労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名 ファーストサービス
事件番号 津地裁平成20年(行ウ)第17号
原告 有限会社ファーストサービス
被告 三重県(代表者兼処分行政庁 三重県労働委員会)
被告補助参加人 三重一般労働組合
判決年月日 平成21年3月26日
判決区分 棄却
重要度  
事件概要  本件は、労働者派遣業を業とするY会社が、①合同労組であるX組合のX1組合員らの3名(X1、X2及びX3。日系ブラジル人の家族)の平成18年6月分賃金について不利益な取扱いをしたこと、②同組合員らの問題解決のためX組合が申し入れた団体交渉を拒否したこと、③Y会社事務所を訪れたX3及び同行した組合員に対して、Y会社の代表取締役Y1が威嚇的言動を行い、X組合に対しては組合活動を萎縮させる内容の文書をFAXしたことがそれぞれ不当労働行為であるとして争われた事件である。
 三重県労委は、Y会社に対し、①団交応諾、②組合員に対する威嚇的言動及びX組合に対する組合活動を萎縮させる内容のFAX送付による支配介入の禁止、③上記①及び②に関する文書交付を命じ、X3がY1の暴言によりうつ病となったことに対する損害賠償の支払いを求める申立てを却下し、その余の申立てを棄却した(以下「本件命令」という。)ところ、Y会社は、本件命令を不服として、その取消しを求めて津地裁に提訴した。同地裁は、Y会社の請求を棄却した。
判決主文 Y会社の請求を棄却する。
判決要旨 1 争点1(Y会社が労組法7条2号の「使用者」に当たるか。)
  労働組合法第7条は、労働者の団結権を侵害する一定の行為を排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的とする規定であり、この規定は正常化すべき労使関係、すなわち使用者との間の労働関係の存在を前提としているから、通常、同条2号にいう「使用者」とは、現に労働契約関係に立つ使用者というと解される。もっとも、労働契約関係が存在した間に発生した事実を原因とする紛争や労働契約関係の終了に関して争いがある場合には、当該紛争が健在化した時点で当該労働者は既に退職していたとしても、未精算の労働契約関係が存在すると理解し、その場合も、未だ、当該労働契約関係に係る使用者は、同号の使用者に当たると解するのが相当である。
  これを本件について見るに、認定のとおり、原告とX1との間の労働契約は、未だ確定的に終了したとは認めることができないから、Y会社が法7条2号の使用者に該当するものということができる。また、X2及びX3とY会社との間の各労働契約は、X2及びX3の自主退職により終了しているものの、なお、労働契約関係が存在していた間に発生した6月分賃金の未払という問題が残存しており、Y会社との間で未精算の労働関係が存在していると解されるから、未だ、同人らとの関係でY会社が法7条2号の使用者に該当するものということができる。
2 争点2(Y会社が応ずるべき団体交渉事項が存在するか。)
  Y会社とX1との間の労働契約が未だ確定的に終了したものとは認められないから、X1の離職経緯を団体交渉事項とすることは相当である。
  認定の事実に照らすと、現時点でもなお、X1、X2及びX3の6月分賃金については明細・計算方法に不明な点が残存していることは明らかであり、これに照らすと、X組合の主張するとおり、6月分の賃金の明細・計算方法及び振込の経緯に関して、X1ら及びX組合に対して説明すべき点があるといえるから、X組合には団体交渉の利益があるといえる。
3 争点3(Y会社の団体交渉拒否に正当事由があるか。)
  認定した結果によれば、Y会社とX1との間には、X組合の団体交渉申入れの時点で、解決されていない団体交渉事項があることが明らかであり、これにつき、Y会社が団体交渉を拒絶する正当な理由があると認めることのできる証拠はない。
4 争点4(Y1社長の言動は、労組法7条3号の不当労働行為に該当するか。)
  Y会社は、X組合がY1の言動を立証する趣旨で提出した同日の映像は、著しく反社会的な手段によるのであるから、違法収集証拠であって証拠能力はないと主張する。
  そこで検討するに、確かに、民事訴訟法の基本原則である公平の原則に照らし、違法な手段方法によって入手した証拠を事実認定の資料に供することが著しく信義に反すると認められる場合には、その証拠能力は否定されるべきであり、例えば身体的精神的自由の拘束下で供述を強制されその内容が録音テープにより記録化された場合のように、証拠の入手方法に強度の違法性が認められる場合には、将来の違法行為の抑制の見地からもその証拠能力は否定すべきといえる。しかし、訴訟における真実発見の要請をも考慮するとき、一般的人格権侵害の事実のみで直ちにその証拠能力を否定するのは妥当とはいえず、撮影された内容自体が個人の秘密として保護に値するのか、その内容が公共の利益に関する事実か否か、訴訟において当該証拠の占める重要性等を総合考慮した上で、その証拠能力の有無を決定するのが相当と解すべきである(東京高裁昭和52年7月15日判決・判例時報867号60頁、盛岡地裁昭和59年8月10日判決・判例タイムズ532号253頁ほか参照)。
  これを本件についてみるに、撮影自体はY1の許可を得ていないものであって、その点で違法性があるとしても、撮影された内容は、Y1のプライバシーや個人の秘密として保護すべき内容に当たるとは言うことができない、他方、本件は、Y1の8月8日における言動が不当労働行為に当たるか否かがまさに争点のひとつとなっているのであり、本件証拠は、そのY1の言動を、その場で記録したものであって、証拠としての価値を有することが明らかである。そこで、これを総合考慮すると、本件証拠については、未だ証拠能力を否定するほどの違法性を有するものとは解することができない。
  このことを含め、争点4を検討すると、Y1はX組合につき、「強請り タカリや」と評して攻撃した点及びX3に対して、何ら脈絡なく、X組合への加入を「恥ずかしいやろ。」という言葉で批判した点は、いずれも、明白に法7条3号にいう不当労働行為に当たるものと解することができる。
5 争点5(Y会社のFAX文書の送信が労組法7条3号の不当労働行為に当たるか。)
  Y会社は、8月25日にX組合に対して、X1らに関し、ファクシミリで文書を送信し、その内容は、単にX組合のX1らに関する団体交渉の申入れに反論するのみでなく、Y会社がX組合を「きょうを限り労働組合とはみとめがたい。」、「何故組合は嘘八百を並べて街のダニみたい ゆすりたかりするのか」等との記載を含むものであり、その内容からして、労組法7条3号の不当労働行為に当たることは明らかである。
  以上によれば、Y会社がX組合の団体交渉要求を拒否したこと、Y1の8月8日の言動及び8月25日のY会社のファクシミリ送信がいずれも不当労働行為に当たると認定して決定した本件命令は適法であると認めることができ、したがって、Y会社の請求は理由がない。

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顛末情報
行訴番号/事件番号 判決区分/命令区分 判決年月日/命令年月日
三重県労委平成18年(不)第3号 一部救済 平成20年3月21日
 
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