裁量権を有し、裁判所は、労働委員会の裁量権を尊重し、その行使が趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められる場合に限り、当該命令を違法とすべきである。
 イ X1らの出勤日にY会社がX1らに対し長距離運送業務に配車しなかったことは、不当労働行為意思による配車差別に当たり、また、Y会社が本件研修を行い長距離運送業務に配車しなかったことは、不当労働行為を構成する。したがって、X1らが長距離運送業務に従事したものとして取り扱うよう命じることは、裁量権の範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたるとは認められない。
 ウ X1らの欠勤は、Y会社の不当労働行為に端を発し、欠勤と不当労働行為の間に事実的因果関係を肯定できるから、本件救済命令が、これらの欠勤をなかったものとして扱うことを命じたことが、裁量権の逸脱ないし濫用にわたるということはできない。また、X1らの休職は、不当労働行為を発端とし、不当労働行為と欠勤との間に事実的因果関係を肯定できるため、X1らの不就労期間に対しバックペイを命じることが、救済命令の趣旨に反することはなく、裁量権の範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたるとは認められない。
 エ X組合は、本件救済申立ての「請求する救済の内容」に、X1らの不就労期間に対する賃金支払を含めていないが、労働委員会の救済方法等命令の主文について、労組法27条の12第1項は、「申立人の請求に係る救済の全部若しくは一部を認容し、又は申立てを棄却する命令をしなければならない」と定めるに止まり、具体的な規定をしていない。これは、多様な種類の不当労働行為に対してあらかじめ是正措置の内容を具体的に特定しておくことが困難かつ不適当であるため、労使関係について専門的知識経験を有する労働委員会に対して、その裁量により、個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し、命ずる権限を委ねたと解される。
 そして、救済命令の申立人が申立書に記載すべきとされる「請求する救済の内容」は、労働委員会が命ずべき救済の内容に関する裁量の範囲を画することがあるにとどまり、労働委員会の審理が「請求する救済の内容」の当否についての判断を直接の目的として行われるものではない。したがって、労働委員会の裁量権は、不当労働行為による被害の救済としての性質をもち、かつ、労働者の意思に反してはならないが、必ずしも「請求する救済の内容」に拘束されないと解される。
 そこで、不就労期間に対してバックペイを命じることは、不当労働行為による被害の救済としての性質を有し、X組合の申立ての趣旨に反しない。
(2) 本件救済命令(1)の歩合給手当支払部分について(争点4イ)
 X1はX組合に加入直後から配車差別を受け、同人は、不当労働行為の前後で、勤務場所及び賃金の支払方法が同一であるため、X組合に加入前の6か月間に同人に支払われた歩合給手当の平均額の差額の支払を命じることは、合理的である。
 一方、X2は、20年10月1日から横浜事業本部に配転となり、新たに歩合給手当支払の対象となるなど、不当労働行為が継続した期間の前後で勤務場所及び賃金の支払方法が異なるため、処分行政庁が、横浜事業本部における20年5月分ないし同年10月分の6か月間に同事業本部の運送業務の従業員に対して支払われた歩合給手当の平均額との差額を支払うよう命じることは、合理的である。
 したがって、処分行政庁の裁量権の行使が、その範囲を超え、又は著しく不合理であるとは認められない。
(3) 本件救済命令(1)の省エネ手当支払部分について(争点4ウ)
 X1は、配車差別の開始前は目標燃費を100パーセント達成して満額の2万2000円の支給を受けていたから、配車差別の開始日の属する20年5月分からX1をコンテナ輸送車の運転手として就労させた日の属する月の前月分まで、省エネ手当の額を1か月2万2000円として、その差額の支払を命じた本件救済命令は、裁量権の範囲を超えた又は著しく不合理であって濫用にわたる違法があるとはいえない。
(4) 本件救済命令(4)部分について(争点4エ)
 交通補助費の支給基準は存在したと認められるから、支給基準があることを前提とした本件救済命令に、是認される範囲を超えた又は著しく不合理であって濫用にわたる違法はない。
 また、X1らが通勤していなかった期間については、交通補助費という名称からは、実費弁償的な性質を有するとも考えられるが、他方で、①親和会は、交通補助費導入の要望理由として、ガソリン価格高騰のほかに、原料の値上げに伴う物価上昇もあげていたこと、②Y会社と親和会との交渉の結果、名目は能力給とされていたこと、③Y会社は、X2が出勤しなくなった20年12月に通勤手当は支給しない一方、交通補助費を支給していたことに照らせば、交通補助費は、実費弁償的な性質を有せず、通勤の有無にかかわらず支払われる手当と認めるのが相当である。
(5) 本件救済命令(1)ないし(4)の各遅延損害金部分について(争点4オ)
 労働委員会の救済命令は、不当労働行為によって生じた状態を直接是正することにより、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図ることを目的とするから、本件でバックペイを命じられた各賃金等に対する遅延損害金の始期を、不当労働行為がなければ本来各賃金等が支払われるべきであった日としたことにつき、処分行政庁に是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたる違法があるとはいえない。
(6) 本件救済命令(5)部分について(争点4カ)
 以上のとおり、本件救済命令の事実認定及び救済方法に違法は認められないから、文書手交を命じた本件救済命令(5)に、取り消されるべき違法はない。 

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神奈川県労委平成20年(不)第32号 一部救済 平成22年1月20日
 
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