労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名 杉森学園
事件番号 福岡高裁平成21年(行コ)第23号
控訴人 学校法人杉森学園
被控訴人 福岡県、(代表者兼処分行政庁:福岡県労働委員会)
被控訴人訴訟参加人 福岡県私立学校教職員組合連合、杉森学園教職員組合
判決年月日 平成21年12月15日
判決区分 棄却
重要度  
事件概要 本件は、Y学園がY学園教職員組合(以下「組合」という。)及びその上部団体である県私立学校教職員組合連合(以下「私教連」という。)に対して、①平成17年3月10日に組合と締結した確認書(以下「確認書」という。)の内容に反して、主任を任命したこと、②職制に関する早期退職優遇制度の導入等を議題とした団体交渉において、不誠実な対応を行ったこと、③「気になる発言集」等の文書送付や組合を批判する発言を行ったこと、④団体交渉の開催条件に組合が応じないことを理由として、団体交渉を拒否したこと、⑤団体交渉を開催しないまま、組合員に夏期一時金を支給したことがそれぞれ労組法7条2号、3号の不当労働行為に当たるとして、組合及び私教連が福岡県労委に救済を求めた事件である。
 福岡県労委は、Y学園の行った行為は不当労働行為に該当するとし、Y学園に対し、①団交応諾、②ポスト・ノーティスを命じ、その余の申立てを棄却した(以下「本件命令」という。)。
 Y学園は、本件命令を不服として、その取消しを求めて福岡地裁に提訴したところ、同地裁は、Y学園の請求を棄却した。
 本件は、この地裁判決を不服として、Y学園が、福岡高裁に控訴した事件である。
判決主文 本件控訴を棄却する。(福岡県労委がなした一部救済命令を支持した福岡地裁判決を維持)
判決の要旨 1 争点(1)(Y学園が、平成18年6月5日付け通知(以下「6・5通知」という。)で示した団交開催条件を組合が受け入れないことを理由に、団交拒否を行ったことが、不当労働行為に当たるか)及び争点(2)(団交応諾を命じる本件命令第1項及び団交拒否についてポスト・ノーティスを命じる本件命令第2項につき、救済の利益が消滅したか)について
(1)Y学園が6・5通知で示した団交開催条件(団交ルール)に一応合理性があるとしても、団交ルールは、労使間の団交を円滑かつ実効的に行うためのものであるから、本来労使間で合意の上取り決めるべきものである。そして、従前は、Y学園と組合間において団交ルールが定められていなかったところ、平成18年4月12日、同月20日及び同年5月24日の団交での混乱は一時的なものであったから、Y学園が示した団交ルールが確立されなければ団交が開催できないとか、又は、開催しても無意味なものとなるというような特段の事情はうかがえない。
さらに、6・5通知は、団体交渉時間が2時間を超える場合や組合の交渉人数が10人を超える場合を認めない記載になっている。しかし、交渉事項、進展状況によっては、一定の結論に到るまで相当の時間を要する場合があり得ると考えられるから、団交ルールにおいて団交時間を限定するのであれば、このような場合に対処するルールを定めることも必要となると考えられる。 また、団交の交渉人数についても、従前の団交では格別制限されたことはなかったが、同様の混乱状態が頻繁に生じていた事実はうかがわれないこと等に照らせば、Y学園が組合との協議を経ずに交渉人数を常に10名以内と制限することに固執することが相当であったとも言い難い。
以上のとおり、Y学園が6・5通知で示した団交ルールを合意した後でなければ団交に応じないとして、団交拒否を行ったことについて、正当な理由は認められない。
(2)Y学園は、Y学園が団交を拒否した事実はなく、本件命令後も上記の条件で平穏裏に団交を重ねていることからすると、救済の利益が存在しない旨主張する。
しかし、本件命令における救済の利益が消滅していないことは、原判決説示(形式的にはY学園と組合との間で団交が行われているものの、それは、組合がY学園の示した団交ルールに従ったからにすぎず、組合がこれに応じなければ、Y学園が団交に応じない可能性は高いというべきである。そうだとすると、本件命令以後においても、Y学園が団交ルールを受け入れないことを理由に、団交拒否をしないようにする必要性は存在している。)のとおりであり、平成20年10月以降の団交状況を斟酌しても、この判断は左右されない。
2 争点(3)(Y学園が、平成17年確認書に反して主任を任命したことが、不当労働行為に当たるか)について
平成17年確認書は、その有効期間についてY学園と組合の主張が対立し、結局、有効期間が明記されないまま作成されているのであるから、同確認書は期間の定めのない労働協約として有効に成立したこと及び同協約に違反したY学園に対しポスト・ノーティスを命じた本件命令が正義に反するなどといえないことは、原判決説示のとおりであり、Y学園の主張は採用できない。
3 争点(4)(Y学園が、早期退職優遇制度等を議題とする団交において、組合に対し、人事計画を提示しないなど、不誠実な対応をしたことが、不当労働行為に当たるか)について
Y学園は、①平成18年度と平成8年度との学生数、収入、支出等を比較すれば、最低でも約2割、約10名程度の教職員を減少させることが学園経営上必須の課題であることは容易に推計でき、その数値に加えて説明や資料は必要でない。②早期退職優遇制度は、退職奨励策にすぎず、人事計画を示さないことによって、組合がどのような具体的な不利益を受けたかも明らかでない。過剰人員は明らかであり、具体的整理案を示さないことは、雇用の保障につながるから、不誠実団交と評価されるいわれはない旨主張する。
しかし、①について、Y学園が示す数値からは、学園経営上経費の節減が必要であるとはいえても、Y学園主張の教職員数減少の必要性を肯定できる合理的根拠が示されているとはいえず、Y学園主張の推計をすることはできない。
②について、Y学園理事長の発言からすれば、同制度が整理解雇と関連づけられていることは明らかであるから、同制度をもって単なる退職奨励策と認めることはできない。整理解雇にまで及ぶY学園の提案等の内容は、教職員の身分に関わる極めて切実な労働条件であるから、組合の早期退職優遇制度に関する要求如何にかかわらず、教職員10名削減の根拠となり得る、入学者数の算定根拠、生徒数の推移の根拠及び具体的方策、それらと早期退職優遇制度及びこれに伴う整理解雇によって10名の退職者を作出しなければならない理由、算定根拠等をY学園が組合に示すべきであり、Y学園がこのような人事計画を示さないまま、あるいは人事計画を示さないことについて合理的な説明もしないまま、早期退職優遇制度を施行させることは、同制度が整理解雇と関連づけられていたことからして、組合ないしその組合員が不利益を受けることは明らかである。
Y学園は、人事計画を示すことなく、早期退職優遇制度を施行させたのであるから、Y学園の対応は誠実団交義務に違反する。
4 争点(5)(Y学園が、平成14年確認書に反し、組合との団交を経ずに、組合員に対して平成18年度夏期一時金を支給したことが、不当労働行為に当たるか)について
平成14年確認書が労組法14条に定める労働協約に該当し、同確認書8項(五)が組合との妥結を一時金支給の要件とするものであることは、原判決説示のとおりであり、単に振込遅延に異議を言わないことを確認したものとは解されないから、Y学園の主張は採用できない。

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
福岡県労委平成18年(不)第10号 一部救済 平成19年11月5日
福岡地裁平成19年(行ウ)第64号 棄却 平成21年4月22日
 
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